酒を飲みながら交わす会話ほど身勝手なものはないだろうが、その時の彼から感じた情熱は間違いなく本物だった。
「彼女と別れた」
きっぱりと言い切った先の目線にあるものは虚ろさだけだった。
「これから俺はどうして生きて行ったらいい?」答えはない。
「明日には帰るんだよな? 最近独りが寂しくて……」
わかる。俺も同じような経験はしていた。
「今は憎しみしかねえよ。……でも、それだけあいつのこと好きだったんだよな、きっと」
言えてる。わかってんじゃねえか。
「でもさ、俺はあいつに結局振り回されたわけだよな。好いように扱われただけ。結局、俺なんて」
落ち込むな馬鹿。落ちたっていいことないぞ。
言葉にして彼に伝えても、耳に入ってそうもなかった。彼はひどく酔っていて、好きだった相手のことをひたすら語り、そして語る出来事の数々が彼女との思い出話で、しかもそこには「あいつは良い女だった。人間が出来てた。あれほど性格の良いやつもいないだろうな」
全然憎んでなんかいないじゃないか。むしろまだ好きなんだろ。はっきり言えばいいのに。
「くそっ! もう女なんか信じねえ! もう信じらんねえっっ!!」
でも、結局優しくしてしまうくせに。
言葉にはしなかった。心の中で毒づいた。本当に孤独になれるやつなんていやしないんだから。お前だって同じだよ。
*
「好きなやつが出来た」
一ヶ月後に会った彼はそう言った。
「彼女の顔、見るか?」
答えるまえにケータイの画面を差し出す。満面の笑みをたたえながらそんなこと言われても困る。見たくもない。
彼は僕に彼女とのツーショットプリクラを見せた。僕はプリクラの中で彼女にキスをされて幸せそうな姿の彼を直視できなかった。
「どうだ? ん? かわいいだろ?」
そうだね。
「真美っていうんだ。一個下なんだけど、性格は子供っぽくて、妹みたいに可愛いんだ」
お前の好みは頼りがいのある、母性のある年上の女性だったじゃないか。
「今度、会わせてやろうか? ん? どうだ?」
「そうだね。もし、機会があったら」
「そういうのは遠まわしに拒絶してるんだってこと、わかって言ってんのか?」
「いや、そういう意味じゃ」
「いいからいいから! 妬んでんだろ? 俺がこんな可愛い彼女作っちゃってるからさっ! 大丈夫、お前にもすぐに出来るって。心配すんな、俺にだって出来たんだ。何せ人間の半分は女なんだから」
そういうことじゃないんだけどな。
ボンボンと肩を思いきりよく叩いて、上り調子に浸る彼は、少なくとも一ヶ月前の彼よりは元気そうだった。いや、元気がありすぎかもしれない。でも、それで僕にとっては十分だった。
「そうだ、なんなら女の子紹介してやろうか? 彼女の友達にフリーの子いるぜ。その子もめっちゃ可愛いんだ。そうだっ! ダブルデートしようぜ、ダブルデート! 絶対楽しいってっっ!!」
「いやいやいや、そんな勝手に話すすめないでよ。俺にだって好きなやつの一人や二人、いるんだからさ」
「え? そうなの!?」
「うん」
まだ誰にも言ったことはないんだけどね。僕は彼にむかってにこやかにほほ笑んだ。
*
────数時間後 東京
「そろそろ時間か」
僕は彼の部屋を後にする。就職活動で東京に来るたびに彼のアパートにお邪魔していた。彼は嫌な顔一つせず、僕を迎え入れてくれていた。今日で何度めだろうか。
「でも、ホントに良かった。元気そうでさ。一ヶ月前はどうなることかと思ってたけど」
「いやー! あん時は悪かったな! でももう元気バリバリ100%!」
あははっ、と乾いた笑いが玄関に響いた。
「じゃ、行くよ」
「おう。元気でな。また来いよ。いつでもいいからな」
「ありがと」
「今度会うときまでに、お前にも彼女が出来てるといいな」
彼はほんの親切心で言ったのかもしれない。でも、そんな親切心なんていらなかった。むしろ、やめてほしかった。心に痛いほど刺さる。
「……うん」
「あ、いや、そんな落ち込むなって」
僕の顔はそんなに落ち込んだ表情だったのか。それほどまでに僕は。
「ほら、すぐ出来るって! なっ!」
肩をポン、と叩かれて、それで僕の箍が一瞬で外れてしまった。
「…………っえ」
「好き」
「…………っ!」
「ずっと好きだった。ずっと、10年前から、ずっと……」
僕は中学生の頃、彼を好きになった。恋愛感情を芽生えさせ、でも彼にその想いを告げることが出来ないまま10年という月日が経ってしまっていた。あまりにも長すぎた。
「好き。ずっと、僕と一緒にいてほしい。幸せにするから」
頼りがいもあるし、面倒見だし、大らかだし、何より君を一番に僕は愛している。その想いは誰にも負けない。君の彼女なんて比にならないほどに。
「・・・…いやっ、ちょっと…・・・おい…っ……ってば」
「離さない」
僕は君を離さないよ、もう。だって君が僕のその勇気のない背中を押しだしてくれたんじゃないか。だったら僕はその期待に応えるべきだと思ったんだ。君の、おかげだ。
「男の楽しみ方、教えてあげる」
「彼女と別れた」
きっぱりと言い切った先の目線にあるものは虚ろさだけだった。
「これから俺はどうして生きて行ったらいい?」答えはない。
「明日には帰るんだよな? 最近独りが寂しくて……」
わかる。俺も同じような経験はしていた。
「今は憎しみしかねえよ。……でも、それだけあいつのこと好きだったんだよな、きっと」
言えてる。わかってんじゃねえか。
「でもさ、俺はあいつに結局振り回されたわけだよな。好いように扱われただけ。結局、俺なんて」
落ち込むな馬鹿。落ちたっていいことないぞ。
言葉にして彼に伝えても、耳に入ってそうもなかった。彼はひどく酔っていて、好きだった相手のことをひたすら語り、そして語る出来事の数々が彼女との思い出話で、しかもそこには「あいつは良い女だった。人間が出来てた。あれほど性格の良いやつもいないだろうな」
全然憎んでなんかいないじゃないか。むしろまだ好きなんだろ。はっきり言えばいいのに。
「くそっ! もう女なんか信じねえ! もう信じらんねえっっ!!」
でも、結局優しくしてしまうくせに。
言葉にはしなかった。心の中で毒づいた。本当に孤独になれるやつなんていやしないんだから。お前だって同じだよ。
*
「好きなやつが出来た」
一ヶ月後に会った彼はそう言った。
「彼女の顔、見るか?」
答えるまえにケータイの画面を差し出す。満面の笑みをたたえながらそんなこと言われても困る。見たくもない。
彼は僕に彼女とのツーショットプリクラを見せた。僕はプリクラの中で彼女にキスをされて幸せそうな姿の彼を直視できなかった。
「どうだ? ん? かわいいだろ?」
そうだね。
「真美っていうんだ。一個下なんだけど、性格は子供っぽくて、妹みたいに可愛いんだ」
お前の好みは頼りがいのある、母性のある年上の女性だったじゃないか。
「今度、会わせてやろうか? ん? どうだ?」
「そうだね。もし、機会があったら」
「そういうのは遠まわしに拒絶してるんだってこと、わかって言ってんのか?」
「いや、そういう意味じゃ」
「いいからいいから! 妬んでんだろ? 俺がこんな可愛い彼女作っちゃってるからさっ! 大丈夫、お前にもすぐに出来るって。心配すんな、俺にだって出来たんだ。何せ人間の半分は女なんだから」
そういうことじゃないんだけどな。
ボンボンと肩を思いきりよく叩いて、上り調子に浸る彼は、少なくとも一ヶ月前の彼よりは元気そうだった。いや、元気がありすぎかもしれない。でも、それで僕にとっては十分だった。
「そうだ、なんなら女の子紹介してやろうか? 彼女の友達にフリーの子いるぜ。その子もめっちゃ可愛いんだ。そうだっ! ダブルデートしようぜ、ダブルデート! 絶対楽しいってっっ!!」
「いやいやいや、そんな勝手に話すすめないでよ。俺にだって好きなやつの一人や二人、いるんだからさ」
「え? そうなの!?」
「うん」
まだ誰にも言ったことはないんだけどね。僕は彼にむかってにこやかにほほ笑んだ。
*
────数時間後 東京
「そろそろ時間か」
僕は彼の部屋を後にする。就職活動で東京に来るたびに彼のアパートにお邪魔していた。彼は嫌な顔一つせず、僕を迎え入れてくれていた。今日で何度めだろうか。
「でも、ホントに良かった。元気そうでさ。一ヶ月前はどうなることかと思ってたけど」
「いやー! あん時は悪かったな! でももう元気バリバリ100%!」
あははっ、と乾いた笑いが玄関に響いた。
「じゃ、行くよ」
「おう。元気でな。また来いよ。いつでもいいからな」
「ありがと」
「今度会うときまでに、お前にも彼女が出来てるといいな」
彼はほんの親切心で言ったのかもしれない。でも、そんな親切心なんていらなかった。むしろ、やめてほしかった。心に痛いほど刺さる。
「……うん」
「あ、いや、そんな落ち込むなって」
僕の顔はそんなに落ち込んだ表情だったのか。それほどまでに僕は。
「ほら、すぐ出来るって! なっ!」
肩をポン、と叩かれて、それで僕の箍が一瞬で外れてしまった。
「…………っえ」
「好き」
「…………っ!」
「ずっと好きだった。ずっと、10年前から、ずっと……」
僕は中学生の頃、彼を好きになった。恋愛感情を芽生えさせ、でも彼にその想いを告げることが出来ないまま10年という月日が経ってしまっていた。あまりにも長すぎた。
「好き。ずっと、僕と一緒にいてほしい。幸せにするから」
頼りがいもあるし、面倒見だし、大らかだし、何より君を一番に僕は愛している。その想いは誰にも負けない。君の彼女なんて比にならないほどに。
「・・・…いやっ、ちょっと…・・・おい…っ……ってば」
「離さない」
僕は君を離さないよ、もう。だって君が僕のその勇気のない背中を押しだしてくれたんじゃないか。だったら僕はその期待に応えるべきだと思ったんだ。君の、おかげだ。
「男の楽しみ方、教えてあげる」