夢の中で耳障りな鳥の啼き声が聞こえていた。
断続的に聞こえてくるその音に私は嫌気が差していた。
せっかく夢の中にいたのにどうして現実に引き戻されなければならないのだろう。
しかもこの引き戻し方ときたらたまらなく苛立たしい。早く止め、啼き止め!
でもそんなすぐに止むわけない。
そんなこと分かってる。
けど、嫌なものはとにかく嫌なの!

「ふぅ…」
黒い染みが所々についた白い天井を見上げて、私は夢から醒めたことを実感した。
その白い部分も全体的に黒ずんでいて綺麗な白色じゃない。
なんか、私と彼の関係のようだ。
隣に目をやると壁と向かい合った彼の姿があった。のんきに寝息を立てて眠っている。
私はこの男といつまで暮らすつもりなのだろう。
こうして暮らし始めて5年が経つが彼は未だにフリーターで、今はバイトすらしていない。
初めは夢があるからそのために定職には就かないとか言ってたけど、その夢も本当のところ追いかけているかどうか、今となっては怪しい。もしかしたら私は騙されていたのかもしれない。初めから夢なんてなくて、ただ都合のいい彼女のもとで気ままな紐生活を堪能したかっただけではないのか。
ここ最近、心の底からそう思う。今後の彼との将来が心配だった。
ピリリリリと断続的に鳴っている音のほうに目を向けると、目覚ましのアラーム音ではなかったことに溜息を吐き出した。
この時間にかかってくる電話と言えば一つしかなかった。
仕事先の上司である課長からの電話。たぶんそうに違いない。直感的にそう感じ取れた。
「はい」
彼を起こさないようにしてベッドからのそりと降り立つとケータイを片手に隣の部屋へ移った。
そういえばケータイの着信音で彼も起きてきたらまずったな。今から起きてくることもありえるけど。
まあ、そのときそのときでいいや。またそのとき考えればいい。
通話ボタンを押して受話口を耳にあてた。
「もしもし。俺だけど」
彼の口調はずいぶんと落ち着いていた。というよりは暗かった。それが適切な印象だ。
「あのさ。今、いいのか? 彼氏、いるんだろ?」
それを分かってるならどうして今電話してきたのだろう。以前はそういう無茶するところとか、身勝手なところとか、分かっててでもやらなきゃ気が済まないから結局私に迷惑かけるようなそういうところが愛らしかったのに、今となってがただウザイだけ、私が困るだけだ。彼は本当に私のことを考えてくれているのだろうか。私のことを一番に考えていると言っておきながら結局は自分のことしか考えていないじゃないか、バカかこの男は。
「大丈夫よ。彼はまだ寝てるし、私の隣の部屋に移ったから」
「そうか」
「それよりもどうしたの? こんな朝早く。まだ7時よ? しかも今日は日曜日、仕事は休みじゃない」
「いや、急に君の声が聞きたくなって。とにかく君に電話したくて」
「そうなの」
「なあ、今から会えないかな」
「ちょっと待って…」
私は戸惑った。休日に浮気相手と会うのだけはこれまで一切しないように気をつけていた。
会うのは仕事のある日だけで、二人っきりで会うのも仕事の終わった後のことだった。
「あのさ、会えないかな」
私の返答を待つのがそんなに苦痛なのか、彼は私の返答を待たずして言葉を繰り返してきた。
「なあ、どうなんだよ」
しまいには荒くなる口調だ。こんな男と浮気をし出してしまったのか、私は。
このまま返答渋っていたらめんどくさいことになるだけだな、と感じ私は彼と会うことに決めた。
「いいよ、会おう。どこに行けばいいの?」
「ほ、本当か? じゃあ10時にいつものカフェで」
「わかった」
部屋を出るとテーブルについた。
さっきから胸の動悸が激しく打っている。憧れの人と会うあのドキドキ感とは違う、彼氏にばれたらどうしようという不安でもない。
なんだろう? これは。本当にわからない。本当に自分のことがわからない。

しばらくテーブルの上でぼーっとしていたら奥の部屋からギシィッと物音がした。
やがて襖の柱に額をぶつけて彼が起きて来た。
「痛ったぁ~…」
涙目になりながら彼が私の対面に座る。
「またやったの?」
「うん」
「いい加減気をつけなよ。てか、学習しなよ」
「だって…」
朴訥と喋る彼はまだはっきり目覚めていないのか、瞼が半分閉じられたままだった。
「コーヒーでも飲む?」
「うん」
自分の分も入れて彼にコーヒーを手渡すとズズズっと音を鳴らしながら彼が飲む。
猫舌のくせにコーヒーは熱いままが好きという彼を以前は可愛らしく見えていたのに、今ではその面影がない。私はこの男のどこに惹かれて一緒になったのだろう。不思議だ。宇宙の神秘と同じくらいに謎だ。

                   

「じゃあそろそろ私出るね」
「どこかに行くの?」
彼が淋しそうな眼差しで私を見つめていた。
こういう子供っぽいところが好きだった。図体は人一倍でかいくせに、心は寂しがり屋な子供っぽいところがすごく愛らしい。今でもこの可愛さは私の中で健在かも。
「うん。急に得意先のところに行かないといけなくなっちゃって」
「一日中?」
「ううん。午後には戻るわ」
でもたまにもう少し大人になってくれてもいいんじゃないかって思う。
もう少し男らしいところとか、父性とか出してくれたっていいじゃないかって。
私だってたまには思いっきり子供になりたいよ、4歳児みたいに甘えたいよ。

急いで支度をして、彼に怪しまれないように仕事に行く格好をした。
浮気相手と会うだけのことだからそれほど気張らなくても良かったのに。もう少し彼への言い訳を考えて言うべきだったなと反省した。その時になって突然彼が私の部屋に入ってきた。
「ど、どうしたの?」
まさか今からヤリたいとか言い出すんじゃないだろうな、と思いながら私は隠す必要のない相手を前に反射的に胸のあたりを手で多い隠していた。
「いや、ケータイ、鳴ってたから。持ってきた」
「あ、ああ…ありがと」
しまった。ケータイ、リビングに置きっぱなしだった。もし彼にケータイ見られてたらどうしよう。
…まあ、いいか。その時はその時だ。
「行ってらっしゃい」
彼の優しい微笑みを受けながら私はアパートの部屋を出た。



待ち合わせ場所にはすでに彼の姿があった。
テラス席で冷たいアイスコーヒーを飲んでいた。
私が彼の向かいに座ると、即座に店員がやってきて、私はアイスティーを頼んだ。
私は彼のほうから何か口に出すのを待っていた。会いたいと言って来たのは向こうからだったし、来たときに声をかけるタイミングを失ってしまったからだ。
「…」
しかし、彼からの言葉が得られる気配はなかった。
彼は氷が溶けて、小さくなっているアイスコーヒーをストローでつつき、私は陽の光を受けて輝く金色のアイスティを飲んでいる。
私は彼からの第一声を待っている。
私たちの周りでは、同じようなテーブルに座って、各々気ままに過ごす人々がいる。
忙しそうにオーダーを聞く店員、オーダーされた品を運ぶ店員が視界に入る。
皆、自分のことに精一杯で過ごしていた。

「ねぇ」

こらえ切れず私から話を切り出した。
彼は俯いたまま、まだストローを弄んでいた。グラスの中の氷はすでに溶けている。
「一体どうしたのよ」
「うん…」
うん、と言った言葉の後ろに言葉にできない余韻みたいなものが見て取れた。
「急に電話なんて…それも日曜に」
「すまん…」
元気がなさ過ぎる。と感じながらもその核心部分にはまだ触れないでおこうと決めた。
私からむざむざその扉を開く必要もない。というか、わざわざ開きたくはない。
彼とは浮気相手という関係性で成り立っているのであって、それ以上でも、それ以下でもない。少なくとも、私はそのつもりだ。
「なぁ」
短い彼の言葉が、なんだかちぎり取られた紙の破片のような気がした。
大きさや、形がばらばらで、乾き具合とか湿り具合とか、その様相とか、全部全部が。
「なに?」
「さっき妻と離婚してきたよ。俺と、…結婚しよう」
時間が止まる、っていうのはこういうことなのかと、ちょっと思った。
ちょっとだけだけど、少し自分が小説の中にいる人物みたいに思えて、でもそんなわけないとすぐ現実感が私の頭の中を埋め尽くして、目の前にいる彼のことを冷静に見ようと努めはじめた。
「なに、言ってるのよ。またそんな、急に」
彼の言葉が頭の中で何度も反芻する。
まだどこかでぼやけていた頭の中で、闇の中で浮かんでは消えるみたいに。
「冗談でこんなこと言ってるんじゃないんだ! 妻にも離婚届叩きつけてきたんだ! 俺にはもう君しかいないんだよ!!」
ガタガタッ、と椅子を背後に倒しながら彼は昂奮した様子で私に乱暴に言い放った。
「結婚しよっ? な? いいだろ?」
「ちょっ…」
「俺と結婚してくれよ、もう俺にはお前しか見えないし、お前以外誰も考えられないんだ」
「ちょっ…と落ち着いて、ね? 冷静になって」
「俺は冷静だよ、ずっと考えてたんだ。君との将来を」
「私との将来って…。だって私たちはお互いに浮気目的だったじゃない? なのにそんなこと言われても」
「困るのか?」
うん、と小さく呟きながら頷くと、彼は激昂したように突然表情を強張らせた。
「そんなに今の男が好きなのか? そんなに就職もしないで、夢ばっかり追いかけてるだらしない男が好きだって言うのか? お前がいつも愚痴ってたあれは一体なんだったんだよ!」
「はぁ…」
なんだか、疲れた。
「とにかくね、落ち着こ。ほら、周りの人が見てる…」
彼が振り返ると、こっちを見ていた人たちが急にそっぽを向き始めた。
自分の振る舞いに恥ずかしくなったのか、彼は大きく鼻で息を吸うと、ゆっくりと口からそれを吐き出した。
そのまま俯き、左手で耳の後ろあたりを掻く。
悩んでいるときや、何か考え事をしているときの彼がするいつものクセだった。
もう一度大きな息を吸い吐き出すと、閉じかけていた目を開きながらこう言った。
「とにかく、考えておいてくれ。俺のほうはもう準備できてる」
「準備って」
「もう離婚は時間の問題だ。あいつとは長いことうまくいってなかったんだからな」
「これで何人目だっけ?」
「あ?」
「離婚するの」
「あぁ…」
「今の奥さんで3人目でしょ? 確か」
「だからどうしたってんだよ」
「今の奥さんも、前の奥さんも、元は浮気から始めたって…」
「…」
「…」
「とにかく、考えておいてくれ。俺は、本気だ」
そう言うと彼が右手を差し出してきた。
拳の中から現れたのは、一つのリングだった。
「はめてみろ」
「これって」
「婚約指輪だ。お前との。前々から用意してたんだ。お前とのために」
「でも…」
こんなの受け取れないよ、と言いかけて言葉を飲み込んだ。
この状況でそんなことを言ったら、彼がまた檄昂するかもしれない。少なくとも、一旦話が終わりかけているこの状況がつぶされることは確かだった。
「サイズは密かに調べておいたんだ。とにかく、家に帰ってゆっくり考えてみてくれ」
サイズを調べておいた、そう言ったときの彼の表情が心なしか得意げになっていたのは果たして私の見間違いだったのか。
まだ、アパートに戻るには早すぎた時間だったので私は彼と別れると、行きつけのカフェで時間をつぶした。


さてと、困ったことになったぞ。
いよいよ、というか不意打ち過ぎるが、まあ予想はしていた。ある程度、可能性の中に入っていたと言うべきか。
彼からのプロポーズ。
恐らく、人生ではじめての、プロポーズだ。こんなに素直に言われるとは思ってもみなかったが、でも相手が…と、考えると少し気がひける。
浮気相手。しかも彼は私が4人目の結婚相手であり、3人目の浮気相手でもある。うち、前と今の奥さんとは浮気から始まっている結婚である。
当然、私にもそのリスクは伴う。かなり大きな割合で。
だったら、迷う必要なんてないのだが、今の彼氏のことを考えるとそういうわけにも行かなかった。
「はぁ…」
さてと、一体どうしましょうか。


「おかえり」
私が帰ると、彼はいつものようにテレビに向かってゲームをしていた。
おかえり、の一言も画面に釘付けになりながら発せられた、いわば儀礼的なもの。まあ、あいさつを深い心を込めて言う人間も稀だが。
「早かったねー」
「うんー。意外と早く終わっちゃって」
着替えのためドアとドア越しでの会話が続く。
「ご飯、どうするー?」
「うんー。どうしようかー」
彼の声が興味なさげに返ってくる。ゲームに夢中な証拠だ。
「どこかに食べにいこうかー?」
「いいよー」
リビングに戻ると彼の後ろ姿が目に入った。
ゲームのコントローラーを手に、テレビの画面に食い入っている彼の後姿で、少し気分が和らいだ。
きっと、まださっきのプロポーズの余韻が残っていたのだ。というか、それで興奮していたらしい、私は。
「そろそろ止めなよ。準備もして」
「うん、もうちょっと」
「私もう行けるんだからね」
「うん」
「ご飯、どこに行きたい?」
「ん~」
「近くのカレー屋さんにでも行く? それともいつも行ってるラーメン屋?」
「ん~…」
「ねえってば、ゲーム止めてよ」
「うん、もうちょっとだからさ」
「もう! いい加減にしてよ!!」
その瞬間、彼の身体が凍てついたように硬直した。
固まったまま、動こうとしない。私のほうを向こうともしない。
「もう! 嫌!! もうこんなの嫌!! もう嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!! 嫌だ!!!」
床を右足で思い切り叩いた。
部屋全体に響くくらいに思い切りよく叩くと、窓の薄いガラスとか、壁とかが今にも壊れてしまうんじゃないかと思った。
ようやく彼が後ろを振り返って、私を見た。その形相は言葉では言い表しきれないくらいに酷く怯えて、怖がっていた。
「もう嫌! こんなの! こんな生活! もうやめてやる!! あんたとなんか別れる!!」
「ちょっ、ちょっと…」
「うるさいうるさいうるさい!!!」
「お、おい!!────」
その瞬間、彼の右手が私の左手首を掴んだ。
抑えつけるように手に力が入っていた。
「痛い!」
咄嗟に彼が私から手を放す。それで余計に私の興奮が高まった。
「こんあ暴力する人は嫌い! 力で物事解決しようとする人も、そうやってパニくった私を怯えるような目で見る人も!」
「みんなみんな大っ嫌い!!!」
「お、落ち着けって」
「落ち着いてる! そう思うんなら落ち着かせてよ! ねえ、私のこと好きなの? 一緒にいたいの? 結婚するの? しないの? 仕事はするの? ねえ、一体あなたはどうしたいの?」
「…」
「言えないんなら別れよ。もうダメだよ。いつまで経ってもこんなんじゃ、もうダメなんだよ…」
「それでも」
「なに? まだ付き合いつづける? まだ私からお金を毟り取りたいの? 一体どうしたらあなたは気が済むの!!」
「それでも、一緒にいたいんだ」
「答えになってない」
「好きだ」
「私は嫌いになりかけてる」
「それでも好きなんだ」
「そうは見えない」
「でも」
「でもでもでもでもうるさい!! それしか言えないのかあんたは!」
「…」
「私、プロポーズされたの。会社の人に、今日。結婚してくれって。しかも浮気相手にだよ」
「…」
「知ってた? 私、浮気してたの。あなたの知らないところで他の男に抱かれてたの。彼は10歳も年上の大人の男の人で、あなたなんかより財力もあって、包容力もあって、私のことちゃんと甘えさせてくれて、私を大事にしてくれて、私が泣いてたらギュッとしてくれて、一緒に泣いてくれて、一緒に笑ってくれて、一緒になって愛してくれて……」
そこまで言って、私の吐き出した言葉たちが脳裏に数々の想い出を走馬灯みたいにして蘇らせてくれていたことに驚いた。
蘇る想い出の中に、いつも一緒にいるのは、今私の目の前にいる彼だった。
指輪を買ってくれる彼は確かに大人で、財力もある、素敵な人かもしれないけれど、包容力もあって、甘えさせてくれる男の人だったけど、私がいっつも大事にされてると感じていたのも、泣いたら黙ってすぐにギュッとしれくれるのも、その後に一緒になって泣いてくれるのも、楽しいことがあったら一緒に笑いあうのも、いつまでも愛してくれると言ってくれたのも、それは目の前にいる私の彼だった。それは嘘偽りなく、正真正銘のことで、愛してくれると言ったその時、彼が私にくれたのは縁日で売っているような安っぽい指輪だった。少しだけサイズが小さくて、小指にしか入らなかったけれど、それが彼からの初めてのプレゼントだった。
「…ねぇ」
私がすすり泣くような声で絞り出した声に、彼が上から言葉を重ねた。
「僕は、君を愛してる。少なくとも、僕は誰よりも君のことを一番に愛してる」
顔に覆われた手のひらが熱かった。手のひらの汗と頬を伝う涙とが、覆われているせいで蒸れて顔の表面を伝って体の中まで熱を帯びていった。
溢れ出る涙をこらえ切れなくて私は両手で必死に涙を拭った。
その姿が不恰好に見えてもいいから、彼に泣き顔をまともに見られることだけは嫌だった。
彼が私の肩にそっと触れて、そうしたらきっと私はそのまま彼に抱きしめられることを思った。
彼の大きな手や大きな腕、広い胸でたぶん泣きじゃくることになるだろう。
それはきっととても気持ちのいいもので、きっととても幸せなことだったけど、私はそれを敢えて拒んだ。
私の身体を覆いつくそうとする彼の腕を払いのけると、私は飛び出すようにして部屋を出た。玄関においてある車のキーと財布だけはしっかりと持って、私は彼に追いつかれないように足早に車に乗り込むとそのまま遠くの町へと車を走らせた。

                   

窓を開けた海風は心地よかった。
潮の香りが鼻をツンと刺激する。車の中にも潮の香りが充満した。
漣の音は空気に乗って私の鼓膜を刺激して、それから岩に打ち寄せる波の音が響いた。
「誰よりも、君のことを、愛してる。少なくとも、僕は、一番に」
彼の言葉をバラバラにして口に出してみたら、まるでそれは小さな紙切れに書かれたパズルのピースのようだった。
大きさも形も違っていて、海風で乾いた紙に書かれたものもあれば、海の湿気で水気を帯びたもの、涙でグチャグチャになって字すらも見えないものもあれば、纏わりついていた汗が乾いてパリパリになったものまであった。
その一つ一つが色んな表情を持っていて、私の脳裏に浮かんでは消えていく。でも、沈み込むことは決してなくて、それは水の中に浮遊しつづけるかのように中途半端な、ある意味ではいい加減な位置でキープされていた。それがまるで適切であると言わんばかりに。
上空では波の音に呼応するようにして二羽の渡り鳥が飛び交っていた。
きっと夫婦なのかもしれない。
私はその二羽の鳥を自分と彼に重ねて、求愛行為をする私たちみたいだね、と心の中で呟いた。


                                                  <了>