風が囁き、こたえるかのように若葉が頷く。

小鳥が唄い、水の音が心地よく聞こえる小さな森から人の話し声が聞こえてくる。


その森を抜けたところには、小さな村があった。

近くが森であるにもかかわらず、その村は砂漠を思い出させるような乾燥地帯であり、強い風でも吹こうものなら細かい金色の砂が舞い上がる。そのためそこに済む住民達は皆、頭にターバンを巻いたり布をかぶって暮らしていた。


何も無い小さ村であったが、その小さな森を挟んだ向こう側には、Kグラードという世界でも最も先進的な都市が存在していた。

都会に憧れて村から森を抜け、Kグラードまでの短い旅を楽しむ民も少なくは無かった。

おそらく森から聞こえてくる話し声は、そういった民達なのであろう。




その森をKグラードに向かって突き進む4人の若者が居た。


「まだ着かないの~?Kグラード・・」


黒髪に端麗な顔立ちの清馬が整った眉と眉の間にシワを寄せ、後ろを振り返る事無く先頭をずんずんと突き進む少女に声をかけた。その言葉を待っていたかのように、短髪を金色に染めたギンと帽子を深くかぶった少年ライン・Lが、お腹すいたと合唱し出した。


「うるさーい!」


先頭を歩いていた少女リベルは、かぶっていた薄いピンク色のターバンを荒々しくむしり取ると、ヒステリックに叫んだ。


「そんなんだからいつまで経っても町に着かないのよ!さっさと歩く!」


リベルは一息でそこまで言い終えると、また前進し出した。


「何か食い物くれよぉ」


長身に金髪のギンは、少女が手にしているターバンを指先でつまみ引っ張った。


「ちょっ!何すんのよお兄ちゃん!」


リベルはギンの手の甲を軽く払った。


「食べ物なんてこれっぽっちも残って無いわよ。ほんと子供なんだから!」


一瞬の沈黙の後、リベルが腰にぶら下げている袋をギンが無言で指さした。

リベルはハッとして、無意識のうちに身体が後ろへと後退していた。


「それ食べ物のカホリがする・・・。俺の鼻は騙せないぜ?」


おまえそれでも人間かぁ?と茶々を入れながらも、あるいは入れられながらも、すでに3人の目はその袋以外のなにものも見てはいなかった。


「汚ねえや。俺達には散々言い散らしながら、自分はこっそり隠れて食うつもりだったんだぜ?」


3人の厳しい視線がリベルを突き刺した。


「わ、分かったわ。ここは公平に・・・」


じゃんけんぽん!あっちむいてほい━━━━━━━━━━━━━━・・・


勝ち抜き戦となった。


決勝に残ったギンと清馬が、緊張した面差しで向かい合っている。


「じゃんけんぽん!」


清馬に緊張が走った。


グーを出した清馬に対し、ギンは渾身のパーを突き出したのだ。


「あっちむいて━━━━━━」


ギンの指の微妙な動きをしっかりと見据え、清馬の顔はギンの指と逆の方向に風を切った。


第二弾。今度は清馬のグーに対し、ギンのチョキ。


清馬の瞳の輝きが変わった。


「あっちむいて━━━━━━」


清馬のわずかな指と目の動きを見逃さないよう、ギンを清馬に集中する。


すると、清馬の表情が一変した。血の気が引き、目を見開いている。


「ホイ・・・」


気の抜けた清馬の声と同時に、清馬は上空を指さした。


ギンはともかく、ライン・Lとリベルの二人も清馬の指さす方向へと視線を走らせた。


「俺の勝ちだな。」


清馬のニヤけた声が緊迫した空気の中に響いた。


「汚ねーぞ清馬ぁ!」


ギンは悔しそうに口を尖らせた。


「気にしない気にしない。どうせ町に着いたらたくさん食えるんだから。」


清馬は肩の落ちたギンの背中をぁりぃ叩いた。


リベルから渋々渡された袋を受け取り、緊張しながら袋の口を開く。


中にはサランラップに包まれたオニギリが、たったの一個入っていた。


それでもお腹をすかせていた清馬達にとって、それは貴重な宝であった。


羨ましそうに見つめる3人を後目に、清馬はそれをすかさず口まで運んだ。

ふと、その手が止まった。


どこから来たのか、いつの間にか清馬の足下には小さな子犬が座り込んでいる。

その子犬は自分の何倍もある清馬を、後ろに倒れてもおかしくないような体制で見上げていた。


清馬が手に持っているオニギリを、瞬き一つせずにジッと見つめている。


「な、何だよぉ・・」


清馬の視線が自分に向けられたのを知ると、子犬は小さなモコモコとした尻尾をパタパタと振った。


口にくわえていた汚い布きれを地面に放り出すと、立ち上がり嬉しそうに一際高く吠えた。


「あぁもう!分かったやるよ!」


「清馬やっさしい!」


リベルが目を輝かせて手を打った。


「清馬やっさしい!」


ライン・Lとギンが、リベルの真似して手を打った。


「にしても・・おいら達貧乏だよなぁ・・・」


ガツガツとオニギリに食らいつく子犬の背中を撫でながら、ライン・Lが不服そうにぼやいた。


確かに、彼等達の生活は裕福というには程遠かった。


「母さんが言ってた。あの十七年前の戦争がなければ、今はもっと楽な暮らしが出来てたのにって。」


リベルは小さくため息をついた。


「戦争ってあの【世界大戦タブー】だろ?俺が産まれる前だったもんなぁ。俺もあの戦争で活躍したかったぜ!」


ライン・Lは悔しそうに舌打ちした。


「戦争なんかで得るものなんて何も無いよ。失う物が多すぎる。」


横で聞いていた清馬が、少し悲しげな表情でライン・Lを見た。その場を湿った空気が漂う。


「そういえばエルって、あの“WYVERN”のヘッドだったんだよな~」


湿った空気をかき消すかのように、ギンが話題を変えた。


「一応ね。もう辞めたけど…」


「“WYVERN”って有名だったよな。歩くダイナマイト!って呼ばれてる人物がお前だったなんてな。」


ギンはエルの頭を軽く小突いた。


「でもすごいよね。史上最年少でテロリストのボスなんて!」


リベルは改めて目を丸くした。

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「バンッ」と、鍵が壊された扉が荒々しく開いた。

そこには逆光を背に金の髪をなびかせたスラッと伸びた四肢の女性が立っていた。

その部屋の隅には、家族と思われるまだ幼い子供を含めた5人が小さく固まっていた。

異様な雰囲気を察したのか、母親に抱きかかえられた赤ん坊がその場の沈黙を飛ばすかのごとく小さな口を裂けんばかりに開いて泣き出した。その声は、K・Dのこめかみの辺りをズキズキと刺激するものがあった。

「お願いします。どうかこの子達だけは!」

子供達の母親が、震える唇からやっと聞こえる声を絞り出す。

K・Dは、ただ黙って凍てつくような瞳で見つめていた。その眼の光は強く、こちらも気を入れて見つめ返さないと押されてしまうような気迫であった。

父親の方は、家族を護るように片手を横に広げているが、その手もはやり震えていた。

赤ん坊の声はますます大きくなっていった。

K・Dの表情は変わらない。


K・Dは壊れたドアを押し開け家を後にした。

赤ん坊の声はもう聞こえない。そこにはもう、生きた虫さえも居なかった。



指令を全うし、基地へ戻ろうとしているK・Dの耳に、かすかな物音が飛び込んできた。

その音は人里離れた小さな林の奥にある、今時珍しい古風な木造の小屋からであった。

その小屋は、今K・Dが居る位置からは見る事が出来ない程遠くで、普通の人間はともかく、犬や猫でさえも容易に聞き取れる音では無かったであろう。

「領域全員抹殺」の指令を帯びているK・Dは、迷わずそこへと足を向けた。

周りでは、爆音と振動が時間差を生じながら響いている。



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K・Dは、少し錆びかけた扉のノブに手を掛けた。鍵は掛かっておらず、それは不協和音と共にゆっくりと開いた。

中には黒い髪を後ろで束ねた一五,六と思われる可愛らしい少女が静かに座っていた。

「こんにちは」

少女は戸惑いもなく、K・Dに笑いかけた。

K・Dは今までの人間達と違う、見たことの無い反応に少々戸惑いを覚えた。
銃を手に握ったまま、少女をただ見つめていた。

その少女の顔は端麗に整っており、真っ黒い瞳が印象的な日系であった。

その長いまつげの綺麗な瞳はすぐに閉ざされた。どうやら少女の目は光を感じる事が出来ないらしい。

K・Dが誕生してこれまでに無い刺激であった。

三年続いた【世界大戦タブー】は、K・Dとこの少女との出会いをきっかけに、あっさりと幕を閉じる事になる。

「私はリンネ。あなたは?」

「私…ハ…K・D…」
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L・T1117年、世界はコンピューターと化していた。
炊事洗濯など家事全般をこなす物から、警備、運営など全てが機会任せと言っても過言では無い程の機械化。

最適な空間の中、欲もスリルも乏しくなった時そのゲームは始まった。

第一都市Kグラードは、戦闘用人造人間K・Dを世に送り込んだのである。

それの外見は全く普通の人間であり、その金色の長い髪に深い緑色の瞳が神秘的な美しい女性の容貌からは、殺人を犯す姿を想像するのは困難であった。

その目は狙った獲物を正確に捕らえ、その耳は200メートル先の虫の足音をも聞き分ける事が出来た。またその動きは無駄なくしなやかであり、自分の身の安否など二の次でその柳の様な姿に魅了されるものであった。

K・Dは常に、指令送信役と呼ばれる人物とともに行動したいた。
それは、戦闘に不必要な知力、感情は全てロックされているため、あまりにも無謀であったからである。

指令送信役というのは、選び抜かれた人間の頭半分を送信部分に改造したものであり、感情や知力は本来のままである。K・Dはその人物の命令には絶対服従で、指令送信役は政府からの命令をK・Dに伝えるだけでは無く、常にK・Dの近くでそれの状態を把握しながら、更にその他の細々とした指令を下す。それによって、K・Dの能力を最大限に引き出すという役目だ。



第3都市ドゥーワ。
真っ白に塗装された形の良いその建物の中では、首脳会議が行われていた。一流企業の社長から大統領まで揃っている。

穏やかな雰囲気の中、突然窓ガラスがガタガタと大きく震えた。すぐまもなくもの凄い音が大地を揺るがせた。人々の悲鳴がまばらに聞こえてくる。

もうもうと立ち上る煙の中から現れたその女性の髪は、陽の光に反射して金色に輝いていた。

「な、何事だ!」

会議室に居る人物達の気持ちが乱れ始めた。

何が起こったのか判断することもままならないまま、ただ凄まじい爆発の中に美しい女性が一人、悠然と歩いている不思議な光景に全員の焦点は絞られていた。

駆けつけてきた警官達は、現場に着いた途端に煙の中へ消えた。

乾いた音が響き、その女の脇腹に銃弾が食い込む。それを放った警官は、こみ上げてくる歓喜の声を飲み込んだ。しかし締まりの無い顔も束の間、その男の表情は固まった。

K・Dは傷口に自分の指を入れると、いとも簡単に銃弾を取り出したのだ。
その間も、彼女の表情は眉一つ動く事も無く、以前として冷たくとらえどころの無い顔であった。

その警官は、自分の身体が震えているのが分かった。それは恐怖心から来るものでは無かった。絶望感、好奇心が入り交じったような何ともいえない気分であった。

興奮しきったその身体は空中に浮かび、金髪の美女の血に濡れた指が警官の体重の分だけコメカミに食い込んでいく。

K・Dに捕まれた頭はミシミシと音を立て、耳と鼻からはどす黒い血が肌を伝っていった。

K・Dは、その男の心臓が停止したのを確認するとソレを地面へ放り投げた。



突如として起こった出来事に、会議室は静まりかえっていた。全ての人物が息をすることさえも忘れたかのように、呼吸音がぴったりとやんだ。一瞬の間ではあったが、息を止めたまま何時間もの時が過ぎ去ったような感覚であった。立ちこめる煙の中、その女の姿はもう何処にも無かった。

時計の鐘が3回鳴り響く。

我に返った代表者達の視線はそれぞれ見慣れないものへと移った。今までそこに立っていた代表者の内3名が、いつの間にか赤く染まり倒れていたのだ。

パシュッと奇妙な音が立て続けにしたかと思うと、4人の代表者が倒れた。その奇妙な音はやまなかった。次々と代表者達の額に小さな穴が開いていく。

ついにその会議室に何が起こったかなどと考えられる人物は居なくなった。

第一都市Kグラードは手始めに近くの国、ドゥーワの代表者達を襲ったのである。

それはたちまち戦争へと発展した。しかし、代表者達を失った軸の無い国ドゥーワなど、大国Kグラードの敵では無かった。



Kグラードは、同じ手口で再び他の国を襲撃した。狩りを楽しんでいた。そして一年の内に3つの国を手中に収めたのである。

その勝手で恐ろしいゲームはとどまることを知らなかった。

身の危険を感じた他の国と国とが急激に結束し始めた。

そのゲームは世界中を巻き込み、恐怖へと陥れる【世界大戦タブー】となり、それは約3年間続き、多くの犠牲者を出した。

戦争開始からの3年目の夏、他の国々では確実にKグラードに対抗するための研究がなされていた。そして開発した。

首脳不能液体D・D

その液を備えた銃弾が容赦無くK・Dを襲った。

K・Dの指令送信役ガード・リー・ルースターは、K・Dを庇いソレを腕に受けた。それによりガードの頭右半分、指令伝達部の機能が停止するという大損傷を負ってしまい、ガードは集中治療のためK・D一人で「領域全員抹殺」という大まかな指令を受け、単独で行動することとなった。

K・Dは 与えられた指令通り一部の地域の人間達を次々と殺していった。


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