漆黒の闇。

月の光だけが肌を刺すように地上へ降り注いでいる。

そこは人里から数キロ離れた小さな森。

風が吹く度に、白い木の枝に反射した月光が揺れた。

夏にもかかわらず、森の木には木の葉が見あたらない。そのためそれに遮られることもなく、月光は美しいヴェールをつくりとても幻想的な世界を演出していた。

小さな森の中を流れる小川には生物らしい生物もなく、薄くよどんでいた。




その川岸にある大人一人が眠れる程の大きな岩の上は、ガードのお気に入りの場所だった。

今夜も青白い光に覆われながら横たわり、夜空を見上げる。

頭の右半分に包帯を幾重にも巻いているその青年ガードは、何をするでもなくただじっと夜空を見つめていた。

そこから少し離れた場所には、月光に反射するキラキラと輝く金の髪の美しい女性の姿があった。




その時、ガサッと茂みが揺れて野犬が顔を覗かせた。痩せ細ったそれは足取りもおぼつかないまま、金の髪の女性へと近づいていく。

女は表情を変えるでもなく、その暗い緑色の瞳で近づいてくる野犬を捕らえる。


青い闇に銃声が響いた。


「あまりエネルギーの無駄遣いをするんじゃないぞK・D。」

包帯から飛び出た黒い髪を指でもて遊びながら、ガードは面倒くさそうに女を横目で見た。

女はガードを見ることも無く、相変わらずの無表情で銃を腰のベルトに差し込んだ。
それを確認すると、ガードは再び夜空を仰いだ。



ガードにとって、この場所は他のどんな場所より気持ちが落ち着き安らげる場所であった。
水の流れる音を聞きながら、いつの間にかウトウトとしていたらしい。

突然、ガードの頭右半分に嫌な痛みが走る。

ガードは頭の右側を軽く押さえ、惜しそうに舌打ちをした。

「ガード・リー・ルースター、至急本部へ戻られよ。」

頭の中に、気分をかき乱す声が流れる。

ガードはゆっくりと上体を起こした。脇の方に投げ出された黒いコートを自分の身体に引き寄せた時、遠くで爆音が響いた。それからまもなく、爆風が夜の闇を駆けめぐった。
遠くでまばらに見えるビルの上方が、紅蓮に波打っている。

「K・D、戻るぞ。」

頭の右側に手を当てながら言うと、ガードは女を先導するように歩き出した。女も長い髪を揺らしながら、その後に黙ってついていく。



二人の去った後には、無数の野犬が夜目に黒い血潮を撒き散らせ、転がっていた。

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