「現代生活独習ノート」
津村記久子
コレの続きです

7話目
「メダカと猫と密室」
小西係長の自分勝手のせいで休日出勤することになった
安田先輩、後輩の横井さん(主人公)、監督役の中村課長
さらに小西係長のスタンドプレイは増悪し
無駄に休日出勤は延長する模様…
とうとう精神的に限界を迎えた安田先輩が資料室に閉じこもってしまった
主人公は、資料室にとある秘密を隠しているため気が気でない
普段は穏やかな中村課長も、急に落ち着きを無くし…

横井さん(主人公)が、資料室に隠してる秘密というのが、
心を癒すためにこっそり飼ってるメダカと
ムカつく人の悪口を書いた悪口ノートというのがおもしろい

仕事や、広くいえば社会というのは
小西係長みたいな立場の上の人の
気軽な横暴のせいで簡単に被害を被ったりすることがままある
そして、横暴をパァン!と気持ちよく成敗するなんてことはなかなかなく、
なんとか受け入れて受け流してやっていくしかなかったりする
その我慢のうえに成立してしまう社会はけっこうある
しかし、被害に遭う側だって
同じ人間なわけで、わだかまったり、しこりが残ったりして
当然である
メダカと悪口ノートは、そのはけ口として
あまりにささやかで健気なものである
私も働いているので経験としてわかることだが
余裕のある職場では皆優しいが
追い込まれたり余裕がない職場では自分以外に気遣いをすることは難しい

しかしこの休日出勤組の3人は
理不尽な思いをさせられ続け、
安田先輩にいたっては精神の限界を迎えて立てこもったりしてしまうほどなのに
お互いを尊重しあってるところが妙におもしろいし尊い
横井さんと中村課長が、
プリンに紅茶まで添えて立てこもり中の安田先輩に差し入れするところとかね

安田先輩は安田先輩で、横井さんの秘密を尊重してくれるし
物語の中盤、
もしかして中村課長も、資料室になにか隠蔽してるのでは
だから落ち着きを無くしているのでは…
という疑惑が浮かび上がります
横井さんにとって
中村課長という存在は安田先輩とは違い
小西係長ほど権力をふりまわす存在ではないが、いちおう上司だし
やっぱり悪口ノートに書かれる対象側なのか…?
と、思ったところで最後
中村課長がはやく帰りたかった理由があきらかになります
みんな、仕事を優先して生きがちだけど
もちろん仕事のためだけの人生じゃないし
あたりまえだけど、仕事とは関係のない生活でも一喜一憂してるんだよね
もしかしたら横暴な小西係長もそれは同じなのだろうか…?
ムダでしかなかった休日出勤の帰り
なぜだが清々しい気持になるラストが良かったです
