「ポースケ」
津村記久子
コレの続きです

4話目
「歩いて2分」
竹井佳枝はヨシカの店「ハタナカ」で14時までのパートをしている。
前職で受けたパワハラの後遺症で、
佳枝は自分の睡眠がコントロールできない。
たくさんの言語を独学で勉強し、博識だが
今の佳枝は電車にも乗れずとこへも行けない
家から徒歩二分の「ハタナカ」に通うだけでも精一杯である

津村記久子の作品には、パワハラ被害者がたびたび出てくる
いくら時間を経て場所を変えたとしても
受けたパワハラは、その人の奥深くをいつまでも蝕むものだと
どの作品を読んでも感じさせられる
文明はどんどん進化するのに
人間の一部分はいつまで野蛮なままなのか
その野蛮さはどこまでいったら満足するのか佳枝はとても頭が良く、人間的にも魅力的だ
パワハラにあった前職でも、できる人間だったと伺える
だけども現在の佳枝は、突然の眠気に抗えず、所構わず倒れてしまったりして
とてもまともに働ける状態ではない
トータルとして「社会人にふさわしくない人物」と分類されてしまうであろうことが
読んでいて悔しい
そんな佳枝にヨシカは優しい
踏み込みすぎず、特性を理解したうえで、
佳枝が働きやすいようさりげなく指示をくれる
「ハタナカ」周囲の人も、佳枝の特殊な事情な知ってか知らずか優しい
みんながみんな、こんな世界だったら
どんな人だってふさわしくないなんて言われないのに。
だけど、悲しいかなこんな世界はそうそうない
ここまで世界は寄り添ってくれるケースばかりではないのだと私は知っている
佳枝自身にもそれは自覚があり、
「こっちが特殊で、あっちが現実なのだ」というモノローグがある
こっちとは、ハタナカやヨシカ周辺の、佳枝に理解のある世界
あっちとは、前職含めた佳枝に配慮をしない世界
といえるだろう
物語の最後、ひょんなアクシデントから
佳枝は少し「あっちの世界」に戻ることになる
その架け橋となるのが、
この「ポースケ」でも、前作の「ポトスライムの舟」でも
ちょっと無遠慮でデリカシーのない人物とされる、ヨシカの友人そよ乃だというのがおもしろい
優しく守ることだけが人のためになるわけでもない、
というのが興味深い
この本で、このお話がいちばん好きです