「この世にたやすい仕事はない」
津村記久子

コレの続きです下差し
1話目
「みはりのしごと」

主人公がはじめに紹介されたのは、特定の人物を隠しカメラでひたすら監視する仕事
主人公が担当するのは、作家の山本山江。
なんの変哲もない生活を送っているようにみえるが
山本山江にはとある事件に関与または巻き込まれている疑いがあった




山本山江の関わる事件のミステリー要素より、

特定の人物の生活をほぼずっと見守ることの奇妙さが印象的なお話



あまりに長い時間を費やし

心身ともに疲労し


座ってモニターを眺めているだけなのにかなり削られる仕事かもしれない



が、私は読んでてだんだんこの山本山江という監視対象が愛おしくなってきましたw



作家としてそこそこ仕事があるものの

決して派手な生活を送るわけでもない



仕事にやる気が出ず苦悩する様や、

クッキーをお取り寄せしてワクワクと食す姿なんか観てたら

ちょっと可愛く見えてくるではないかw



主人公も、そんな山江にときおりツッコミをいれつつ、

書いてる小説の矛盾点を指摘したくなったり



やたらコーヒーを飲むのはコーヒー関連の仕事をした影響だなとか

やたら後ろを振り返るのはテレビで心霊特集を観て怖くなったからだなとか

本来なら知る由もない他人の行動原理までなんとなくわかるようになってしまう



さらには、山本山江が食べていたものが主人公も食べたくなったりと
同化に近いことまで起きている


これは奇妙な現象だと思った


しかし、私がもっと不思議だと思うのは
山本山江の生活のすべてを監視しているはずなのに


山本山江が「人には見せられない」行動をとらないことだった


事件に関する不審な動きというより、もっとみんなが一人のとき油断してしてるような
ホラ、鼻をほじるとか耳垢のニオイを嗅ぐとかさぁニヤニヤ

私なら絶対音つきの屁してる自信あるけど

そういうのは筋と関係ないから描写がないだけかと思いましたらね
ていうか監視カメラだから屁の音は聞こえないし


ちゃんと理由がありました
最後に明かされます


どんなに眺め続けて他人のことをわかったつもりになっても
人というのは幾層にも複雑に重なり合った厚みのあるもので
そのすべて、ましてや核を掴むだなんて到底無理なことなのだなぁと
なんだか途方に暮れるラストです



あ、あと事件はちゃんと解決しますウインク気づき