「婚礼、葬礼、その他」
津村記久子
コレの続きです

「冷たい十字路」
ある冬の朝、憂鬱な通勤通学路で
ふたつの高校の生徒同士で自転車事故が起きた
事故の目撃者、間接的に関わる者
それぞれの視点から
少しずつ事故の詳細が見えてくる

この短編で感じたのは
人は、自分に関係のある事や関心のある事を
無意識に選択して着目しているということ
そのかわり、着目したことに対しては
意外なくらいよく見ているし覚えている
だって、無意識とはいえ興味があることだから。
物語は、
通勤中に事故を目撃して、忌々しく思いながらも通報したOL
事故にあった高校生に対し、複雑な想いを抱く小学校教師
マナーの悪い高校生のせいで、近隣の産婦人科が被害を受けることを気にしていたシングルマザー
事故にあった高校生のうちの1人に、不思議な恩を感じる小学生
事故再発防止のための書類作成をさせられることになった高校生
おもに彼らの視点で描かれる
自転車事故というひとつの出来事に対しても
彼らの視点は実にさまざまで、あたりまえだけど
とある人物がすごく気を揉んでいることが他の人物には目にも入っていないということもある
彼らはふつうに善良で
事故を通報したり、事故現場を片付けたりもする
けれど同時に、殺伐とした気持ちを抱えてもいて
心の表面を一枚剥がせば
簡単に誰かの不幸を願ったりもする
でもそれって、結構ふつうのことですよね?

そんな、普通に邪悪で普通に常識的な人々の視点で事故を知るうちに
え…コレもしかして
偶然の事故じゃないのかな…?
っていう可能性も浮かんできてゾワゾワする

明らかな故意、とは言えないまでも
誰かによる意思を持った必然というか
もっというと、
少しずつ積もった人間の憎悪が
空気中に溶けてそれが蓄積して起こるべくして起こった事故というか
で、結局私が抱いた
「この事故、誰かの故意で起こったんじゃね?」という疑念は
はっきり明かされずに終わります

まるで真冬の曇りの一日のように
どこまでも冷え冷えとしていて空気が重く
ときどき誰かの悪意を感じてギクッとするような
ゾワゾワして気色悪いけどそれが妙に快感なお話でした
最後に
ミドリバシはシギノに会いに行かないほうがいいと思う…