「サキの忘れ物」
津村記久子

コレの続きです下差し
「王国」


幼稚園児のソノミには、自分にしか見えないお友達の「デリラ」がいる
ある日ソノミは転んで膝に大きな傷ができ、
その日から、ソノミの膝のガーゼの下にはちいさな王国が生まれた




ソノミにとってのデリラのような存在が

かつての私にも

もしかしたら今の私にもときどき存在しているように思う


もちろん今は空想の友達と一緒にキャッキャウフフと遊んだりはしないが



どこかで私の心の奥底までもわかったうえで

見守ってくれているような目に見えない存在



そんな存在を空想することで

思い通りにいかない毎日や

あんまり好きじゃない人間関係(ソノミは「同輩」と呼ぶ)で

消耗する自分を勇気づけたりもする




傷口が、一度は膿んでじゅくじゅくとひどい有様になったり
それが少しずつ乾いて肉が盛り上がって傷が塞がって
残った傷痕はうっすらと皮がはがれおち、その下にはいつの間にか新しい皮膚がある

そんな当たり前のことを
なにか不思議な物語のように見つめるソノミ


大人にとっては
傷が治ったというだけの事象を

ソノミにとってはひとつの国が消滅したかのように粛々と受け止める


両親にも、幼稚園の「同輩」にももちろん理解されない感覚だ

いまのところは、「デリラ」さえわかってくれればいい


だけどきっとそう遠くない未来に
「デリラ」以外にもソノミの世界を少し理解してくれる友達がてきそうな予感もする

そうなったら、
それでも「デリラ」はソノミの側にいるのだろうか


なんだか切ないような暖かいような
貴重な瞬間を垣間見たような気持ちになった