おまじない
西加奈子

「いちご」
いちごと共に生き、すべての価値はいちご中心で決める男「浮ちゃん」
認めるも認めないも、生かすも殺すもいちご第一で決める
そんないちご農家、「浮ちゃん」を見て育った
大人びて美しい少女の「私」
やがて東京でモデルとして活躍する。
価値観も生活も一変する。
何十年かぶりに帰郷すると…
浮ちゃんの頑なさ、烈しさ、真摯さの描写がちょっと笑える
ヘビをぶん投げたり、お気に入りのいちごをガンガン勧めてきたり

「私」にとっては拡散しつづける新世界・東京が
「浮ちゃん」にとっては「とちおとめか、あまおう」の東京
だけどこれは、
世界を広げて変化したほうがいいよ!という話でも
ひとつの世界を大事に、変わらずにいたほうがいいよ!という話でもないと思う
それぞれ、そういうふうにしか
生きられない
ってことだと思った
「私」にとって、偽った自分を一切求められることもなく
なんなら自分のことをろくに見もせずに
ただひとつ「いちご」という価値観だけが明確な「浮ちゃん」の側にいることは
ホッとすることでもあるだろうなと思った
誰かを喜ばせたい、いい気持ちにしたいと無意識に作ってしまう媚態
「もしかして今の私、間違った?」と相手の腹を探るような勘繰り
これらのことが、「浮ちゃん」には一切必要ない。
一切通用しない。
だから、笑いたいぶんだけ笑えばいいし
驚いたぶんだけ驚けばいい
純粋にそういう存在って、貴重だと思った