エヴリシング・フロウズ
津村記久子

繰り返し出てくるのが「絵」についてのヒロシの複雑な思い
絵は、ヒロシの数少ない得意なことでもあり
幼い頃は純粋に夢中になっていたし、ひそかに自信もあった
きっと、将来画家になりたいと素直に思っていたこともあるのではないだろうか
しかし、物語の中で中三のヒロシは
絵への思いを完全にこじらせている
好きだということ、描きたいということ、将来の夢にみることにすら躊躇っている
このあたり、私もちょうど中三くらいのとき
同じような状態だったことを思い出した
私の場合は、作家になりたかった
時にはそれが、漫画家だったりライターだったり編集者だったりしたが
とにかくそういう夢
おそらく中三とは、
たいていの人間がはじめて具体的に将来を考えるタイミングで
そうなってみると、いかに自分の夢が
「オリンピックで金メダル」
「宇宙飛行士」
「アイドル」
と同じくらい現実の見えていない夢だったのかがわかってしまったんですね
もちろん、金メダルも宇宙飛行士もアイドルも本当に叶える人がいる(作家もね)
だからこそ逆にそれが焦る
そういう、本当に「叶える人」は
高校受験の時点でもうなにかしら形ができているというか
もっと自分の中に核となるものや道筋があるんじゃないの?
なのに自分は?
塾行って成績に一喜一憂する毎日
本なんて、文章なんて、日々の現実逃避に過ぎないのかもしれない
そんな人が夢とか…
誰にも話していない夢にすら引け目を感じて、
いつしかその夢のことは考えないようになった
きっと、中三の時点で明確なものがなくても
大きな夢を叶えちゃう人はたくさんいるし
そうじゃなくったって、夢を持ってるだけでも素敵なことだと思う。
ヒロシは画家にはならないかもしれない
でも、大人になって、なにかしら絵を楽しむ毎日を送っていたらいいなと思う
私はまったく別の職業について、普通の主婦になったけど
今でも本やマンガが好きだし
今も、自己満足の文章を書いてはネットのすみに密かに公開している
当時の夢が、1%くらいは叶っていると思って良いのかもしれない
