あかいくらやみ | ことのはを拾いあつめて

ことのはを拾いあつめて

小栗旬さんに耽溺、溺愛、ベタ惚れしております。
台詞フェチで妄想癖でもあります。

昨日書いた記事で、あかくらのことを思い出していて、久々に見たくなりました。



「嫌気がさしちまったんだな。ほとほと信用ならないよ、自分も含めてうんざりしているんだ。格納庫の話さ。だからさ、ハリボテの中で熱狂しちゃってた。腐りかけてたど近眼の兵士崩れが、とうとう出番だと張り切って、必死に穴掘って、穴掘って。ひたすら掘ってる間に終わっちゃっただろう。何かもっと予感していたんだよ。そう、予感。一部になって脅かされる予感。外から眺めているんじゃなく、内から見つめる臨場というか、結合を予感していたんだ。逃げ惑うことじゃないんだ。つまり、そう、戦場のそれかもしれないね。あそこで誰かがやられている。その痛みを強く感じながら、しかしその見据えるその先は一緒というね。
こうして、肩を組んでいるだろう?どこまでも長く、向こうまで肩を組んでいるんだ。突然、列の向こうに爆弾が落とされる。肩を組んでいた沢山の人達が死ぬ。でも、そうすると、俺の命は輝くよ。同じことなんだ。あそこで潰えた命とここにまだこうしてある俺の命は同じなんだ。失った命の分だけ、生き残った命が輝いているだけ。だから俺は睨み返すよ。粉々になって死んだ連中と一緒に、B29だろうが、なんだろうが、ぎらぎら睨み返してやる。その手にあるのが穴掘りに与えられたつるはし一本ならそれでもかまわん。そいつを力の限りに振り回してやる!そういう予感!期待じゃない。ね?そういうことが当然俺の中で生じるだろうと信じていたんだ。だからこの手が擦り切れてめくれて血まみれになろうがひたすら掘ったんだ。ところがそんなものはなかったんだ!あったのかもしれないよ。俺の知らないところでは。南洋ではあったのかもしれない。それこそ君の旦那には起きたのかも分からない。でも起きなかったんだ、俺にはね。俺に起きなかったことは、やっぱり起きなかったことだろう。振り向いたら皆、バラバラてめえのために散らばった。始末もクソもあったもんじゃない。三々五々散り散りだ。瓶底みたいなこの眼鏡を凝らしてよくよく眺めてみたよ。俺っきりでね。そしたらやっぱりそうなんだ、挙国一致もクソったれもねえ。俺は俺で、お前はお前で。でも分かっていたことなんじゃないかってね。そうすると急に簡単に見えてくるんだよ。とてもちょろいことのように思えてくる。この地面から足を離すだけでいい、ひょいっと飛び上がってそのまま浮遊するんだ。分かるだろう」

「死んでいるみたいに?」

「とんでもない。生きるんだよ。凄く単純になったんだ。アメリカっていう国は凄いよ、無闇にデカいだけあって、至極単純だ。この金だってそうだろう?ほんのちょっと俺の機転が奴らより利いただけ。恨まれようが呪われようが、勝ちゃあいいのさ」

「そいつさ。俺はこうして曲がりなりにも生き残った。君もそうだろう。こいつは儲けもんだぞ。この生命というやつを謳歌しなくちゃならない。敵国さんからそこんところは充分教えてもらったところだ。ところが分かっているのにこいつがままならない。現にこうして何年か遊んで暮らせるだけの金を手にしてみたものの、どうも諸手を挙げて万歳する気にはなれないんだ。こいつはどういうんだろうねえ。この金を元手に稼ぎこんでやりゃあ、そいつはきっと幸せなんだろう、新時代の中でさ。そいつははっきり分かっているし、俺もそうしてやっていくつもりだ。負けてたちまち薄まっちまったこんな国はとっとと放り出して、穴ん中で消えかけていた俺の生命をもう一回燃やして、俺は俺で千金だって稼いでやる。しかし、どうも危なっかしくてねえ」

「危なっかしい?」

「ああ。危なっかしくていけない。この金を手にすっかり顔色の変わっちまった日本の喧騒を歩いているうちに、俺もその中に溶けてなくなっちゃうような気がしたんだ。こうやって、両手を見ていると、向こうが透けてくるような気がした。俺はガンガン足を踏み鳴らして、走ることにした。その振動は俺が消えちまわない手ががりだもんな。ガンガンガンガン日本を蹴り付けるようにして歩いてやった。そしたらどういうんだか、君んとこの前にいた。近くに住んでいるんだ、別におかしいということはない。しかし大それた詐欺をやらかして、てめえの家に戻る馬鹿はないだろう。そしたら君はこっちを見て手を振った。俺が山形の寒村を飛び出して、あの神楽坂の崩れかけた裏長屋に転がり込んできた頃と同じように。一番最初に、会った頃と同じようにさ」

「透けないように、見てりゃいいのね?」

「やっぱり俺は透けてきているかい!現実にどうって話じゃない。そんなことは、透けてないのは分かってる」



「いざ京へ!京へ参るぞ!」


「それだ。そいつだ、そいつだ。ここぞって時に、穴掘ってる時にはどうにも抱けなかったやつだ。今現在の夢中が過ぎると、遥か向こうがおぼろになる。しかし霞みきったらおしまいだ。何のための現在のこの夢中なのかがぼやけてきちまうもんな。現在のために現在を生きるなんてのはナンセンスで、そんなんじゃどう転んだって、ケチなことしか思い描けなくなる。お国のためにと、穴掘ったり戦ったりしてる俺達の脳味噌だか、胸ん中だかにある広大なカンバスみたいなもんの上には何かとてつもないものを描いとかなきゃならなかった。そうだろう?そいつが欠落しているから、そういうもんがないままやってきちまったから、終わってみりゃ、ただただ今現在のためにジタバタするしかなくなっちゃうだろう。いや、食うとか、食わないとかのことじゃなくってさ。情けないじゃないかってことだよ、漂うだけなんてことはさ。昨日までいきがっていたのが、一日で日和見みたいに、キョロキョロキョロキョロ。それじゃあ、透けてきちまうぜ。そうだろう?!」

「それじゃ探しようもない。とにかく辺りは真っ暗なんだ!」

「目を凝らして見つかるもんでもない。はっきり思い描く程、鮮やかになることもある」

「なるほど。穴ん中でもそうだった。所詮はくらやみ。こいつは外して探すとしよう」

「紛れもなくこいつは、遥か彼方を思い描かせやがる」

「全て幻、なんてことでもなきゃ、命ってやつはテクテク繋がっていきやがる」

「いけねえ。とばっちりで息子が殺されっちまう」

「ほんじゃあねえ。きっとほんじゃあねえ」


「義なんてもんは、これっぽっちも後世に残りゃしないんです。天狗も諸生も含めて水戸は時代に忘れ去られる」

「どうして忘れ去られようか。現にこうして、天狗の行軍はお前や大一郎の夜の夢間に続いておるではないか。そしていずれはその赤子の眠れぬ夜にも行軍しよう」

「これも天狗の夢を見るのか、おゆん」

「命ある限りはいずれ」

「真っ赤な血の夢だぞ」

「いずれの夢間に、また会おう」



印象深かった台詞を書き出してみました。
改めてこのお芝居は台詞が心地よかった。難しかったけれど、何度も聞いてる内にすっと入ってくる瞬間があって。今回見直してまた、ああ、そういうことだったんだ!と気付かされました。やっぱり深い。
言葉の意味をこんなにも考えながら見たお芝居は初めてだったかもしれない。


それにしても大一郎の台詞の長いこと!!書き出してみてびっくり。途中で挫折しそうになりました(笑)
憑かれたような表情になって、どんどん気持ちがこもって、こちらの心にも届いてくるあの感じがたまりませんね。長台詞、大好物です。難解であればあるほどもっと、もっと!って気分になる。ずっと聴いていたくなる。


もうすぐ再びケンに会えます。ケンはそこまでの長台詞はないけれど、メリハリの利いた繊細な感情表現がとても楽しみ。





あか、繋がりだしね。