鳥飼誠一を巡る女たち | ことのはを拾いあつめて

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小栗旬さんに耽溺、溺愛、ベタ惚れしております。
台詞フェチで妄想癖でもあります。

鳥飼くんのことを考えていたらどうしても浮かび上がる物語がありまして…。
ただの妄想ですが(笑)、よろしければお付き合いください。



癒す女」

あ。
菜穂は立ち止まった。
こんなところで会えるなんて!嬉しさに思わず駆け寄ろうとしたが、彼の濃いサングラスを目にするとその足は止まった。
まさか…。
怖かった。自分の思っている通りだったらと思うと身震いがするほど怖かった。けれど確かめたかった。
だからわざと彼の左斜め後ろに立った。そう、視界がギリギリ届く範囲のところに。
やっぱり…。
泣きそうな声で菜穂は名前を呼んだ。
「鳥飼、さん」




  

あの時も寒い日だった。あの日、急患で運ばれてきた彼は目を押さえ、苦しそうにもがいていた。何でも捜査中に負傷した警察官だと囁かれていて、気の毒に、と思ったものだ。
菜穂の担当ではなかったが、何となく気になっていた。
何と言っても目のことだ。失明などしなければいいが…と思っていた。
彼は周りが何を言っても暗い目で「大丈夫ですよ、僕は」と言っていると担当の看護師が教えてくれた。
「ホントに大丈夫、なの?」
「そうね、手当が早かったし、手術が成功すれば失明には至らないんじゃないかな」
「そう」
何となくホッとした。
見回りに行くついで、と言い聞かせて彼の病室の前を通った。
そっと部屋を覗くと、頭に包帯を巻いた彼はベッドに起き上がっていた。
手術は終わったんだな…。
そのまま見ていると彼は頭に手をやった。そして左目辺りの包帯をかきむしり始めた。
菜穂は慌てて病室に入った。
「ダメです!何やってるんですか!」
いやいやをするようにもがく彼の手を掴んだ。
「あ?」
ふと我に返ったのか、やっと視線が合って菜穂を見た。
虚ろな目で、
「大丈夫ですよ、ぼ」
僕は、と言いたかったのだろうが、思わず人差し指で彼の唇に触れた。言わせたくなかった。
「大丈夫じゃないです。お願い、もう言わないで」
温かいものが頬を伝う。私は何故泣いているのだろう。
少しでも傷を癒してあげたくて抱きしめた

しばらくそうしているうちに彼も落ち着いてきたようで、菜穂の手をやんわりと引きはがした。
「あ、ごめんなさい、わたし…」
恥ずかしくなった。気付くと彼の包帯は乱れていた。
「巻き直しますね」
自分にできるのはこれぐらいしかなかった。ゆっくりと巻いていく内に何度か目が合った。右目だけで彼は菜穂を見てきた。
「うまいんですね。」
「看護師なので…」
巻き終わると彼は言った。
「ありがとう。大丈夫ですよ、僕は」
口調は柔らかかったがきっぱりと拒絶された気がした。
菜穂は病室を出た。 
そしてそれっきり彼と会うことはなかった。





全く気付いていなかったのだろう。鳥飼は驚いて振り返り、思いも寄らぬ距離に女性が居るのを認めるといぶかしげな顔になった。
濃いサングラスをかけているが、近づくと少し目が透けて見える


あの後、やはり気になって再び病室を覗くと彼はいなかった。
また担当の看護師に聞くと、どうやら病院を抜け出したらしく、騒ぎになっていた。
術後間もないのに。大丈夫じゃないのに。



「鳥飼さん、目は?」
返ってくる答えは分かっていた。それでも聞かずにはいられなかった。
少し微笑んで彼は言った。
「看護師さん。大丈夫ですよ、僕は」
透けたサングラスの奥にある左目は、動かなかった。
























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