光る君へ第32回あらすじ&感想前後編 | NobunagAのブログ

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光る君へ

第32話「誰がために書く」後編



道長のもとに安倍晴明危篤の知らせが来た。


道長は自ら馬を走らせて駆け付ける。



須麻流が祈祷をしている。


あの雨乞いのあとから、

すっかり老人になってしまった

安倍晴明は暗い部屋で寝ている。


が、道長が来るといつものように


「お顔を拝見してから

死のうと思い、

お待ちしておりました」


と、淡々と述べる。


「何を申しておる」


元気づけるように道長は

明るく言った。


「思いの外、健やかそうではないか」


「私は今宵死にまする」


安倍晴明ほどの男になると、

自分の天命も見えるのだろうか。


道長は黙るしかない。


「ようやく光を手に

入れられましたな」


晴明は道長がまひろを

出仕させる約束を取り付けた

ことも熟知しているのだろう。


「これで中宮様も盤石で

ございます。

いずれあなた様の家からは

帝も皇后も関白も

出られましょう」


「それほどまでに

話さずともよい」


死の床にあってなお、

道長の将来を語ってくれる

晴明に道長は優しく声をかけた。


それでも晴明は続ける。


「お父上がなしえなかったことを

あなた様は成し遂げられます」


しかし、父である兼家を

道長は尊敬はしていても

同じしようになりたかった

わけではない。


「幾たびも言うたが

父のまねをする気はない」


「ただ一つ光が強ければ

闇も濃くなります。

そのことだけはお忘れなく」


かつての兄、道兼を見てきた

道長はそれも理解している。


「分かった」


晴明は自らが行ってきた

不思議な力の源を

道長に話し始めた。


「呪詛も祈祷も人の心の

ありようなのでございますよ。

私が何もせずとも

人の心が勝手に震えるので

ございます」


道長にもどこかわかるのか、

微笑しながら頷く。


晴明はしっかりとした目で

道長を見た。


「何も恐れることはありませぬ」


恐れるからこそ、

災いを呼び寄せるのだ…


「思いのままにおやりなさいませ」


晴明はそれだけ言うと、

目を閉じた。


廊下では須麻流が

涙をこらえてむせぶ。


道長の目にも涙が浮かんだ。


まだ、生きろなどと

励ましたところでそれは

気休めでしかないだろう。


「長い間、世話になった」


万感の想いをこめて、

道長は深く深く

頭を下げた。



その夜、自らの予言どおり

晴明は世を去った。


満天の星がその瞳には

宿るように輝いていた。



一条天皇は伊周を再び

陣定に召し出す宣旨を下した。


まひろの物語は帝の心を

掴むことには成功したが、

まだまだ大きな影響を

及ぼすほどではなく、

帝は定子…その兄である

伊周を引き立てようと

躍起になっている。



だが、このようなやり方に

公卿が黙っているわけがない。


「言葉もない。

全く言葉もない…」


案の定真っ先に実資が

異を唱えている。


右大臣の藤原顕光は


「左大臣殿は何を

しとったのだ!」


と、その場にいない

道長を責めるように言う。


だが…さすがに道長の

兄でもある道綱は、

なんでも道長のせいにする

顕光には辟易していた。


「左大臣様を責めるのは

どうなのですか?」


「帝をおいさめできるのは

左大臣殿しかおらぬ!」


「右大臣様がおいさめしても

いいではありませんか!」


珍しく道綱が怒るように言う。


「あ…」


あまり道長の責任ばかり問うと、

ひとつしか位が違わない

顕光とて同じなのだ。


ため息をつくしかない。


実資は


「言葉もない!

不吉なことが起きなければ

よろしいが…」


不安を口にした。



道長も晴明から励ましを

受けたものの、

その心は晴れない。



その夜、皆既月食が起きた。


闇を恐れ内裏は静まり返った。



帝はそんな中でも

明かりを灯しながら

夢中で物語を読んでいたが…


ふと、その火が消える。


廊下から悲鳴が聴こえてきた。



月食が終わる頃、

温明殿と綾綺殿の間から

火の手が上がり

瞬く間に内裏に燃え広がった。


悲鳴をあげて、

女たちが逃げていく。


帝は走っていた。


その行く先は…


彰子のもとだ。


「敦康はどこだ!」


「ただいまお逃がし

まいらせました」


彰子は短く答える。


では、なぜ逃げないのか?


帝は驚いた。


「そなたは何をしておる?」


「お上はいかがなされたかと

思いまして…」


そして、ここから動けなく

なってしまったのだろう。


「参れ」


帝は自ら彰子の手を握った。


彰子は思わず驚く。


炎が燃え盛る中を走る2人。


「あっ!」


彰子が転んでしまう。


「大事ないか!」


帝は彰子を起こしてやると

優しく手をそえて

再び走った。



翌日。


世間は内裏の火事で、

大騒ぎである。


道長も居貞親王のもとへ

報告に来ていた。


「昨夜の火事で八咫鏡を

焼失したというのは

まことなのか?」


八咫鏡とは三種の神器と

呼ばれる皇室に伝わる

秘宝中の秘宝である。


「残念ながら賢所まで

火が回り間に合いませんでした。

申し訳ございませぬ」


「叔父上が謝ることはない」


居貞親王は道長を

責めるのではなく、

原因を別に求めた。


「これはたたりだ。

伊周などを陣定に

戻したりするゆえ…

叔父上もそう思うであろう」


非科学的ではあるが、

安倍晴明が言っていたように

こうして人の心こそが

災いを作り出してしまうのだろう。


だが、道長はこの件において

帝を責める気にはなれない。


「帝も八咫鏡を焼失されて

傷ついておられます。

もうこれ以上、

帝をお責めになりませぬよう」


優しい道長らしい返答だ。


しかし居貞親王も、

苛立ちながら立ち上がる。


「東宮が帝を責め奉るなど

あろうはずもない。

されど月食と同じ夜の火事、

これがたたりでなくて

何であろうか」


親王は道長を見て、

はっきりと述べた。


「天が帝に玉座を降りろと

言うておる」


さすがに道長も驚く。


「帝はまだお若く

ご退位は考えられませぬ」


「どうかな…。

叔父上は中宮が皇子を

もうけられるまで

帝のご退位は避けたかろうが

こたびのことでよく分かった。

間違いない。

帝の御代は長くは続くまい」


親王はもはや野心を

抑えきれなくなっているのだ。


帝が退位すれば、

東宮である居貞親王が

帝になる機会が訪れるのだから

無理もないかもしれない。


道長はため息をついた。



「中宮様を御自らお助け

くださった由、

強きお心に感服いたしました」


「中宮ゆえ当然である」


帝は疲れたように答える。


「そなたのことは頼りにしておる。

されど中宮、中宮と申すのは疲れる」


帝もそう本音をこぼした。


「下がれ」


「はっ」



帝にしてみたら、

道長が礼を述べに来る

こと自体が、

中宮彰子のことを

押し付けにくるように

感じてしまうのだろう。


何もかもうまくいかない。


考えこむ道長は伊周と

すれ違った。


2人とも挨拶なく通りすぎる。



「誰も申さぬと存じますが

この火の回り具合からすると

放火に違いございませぬ。

火をつけた者が内裏におると

いうことでございます」


道長と入れ替わるように

伊周は帝のもとにきていたのだ。


「こたびの火事は

私を陣定に加えたことへの

不満の表れだといわれて

おります。

たとえそうであろうとも

火をつけるなぞ、

お上のお命を危うくするのみ。

そういう者をお信じに

なってはなりませぬ。

お上にとって信ずるに足る者は

私だけにございます」


ここぞとばかりに

伊周は己を売り込んだ。



行成は道長に火事の状況を

詳しく報告していた。


「月食を恐れ皆、

宿所に下がっており

帝のおそばにも蔵人が

おりませず

中宮様のおそばにも女房が…」


「もうその話はよい!」


道長は怒鳴ってしまう。


「はっ」


行成が悪いわけではないのに

何を苛ついているのか…と、

道長自身、すぐに気がつき


「すまぬ」


と、詫びた。


「いいえ…」


行成も中宮のことや、

親王のこと…そして、

伊周のことで道長が

悩んでいるのはわかっている。


「敦康親王様の別当として

申し上げねばと思いましたが

差し出たことでございました」


行成が頭を下げた。


そこへ誰かやってきたようで

恒方がお待ちを、と

声をあげている。


「左大臣様!

私は兄とは違います」


大声でやってきたのは

伊周の弟、隆家だ。


「今、私が左大臣様と

話しておったのだ!

勝手に入ってくるなぞ

無礼であろう!」


さすがに温厚な行成も

型破りな隆家の行動に

声を荒らげる。


行成を無視するように


「そのことをどうしても

お話ししたかったのです」


と笑顔さえ見せて座る。


「兄は家の再興に

命を懸けておりますが

私はそうではありませぬ。

私の望みは志高く政を

行うことのみにございます」


高らかに言う隆家だが…


もともと、伊周と隆家は

別々の方向から道長を

追い落とそうとしている、

と考えていた行成は


「そのようなことに

だまされぬぞ、左大臣様は!」


ととがめた。


「あなたと話しているのではない」


隆家は行成のことなど、

歯牙にもかけない。


行成は己の考えをそのまま

隠さずに伝えた。


「伊周殿は帝を籠絡し奉り

そなたは左大臣様を懐柔する。

そういうたくらみであろう」


「何だと?」


隆家にはむろん、

そんな考えはない。


さすがに隆家も振り返り

思わず手が出そうになる。


「そこまでとせよ!」


ここにきて隆家と行成が

殴り合いでも始めたら

それこそ混乱と分断が広がる。


道長は2人を止めた。


「そなたは下がれ」


道長が命じたのは、

隆家ではなく行成のほうだった。


隆家は行成をニヤリと見る。


去っていく行成。


「あの人は左大臣様のことが

好きなんですかね」


隆家は少し呆れたように言うのだった。



やがて、雪が降る季節となる。


「では、行ってまいります」


まひろが出仕する日が

とうとうやってきたのだ。


「うむ。帝にお認めいただき

中宮様にお仕えするお前は

我が家の誇りである」


為時の言葉を聞いて

惟規が


「大げさですねえ。

俺、内記にいるから

遊びに来なよ」


と、まひろの緊張を

ほぐすように言った。


「中務省まで行ったりしても

いいのかしら?」


「待ってるよ」


「父上、賢子をよろしく

お願いいたします。

頼みましたよ」


まひろはいとを見た。


「お任せくださいませ!」


賢子は寂しそうにうつむいている。


そんな賢子をいとは抱き寄せた。


「身の才のありったけを

尽くしてすばらしい物語を書き

帝と中宮様のお枠に立てるよう

祈っておる」


「大げさだな…」


と惟規は茶化すように言うが


「精いっぱい務めてまいります」


まひろは答えた。


為時はしみじみと語る。


「お前が…女子であってよかった」


これまで事あるごとに

お前が男であれば…と

話していた父の意外な言葉に

まひろは胸を打たれる。


そんな父の思いに

惟規も涙を浮かべた。


いとも泣きそうになる。


為時は微笑んだ。


まひろも涙をこらえて

微笑みを返した。



「姫様…」


見送りに出た乙丸は

もう、泣いている。


「乙丸…。

たまには帰ってくるから

泣かないで。

きぬを大事にね」



まひろはついに内裏へと

出仕する。


廊下を歩くまひろを

遠くから多くの女房たちが

険しい顔で見つめている。


女房たちの奧には

期待を込めた目で

まひろを見つめる

赤染衛門がいる。


「前越前守藤原朝臣為時の娘、

まひろにございます」


まひろが頭を下げると

しばらくまひろを

睨むように見ていた

女房たちも、頭を下げた。


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本作の安倍晴明の描かれ方は

これまでの映画などで

よく見たようなスーパー陰陽師、

ではなくて…


ときには政治的なアドバイスをしつつ

必要があるときには、

祈祷なども行う、

より現実的なイメージで

描かれていた。


実際のところ、

死の間際に晴明が

語っていたように、

呪詛や祈祷などは

人々の心が結果を招くもの…

というのが真実に

近かったのかもしれない。


例えば道長の父の兼家が

クーデターを起こしたときにも

◯日の◯時までにせねば

ならない…というのは、

そうして期限を区切ることで

実行者はより一層、

緊張感をもって挑むから

成功率は高まる。


雨乞いの祈祷も奇跡を

起こしたとも取れるのだが

雨が二度と降らない、

などということはなく…


左大臣の道長が

寿命をやってもいい、

というくらいに

追い詰められているほどの日数は

雨が降っていなかったわけで

そうなると遠からず降る、

という予測くらいはできる。


もちろん、そこに何らかの

人智を超えた助力をするのが

陰陽師の役目だとしても、

少なくとも超能力だけで

物事が解決するわけではなく

相互作用によって、

結果を招き寄せるものだと思えば

奇跡が起きることにも納得はいく。


だが…当の安倍晴明ですら

そうやって現実を見ながら

奇跡を起こしてきたのだが、

それがわからなかったのが

当時の科学力である。


内裏で火事が起きたことは

帝が伊周を取り立てたたたりだ、

などという噂が立ってしまう。


まぁ、これも安倍晴明的に

考えるのであれば


「帝への不満が溜まることで

誰かが火をつけるようなことは

起こるかもしれない」


ということなのだろう。


それは現実的に考えたら

人の仕業なのだが、

当時はたたりだと思われて、

天災…あるいは人災で

あったのだとしても、

帝の統治が悪いせいだ、

という非科学的な理由で

非難されるということが

起きてしまった。


当の帝本人ですらも、

下手したら逃げ遅れ、

焼けて亡くなる、

ということが起きかねない

異常事態だったわけだが…


こうなってしまったのは

劇中でも触れられていたが、

月食のせいで内裏の人々すら

部屋にこもりがちになっていたと

いうこと。


おそらく警護の者ですら

極端に少なくなってしまって

いたのだろう。


また、八咫鏡が焼けてしまったが

三種の神器を警備しなくては

いけない者たちもいる。


月食でただでさえ皆が

引きこもってしまっている中で

各部署に最低限くらいは

人は配置していたとしても…


帝の周りも中宮の周りも、

相当、警護が甘くなって

しまっていたのでは

ないだろうか。


帝が自ら中宮を助けにくる、

火の中を2人で逃げるのは

いくらなんでも無理があり

ドラマの見栄えを重視して

おかしい!


という意見があったけれども

この事件というのは史実でも

実際にあったようで、

道長の「御堂関白記」や

実資の「小右記」にも

帝と中宮が2人きりで逃げることに

なってしまった、という

ことが書かれているのだ。


もちろん、本来ならば

あってはならないことであって、

むしろありえないこと、

なんだけれども、

それが実際に起きていたと

いうのだからよほどの

混乱の極みにあったのだろう。


きっと警護担当者はあとで

道長らにこっぴどく

怒られたとは思うのだが。


この事件はドラマオリジナルではなく

そうした事実が現実にあった、

ということなので、

もしかしたら帝と中宮の仲が

これをきっかけに良くなって

いった、ということも

考えられるところだ。


このような辛い状況で

命からがら助かったにも

かかわらず三種の神器である

八咫鏡の焼失も含めて、

帝の落ち度だと責められるのは

一条天皇にとっても

辛いことだったろう。


先ほど書いたように、

失火か放火かは不明だが

天災であれ人災であれ、

現代ならばこんなことを

天皇のせいだと責める人は

誰もいないのだが、

当時は違っていた…。



科学を重視するのか、

呪いや祈りといった

非科学的なものを

信じるのかは、

我が国においては

難しさをはらんでいる。


ごく普通に暮らしている

現代の我々にとっては

何か起きたときに

それを呪いだなんだと騒ぐのは

せいぜい霊能者だとか、

怪しい宗教団体くらい。


でも、日本という国の根幹を

考えていったときには

話が違ってくる。


この科学が発達した現代においても

天皇陛下は日々、

人々のために祈りを捧げている。


祈ることに意味がない、

などと言ってしまったら

あまりに失礼である。


祈りになぜ力があるかといえば、

たとえ我が国がどんな状況でも

天皇陛下一人だけは必ず、

いかなるときも国民のために

祈りを捧げてくださっている。


つまり我々はどんなときも

一人ではない、

ということを天皇陛下が

示してくださっているのだ。


それは安倍晴明が言ったように、

物事は人の心の在り方次第、

ということでもあって、

自分たちのために祈ってくださる方の

尊さというものを理解できれば

救われる人は生まれるものだ。


当然、ドラマの中の帝も

細かく描かれていないだけで

実際には民のために祈る、

という日々を送っている。


どうしても主役であるまひろや

道長の描写が多くなるだけで、

こうした役目を背負う帝にとって

愛する定子の死、というのは

普通の人が思う以上に

大きな喪失感があったのは

間違いないだろう。


だから事あるごとに

中宮、中宮と口にする

道長を見ると他の女にも

目を向けるべきだ、

なんてわかってはいても

余計にストレスになってしまう

というのも無理はない…


これに関しては前の帝、

あの気の強かった

花山天皇ですらも

愛する后の死によって

完全に政治を放り投げて

しまったのだから、

帝という万世一系の長としての

プレッシャーたるや、

相当なものがあったのだろう。



定子との息子である

敦康親王のことが

気がかりであった、

という理由はあったにせよ

逃げ遅れていた

中宮を見つけて自ら

手を取り逃げた帝は

立派である。


この出来事はきっと、

2人にとっては前に進む

一歩になったのだろうし、

それがドラマだけでなく

現実にあったというのは

なかなかロマンチックだ。


まぁ、火の中を逃げた

お二人にとっては

ロマンも何もない、

というのも事実だろうけれど。