光る君へ第21回あらすじ&感想前編 | NobunagAのブログ

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光る君へ

第21話「旅立ち」前編



自ら髪を切った定子。


悲鳴をあげる母、貴子に


「出家いたします」


短く告げた。


庭から見ていたききょうは


「ああ…」


思わず駆け寄ろうとするが


「ききょう様」


と慌てて止めた。


「どうして…中宮様…」


ききょうは涙を流す。



事の顛末を実資が

一条天皇に報告。


道長も黙ってそれを

聴いている。


帝は大きな衝撃を受けている。


「中宮が自ら髪を下ろしたのか…」


「そのようでございます」


道長は淡々と答えた。


「誰も止めはしなかったのか!」


「一切の責めはこの私が

負うべきこと」


現場にいた実資は、

さすがに実直でこの事態は

己が招いたのだ、と

認めている。


「この身がいたらぬゆえの

ことでございます。

おわびの申し上げようとて

ございませぬ」


「お前を責めておるのではない。

朕のせいである」


帝はそう言った。


「中宮は朕に腹を立て

髪を下ろしたのであろう」


「伊周はまだそう遠くには

行ってないと思われます」


道長は本題に切り込んだ。


中宮が髪を下ろしたことは

結果的に起きたことであり、

当の捕らわれるべき

伊周はいまだに逃げているのだ。


「都の内外に追っ手を遣わし

必ず捕らえます」


「朝廷の権威を踏みにじった

伊周の行いは許さぬ」


帝は怒りをこめて

立ち上げる。


「事の重大さもわきまえず

いきなり髪を下ろし

朕の政に異を唱えた

中宮も同罪である」


力なく言うと帝は去った。


実資と行成も場をあとにする。


一人その場に残っていた道長は、


「愚かであった…。

中宮はもう朕には会わぬ

覚悟なのか…」


という帝の泣き声を

苦しそうに聴いた…。



まひろから定子のことを

聞いた宣孝が


「その場におったのか?」


と驚きの声をあげた。


「庭に潜んでおりました」


「ならば伊周が逃げるところも

見たのか?」


「よく覚えておりません」


「いや、見ておったのであろう」


伊周はどさくさに紛れて

逃げてしまったのであり

あの場にいたまひろにとっては

ききょうが大切にしていた

定子が髪を下ろしてしまった、

という衝撃のほうが大きかった。


「いろいろなことが一度に起きて

何が何だかよく分からぬうちに…」


「中宮様のお気持ちも分からぬ。

御髪を下ろされたのなら

もう二度と帝にはお会いに

なれぬのだぞ」


まひろはうつむく。


「中宮様のお顔は存じ上げぬが

あれだけ帝のお心を引き付け

られるのじゃ。

すこぶるよい女子なのであろう」


いつの間にか宣孝の興味は

そんな定子に向いている。


「女を捨てるにはもったいないのう。

ああ、実にもったいない」


「おやめくださいませ」


これではまるで、

定子が品定めされているようで

ひどい言い方だ。


「下品な興味でペラペラと…」


「下品な興味を抱かぬ者なぞ

この世にはおらぬと思うがな」


開き直ったように宣孝は言う。


「ではどうぞ、

別の所でそういうお話はなされませ」


「お前が二条第におったと

いうから話しておるのではないか」


まひろは顔を反らす。


「分かった。大きにご無礼つかまつった」


宣孝は頭を下げた。


「あ…」


「ハハ…見方を変えるといたそう。

この騒動で得をしたのは

誰であろうか」


宣孝は突然、恐ろしいことを

言い始めた。


「右大臣様であろう。

花山院との小競り合いを

殊更、大ごとにしたのは

右大臣だ」


実際には騒ぎを大きくした発端は

斉信にもあるのだが、

宣孝は知らない。


「右大臣は女院と手を結び

伊周を追い落とした。

さきのさきの関白の嫡男で

中宮の兄でもある

伊周を追い落としてしまえば

右大臣の敵はいなくなる」


そう言われると、

話は通っている…とも

まひろにも思えてくる。


「女院も子も宿さぬのに

帝の心をとらえて離さぬ

中宮が気に食わない。

これは右大臣と女院による

はかりごとやもしれぬ」


まひろは宣孝を見つめた


「どうだ?

こういう真面目な話なら

よかろう」


宣孝はただ好色なわけではない。


とくにこうした、

政治的な話のほうが

賢いまひろは好むはずだ。


だが、浮かぬ顔のまひろに


「いかがいたした?」


と問いかける。


「いえ。なるほどと思いました」


為時がため息をつきながら

入ってきた。


「式部省や大学の知り合いに

挨拶に参ったが皆、

中宮様のご出家の話で

持ちきりで相手にされなんだ」


「今日は間が悪かったな。

装束が見違えるように

立派になったのう」


為時は恥ずかしそうに答える。


「ああ…。

早速、右大臣様から

お手当が出たゆえ」


先ほどまで悪の元凶のように

言われていた右大臣、

道長はいまやこうして

父に目をかけてくれている。


悪く言っていたことなど

おくびも出さずに


「ほう…」


と、宣孝は笑った。



庭を見つめて佇む定子のもとに


「少納言が参りました」


と、声がかかる。


「帰せ」


ききょうに迷惑をかけたくない

定子は即座に命じた。


「帰りませぬ」


負けじと強い声で

ききょうは定子の前まで

やってきた。


「少納言…」


「あの時、里に下がったのは

間違いでございました。

どうか再び私をおそばに

お置きくださいませ」


「ならぬ。

私は生きながらに

死んだ身である」


「何がどうあろうとも

私は中宮様のおそばに

おらねばと思い、

覚悟を決めてまいりました。

命ある限り私は中宮様の

おそばを離れません」


ききょうは凛として言った。


「ご命とあらば私も髪を下ろします」


「ならぬ」


定子は告げる。


「下がれ」


と、定子はめまいを感じ

その場に崩折れた。


「中宮様!」


ききょうは定子を抱きとめた。



「お〜、そこじゃ。

そこそこ、そこそこ…」


実資は妻の婉子女王に

指圧をしてもらっている。


「コチコチにございます。

もう科人の行方捜しなぞ

およしなさいませ」


実資は日々、伊周の捜索に

奔走していた。


「博識なあなたのおやりになる

ことではございませぬ」


「全くだ。

されど逃げた伊周を見つけねば

検非違使別当を辞めるに

辞められぬ。

あいつが見つかれば

配流先に送り、

別当を辞すゆえ」


真面目な実資は、

途中で仕事を投げ出す、

ということが出来ないのだろう。


婉子は実資に抱きつくように

その肩に腕を乗せると


「このごろつまりませぬ。

殿はお帰りになると

疲れた、疲れたと、

すぐお休みになって

しまうんですもの」


甘えるように言う。


「いま少し待て。

いま少しじゃ…」


「ん〜…」


婉子は実資の腹を向けると

その上を激しくさする。


「いま少し待て、

いま少しじゃ。

いま少し」



「北山から宇治まで捜しても

見つからぬとは…」


道長は実資からの報告を受け

考えこんだ。


「二条第にこっそり

戻ってるやもしれぬ。

いま一度、くまなく捜せ」


「二条第は中宮様のご在所に

ございますれば

帝のお許しを賜りとう

ございます」


「うん、今すぐお願いに参る」


道長はすぐに立ち上がる。


さすがの行動力だ。



「かしこくも帝のお許しを

頂いた上は二条第の内外を

改めて探索する。

心してかかれ!」


部下たちに、命じる実資を

定子と貴子が見つめている。


と、聞き覚えのある声が

すぐに響いた。


「捜さずともここにおる!」


見ると僧形の男が歩いてくる。


伊周だ。


「出家したゆえ任地には赴けぬ。

その旨、帝にそうお伝えせよ」


貴子は心配そうに見守るが、

定子は心のない表情で

そんな兄を見ていた。


「伊周殿、かぶり物を取られよ」


だが、伊周は動かない。


「取られよ」


実資は催促する。


「取られよ!」


「うるさ〜い!」


伊周は叫ぶと逃げ出そうとしたが

すぐに捕まってしまう。


「離せ!

やめろ!離せ!」


その頭にはしっかりと

髪が残っている。


この詰めの甘さが、

なんとも伊周らしい…


「これから剃髪するゆえ

任地には赴けぬ、

帝にそうお伝えせよ」


威圧するよう叫ぶ伊周。


それを遮ったのは、

実資ではなく定子だ。


「見苦しゅうございますよ、兄上」


ききょうは定子を見る。


「この上は帝の命に

速やかにお従いくださいませ」


妹からも見離され、

伊周は言葉を失った。


「ただちに太宰府に向けて

ご出立を。

お連れ申せ」


「さあ、立ちなさい!

さあ!」


「嫌だ、嫌だ…

嫌だ、嫌だ、嫌だ!

行かぬ…」


子供のように地面に転がり

抵抗するももはや

逃げ場はない。


「私はここを離れるわけにはいかぬ。

亡き父上に誓ったのだ。

私が…私が我が家を守ると!」


その思いはまことでは

あったのだろう。


だがそんな兄の言葉を

定子は冷めた目で聴いている。


その兄の傲慢さが、

周囲の者を遠ざけ増長させ

この事態を招いたのだから。


貴子は涙を流していた。


「私が行かせる」


甘さの抜けない貴子は

せめて、自分が伊周と

共に行くことで、

伊周が孤独にならぬよう

守ってやろうということだ。


定子はそんな母を見つめた。


「伊周。

もうよい」


母を見る伊周。


「母も共に参るゆえ

太宰府に出立いたそう」


「母上…」


涙に暮れる伊周。


そんな様子をぼんやり

見つめていた定子だが、

胸を押さえて少し

苦しそうな顔になる。


ききょうはその変化を

見逃さなかった。



帝は一部始終を聞くと


「都にとどまるために…

愚かなことを…」


失望を顕にした。


「伊周は母を伴って

配流先へ出立いたしました」


実資がそう説明するが、

帝の怒りは大きかった。


「許さぬ。ただちに引き離せ!」


流罪なのに母親が

ついていく…というのは

確かに甘すぎるが、

帝も激しく取り乱している。


「承知つかまつりました」


帝のあまりの怒りに、

道長も困惑しながらも

従うしかない。



「母上、申し訳ございませぬ」


力なく述べる伊周。


「私がそなたに多くを

背負わせてしまったのよね」


愛する夫、道隆のように

立派な男になってほしいという

母としての願いは、

もしかしたら伊周にとっては

重荷になっていたのかもしれない。


網代車が2人を乗せて進む…


と、車が止まった。


実資の声が響く。


「母の同行はまかりならぬとの

帝の仰せにござる」


道長は何も言わず、

佇むように車を見つめた。


「お出しせよ」


実資は冷静に命じる。


「伊周!」


「母上!

離せ!」


抵抗する伊周…


道長は馬を降りて近づいていく。


「やめろ!中宮様の御母君に

何をする!」


伊周は妹が中宮であることを楯に

母を守ろうとする。


「どうか…どうかお許しを。

定子も出家して

私にはこの子しかおりませぬ」


ゆっくり歩いてくる

道長を前に貴子は

膝をついた。


「どうか、どうか…」


若き日の道長と道隆とは

決して仲が悪かったわけではない。


それどころか、

兄は自分に優しかったし、

この義姉からも道長は

可愛がってもらっていた…


「母上…」


涙を流す伊周も、

道長にとっては甥である。


「右大臣殿!頼む、見逃してくれ…」


「お助けください、右大臣様」


「右大臣殿!頼む…」


かつては家族の一員…


であったはずの2人が、

自分を右大臣と呼び、

必死に頭を下げている。


道長の胸が痛まないはずはない。


だが、道長には帝の命を

止めることはできない。


無言で見つめるしかなかった。


「伊周殿、この先は騎馬にて

下向されるべし」


実資は淡々と命じた。


「嫌だ…母上!母上!」


「伊周!」


「嫌だ!俺は病気だ!

馬には乗れぬ!」


「伊周!」


「母上!母上!」


「伊周!」


子供のように叫び、

いまだ抵抗する伊周を

実資と道長はただ、

黙って見つめた。



父、道隆の死から僅か1年。


その子供たちは全て、

内裏から姿を消した。



道長は足音に目を覚ます。


「殿」


百舌彦である。


「何だ」


「二条第が火事のように

ございます」


道長は驚いて飛び起きた。



まひろも不安げに

炎が上がる先を見つめている。


様子を見に行った為時が

戻ってきた。


「どうでしたか?」


「二条第が燃えているそうだ。

ここまで火の手が及ぶことはない」


「中宮様とききょう様は…」


「分からぬ」



燃え盛る二条第の中で

定子は逃げることもなく

座り続けていた。


「中宮様!」


ききょうは定子を見て

声を上げる。


定子はただ目を閉じている。


「中宮様、参りましょう」


「そなたのみ逃げよ。

私はここで死ぬ」


「なりませぬ」


「生きていてもむなしいだけだ。

私はもうよい。

もうよいのだ…」


生きることを諦めている定子。


「なりませぬ!」


ききょうは駆け寄った。


「おなかのお子のため

中宮様はお生きにならねば

なりませぬ」


ききょうは定子の腹を見ると

そう強く諭した。


「生きねばなりませぬ」


その思いは定子を動かした…



詮子が外を見つめていると

倫子がやってきた。


「道隆兄上は己の命が

短いことを悟っておられたのかしら。

定子を中宮にするのを急ぎ

伊周らの昇進を急がれた。

今日のこの悲しいありようは

兄上の焦りから始まっている

ような気がする」


確かに道隆はある時から

人が変わったように

己の家ばかりを優遇するように

なってしまった。


それは詮子から見た

優しい道隆兄上とは、

まるで別人のように、だ。


「一度に伊周様、

隆家様、中宮様を失った貴子様は

お気の毒でございますね…」


「先のことは分からぬのう…」


少し不安そうに詮子は答える。



まひろは琵琶を弾いている。


定子は、ききょうは

どうなったであろうかと、

無事を案じて。



「こたびの騒ぎにおける働き

まことに見事であった」


言葉とは裏腹に帝の

顔色は冴えなかった。


一条天皇は実資を中納言とし

望みどおり検非違使別当を免じた。


そして、道長を正二位左大臣に

昇進させた。



「浮かないお顔ですな」


お互い昇進した実資は

道長に声をかけた。


「お上の恩恵を賜ったのだ。

そのような顔はしておらぬ」


「さようでございますか。

気のせいでございました。

気のせい、気のせい」



定子の出家後、

次の后探しが始まっていた。


「他に年頃の姫はいないの?」


帝の母でもある詮子は、

道長にも次の后探しを

命じている。


「右大臣、顕光殿の姫

元子様がいらっしゃいますが」


「その姫、村上天皇の御孫?」


「はっ」


「よいではないの!

それにしなさい!

義子も元子も定子よりも

ず〜っと尊い生まれ。

帝のお子を産むには

うってつけだわ」


兄の子であるのに、

詮子はよほど定子が

嫌いなのだろう。


「ウフフフフ…」


思わず倫子が笑った。


「何かおかしいことを言うたか?」


「女院様があまりにお元気に

なられましたので」


詮子も笑顔になる。


「もう呪詛されておらぬゆえ」


「あの呪詛は不思議なことに

ございましたね。

女院様と殿のお父上は

仮病がお得意であったとか。

フフフ…」


意味ありげに笑う倫子。


詮子も道長も固まった。


「産み月が近く気が立っておるな。

いたわっておやり」


バツが悪そうに詮子は言った。


「はっ」


と答える道長。


「フフフフ…」


倫子は笑いをこらえた。



まひろの元にはききょうが訪れ、

定子の懐妊を教えていた。


「ご懐妊…」


まひろが声を抑える。


「帝のお子ゆえ公になると

呪詛されるやもしれぬと

高階一族が秘密にしたがって

おられまして」


「帝はそのことご存じ

なのですか?」


「いいえ」


まひろは戸惑う。


「なんということでしょう…」


「中宮様はご出家以来、

生きる気力を失われてしまって

お食事もあまり召し上がらないのです。

このままお体が弱ると、

おなかのお子のお命も

危ないと思い、

気が気ではありません。

中宮様をお元気にするには

どうしたらいいかしら?

まひろ様によいお考えはない?」


ききょうはそうまひろに

助けを求めた。


「さあ…」


「そうよね」


まひろはふと思いあたった。


「ききょう様、以前、

中宮様から高価な紙を

賜ったとお話ししてくださったでしょ」


「ええ。伊周様が帝と

中宮様に献上された紙ね」


「そう、それです」


「ああ…帝がそれに司馬遷の

史記を書き写されたところ

中宮様が私は何を書いたら

いいかしら、と、

お尋ねになったのです」


「ああ…何てお答えになったのですか?」


「枕ことばを書かれたら

いかがでしょう、と

申し上げました」


謎掛けのようなものである。


まひろはすぐに意図を理解した。


「史記がしき物だから

枕ですか?」


「フフッ。よくお分かりだこと」


ききょうは嬉しそうだ。


きっと定子ともこうした

頭を使うやりとりを日々、

楽しんでいたのだろう。


「そうしましたら中宮様が

大層面白がられて、

その紙を私に下さったのです」


「でしたらその紙に、

中宮様のために何かお書きに

なってみたらよいのでは」


「え…」


「帝が司馬遷の史記だから

ききょう様は春夏秋冬の四季とか」


ききょうは驚いた。


「まひろ様…言葉遊びが

お上手なのね」


「え…」


「しき」


「あっ…」


2人は笑い合った。



夜。


ききょうは静かに筆をとった。



書き上げた紙を

そっと定子の枕元に置く。


「春はあけぼの

やうやう白くなりゆく山ぎは

すこしあかりて

紫だちたる雲の

細くたなびきたる」



定子はききょうが書いてくれた

紙に目を通す…。



「夏は夜」


ききょうが顔を上げると、

蛍がゆらゆらと飛んでいる。



「秋は夕暮れ…」


やがて定子はそのききょうからの

愛のこもった書を、

楽しみにするようになった。



ある日、ききょうが気づくと

定子が床を離れて、

ききょうが書いたその紙を

読んでいる姿が目に入った。



春はあけぼの

やうやう白くなりゆく山ぎは

すこしあかりて

紫だちたる雲の

細くたなびきたる



たった一人の悲しき中宮のために

枕草子は書き始められた。


_____________________________________________



髪を下ろす…ということの意味は

なかなか現代では、わかりにくい。


定子は命を賭けてでも

伊周を助けようとした、

ともとれるし、

現世を捨てる=帝とのこれからを

捨ててでも、

抗議の意を示した、ともいえる。


しかし、それに引き換え、

肝心の伊周のほうは

僧形で現れながらも

髪を切ることさえしていない。


まだ、この兄がそこまでの

胆力を見せてくれたなら

定子が命を賭けた意味も

あったとは思うのだが…。



伊周があまりにも

子供じみていることには

賛否はあるだろうが、

少なくとも「このドラマでは」、

伊周はどこかで父が残した家を

守らなくてはいけない、

という強い思いが暴走して

しまったのだろう。


また、貴子にしても

あれだけ聡明であったのに

我が子の前ではこんなに

甘い母親になってしまう、

という点は演じていた

板谷由夏さんも残念には

感じていたようだ。


そこはドラマとしての

アレンジでもあると思うが

貴子という人は史実としても

非常に賢い女性であったことは

伝わっている。


ドラマでもそうであったように、

夫である道隆のことを深く

愛していた。


そして、それだけの愛を

抱いていたからこそ

息子よりも夫の幻影を

追いかけてしまって

いたのかもしれない。


定子は早くから伊周に


「もっと人望を得られませ」


と、兄の足りない部分を

指摘していたものだが…


貴子は甘やかしてしまったの

かもしれない。


このとき22歳あたりなので

今の時代なら大学生〜新社会人、

くらいの年ではある。


高貴な生まれであることから

若くして国政のトップに置かれて

しまってきたことによって

増長してしまったのも

やむを得ないとは言えるが…


道長がそうならなかったのは

三男ということもあり

初めからそこまでの期待は

されていなかったことや、

自身の性格もあるが

そこまでして人の上に立ちたいと

考えていたわけでもなく…


流れとしてたまたま

自身が政権を握れる機会が

20代後半という、

ちょうどいい時期にやってきた。


これは道長の人生そのものが、

タイミング的に恵まれていた、

ということでもあるだろう。



伊周が配流されたあと、

二条第が火事になった、

というのは史実として

記録が残っている。


当時、火事が多かったことは

作中でも描かれていたし

これが放火なのかはわからないし

もしかしたらドラマとしては、

世を儚んだ定子が自ら

火を放った可能性もあるかな、

とも思える出来事となっている。


お腹に子供いたらそんなことは

しない、と普通は思うが

事実、定子は逃げようとも

していないので…


自ら火を放ったかどうかはともかく、

この時点では定子はもう

生きる気力を失っている、

ということがよくわかる、

悲しい場面だ。


ただ…このときのききょう、

清少納言、

ファーストサマーウイカさんの

定子に対する忠義心が

本当に素敵で胸を打たれた。


もはや、サムライである。



まひろすなわち、

紫式部がきっかけとなって、

清少納言が枕草子を

書き始めた。


これはもちろん、

このドラマのオリジナルである。


どうもこの描写に対して

清少納言ファンとか

自称平安時代ヲタの一部が

ものすごく怒ってるのだが…


紫式部が清少納言が友達、

ということそのものが、

ドラマの設定であるし

残された書物からは

むしろ仲が悪かったことすら

うかがえるのは確か。


しかしながら厳密には、

紫式部は実在したことが

わかっているけれど、

清少納言は実在したか

疑問視されていたりもする。


おまけに枕草子は、

原本は存在していないから

残っているものは

写本である。


(源氏物語も原本はないけど)


こうした部分に関して

どういう想像をふくらませるか、

それこそが大河ドラマの

醍醐味であると自分は思う。


昨年のどうする家康でも、

本多平八郎と榊原康政の

熱い友情が、描かれた。


が、彼らだって徳川四天王、

と呼ばれてはいたけれども

そんなに深い交流があったかは

詳しくはわからない。


でも、彼らの背景を考えると

同い年で出世のライバルでもあり…


最初は平八郎のほうが

目立っていたけれど

康政は武力だけではなく

智謀でも活躍するように

なっていった。


それを踏まえるとドラマのように

平八郎のようになりたかったが、

自分の得意な分野を伸ばして

肩を並べる相棒になった、

そして親友になっていった

というドラマのような関係が

あってもおかしくない。


年老いた2人が、

まだ死ねない、

殿のためにこそ

死にたくないんだ、と

槍を交わすシーンは

とても素敵であった。



本作の紫式部と清少納言の

これからはまだわからないが、

同世代に生きていた

2人の文才ある女性が

どこかで交流していたら

枕草子を書いたきっかけが

紫式部の何気ないひとことから

だった、としても

そんなに悪いことでは

ないと思うのだ。


さらにこのドラマの

清少納言は名前が


「ききょう」


となっている。


「なぎこ」


という説があるのにあえて

ききょう=桔梗、

紫の花を名前にしている。


俺が作者ならばそこに

何らかの意味を込めると思う。


清少納言という、

紫式部以上にその生涯が

わからない人物を

物語のキーパーソンの一人に

据えているのだから、

これをどう描くのかが

作者の腕の見せ所だろう。


さらには

ファーストサマーウイカさんは

非常に熱を込めてこの役を

演じている。


書道のシーンなども、

代役を立てずに自ら

筆をとっているくらいである。


本当に美しく気高く、

多少はトゲもあるけれど

どこか面白みがある

魅力的な清少納言が

まるで本物のように

ドラマの中に存在している。


大石静さんとウイカさんが

描き出す清少納言のこれからは

とても楽しみだ。


もちろん、これから

本格的に活躍しはじめる

紫式部、主人公のまひろも。



枕草子が書き始められたのは

ドラマ同様に中関白家が、

没落し始めてからなのだという。


枕草子で描かれている

中関白家の姿というのは

実にキラキラしていて、

だからこそファンからは


「ドラマの中関白家は

貶められている!」


という批判もあるのだが…


しかし権力争いの最中にある

最上位の家の宮中がそこまで

華やかだけのものだろうか?


ドラマにあったように

清少納言だって意地の悪い

嫌がらせもうけたかもしれない。


が、清少納言はそういうことは

後世に残すことなく、

ただ美しい中宮定子の姿と

輝いていた中関白家のことを

書き残した。



それは定子に元気を出して

ほしかったから…


助けたかったから。


少なくとも書き始めたきっかけを

そこに置いたのは、

忠義心だけではない

定子への友情の証ともいえる

本当に美しいことだと思う。


大河ドラマでは人が死ぬシーンで

感動することが多いのだが…



こうして誰かが誰かを救う、

そういう描き方に対して

ここまで感動させられたのは

久しぶりである。



大石静さんと

ファーストサマーウイカさんに

感謝です!