光る君へ第6回あらすじ&感想前編 | NobunagAのブログ

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光る君へ

第6話「二人の才女」前編



母は道長の兄、道兼に殺された。


でも、それは私のせいなの…


自分を責めるまひろを見た道長は

開き直る兄を殴り飛ばした。


泣きながら帰ったまひろを、

父の為時は優しく受け入れてくれた。


永観二(984)年。


まひろの見つめる水桶には

月と道長が映っている。


まひろの言うことを信じる。


そんな優しい道長への思いを

振り払うように

まひろは顔を洗った。



顔を拭き部屋に戻ろうとする

まひろ。


「よいか?」


と、父が訪ねてきた。


「はい」


「先ほど言うのを忘れたことが

あってな」


「何でございましょう」


「今宵、何があったかは聞かぬ。

だが、もう左大臣家の集いには

行かないでよい」


為時は優しく告げた。


「わしが浅はかであった。

それだけだ。

ゆっくり休め」


為時も己を責めていたのだ。


まひろのことを利用するように

左大臣のことを探るため、

彼女を集いに参加させた。


が、それがきっかけで

まひろは舞姫をすることになり

道兼を知ってしまった。


今宵、まひろが泣いた理由は

わからないけれど、

おそらくはそれに関わる

辛いことがあったのだろうと

為時なりにまひろを

気遣っているのだ。


だが…


「父上。

お気持ちうれしく思います。

でも、私は左大臣家の集いに

これからも行きとうございます」


「外に出たいからか?」


代筆の仕事を禁じて、

家に閉じ込めてしまったのも

為時だ。


「それだけではありません。

父上のよりどころが、

我が家にとっての敵である

右大臣家しかないのは

私も嫌でございます」


為時はハッとした。


「私も嫌でございます」


ということはまひろは、

為時とて内心は嫌でありつつ

それをしていることを

理解してくれているのだ。


「源とのつながりも

持っておかれた方が

よいのではないでしょうか」


「そのようなことを突然…」


「左大臣、源雅信様は倫子様を

殊の外、かわいがっておられると

伺います。

これからは今よりも覚悟を持って

左大臣家の倫子様と仲よくなり

源とのつながりを深めますゆえ

どうか左大臣家の集いに

行くことをお許しくださいませ」


まひろはそう頼み込んだ。


もっともまひろにとっては

そうした政治的な目的以上に

倫子のことを好ましいと思う

気持ちもあるのだろう。


左大臣家の集いに参加することは

そうしたまひろの心情にも

沿うことだし父が許可してくれれば

家のつながりを深めるという

政治的な役割もできるし、

父の約にも立てる。


これまでよりも、

まひろにとって明確な

目的ができたとも言えた。


「そこまで考えておったとは…」


為時は娘の聡明さに、

改めて目を見張った。


「お前が男であったらのう…」


「女子であってもお役には

立てまする」


「よう分かった。

左大臣家の集いに行って

父を支えてくれ」


「はい」


長年、亀裂が入っていた

父と娘との関係にようやく

明るい兆しが見え始めた。



一方で道長は父、兼家から

思わぬ話を持ちかけられていた。


「そろそろお前も婿入り

せねばな。

左大臣の一の姫はどうじゃ?」


「は?」


「お前の婿入り先じゃ。

先日の左大臣家のうたげで

娘を見た」


猫の小麻呂を追いかけていた

倫子のことを兼家は思い出す。


「悪くなかったぞ。

一風変わっておるがな」


兼家は思い出すと笑顔になる。


「左大臣源雅信は、

宇多天皇の血筋。

土御門殿も見事な屋敷。

血筋と富は申し分ない。

わしも左大臣と手を結ぶことが

できればやりやすくなる。

一挙両得だ」


これまでは左大臣の雅信を

追い落とすことばかり

考えていた兼家であったが

先日来、左大臣や関白との仲は

強まりつつある。


であれば無理に争うよりも、

お互いの子供同士を結婚させ

つながりを深めたほうがいい。


とくに花山天皇は、

義懐らを重用して

兼家、雅信ら今の大臣の

権力を削ぎ落とそうと

しているのだから、

左大臣とは手を組むべきなのだ。


しかし当然

道長はまひろのことが気になり

返答に詰まる。


父の兼家は知らないが

今夜、道長が道兼に対して怒ったのは


「まひろの母」


が殺されたからなのだ。


「何だ?はっきりせぬな。

ほかに好いた女子でもおるのか?」


道長は下を向いた。


「おらぬな。

おらぬと顔に書いてある」


「父上、今はそのような話をする

気分ではございません」


それはそうだろう、

とばかりに兼家も

真顔になった。


「兄、道兼の所業については

今宵限りで忘れよ。

道兼には道兼の使命があるのだ」


道長は不思議そうに父を見る。


「兄上の使命?」


兼家は驚くべきことを述べる。


「道隆とお前が表の道を行くには

泥をかぶるやつがおらねばならぬ。

道兼はそのための道具だと考えよ」



考え込みながら部屋を

退室した道長。


そこへ当の兄、

道兼が歩いてくる。


月が照らす中で、

すれ違う二人。


道兼の顔には道長に

殴られた痣が残っているが

道兼は不敵に笑っている。


すれ違いざまに立ち止まると

道兼は尋ねた。


「俺があやめた女、

お前、知ってたのか?」


道長は答えないが、

道兼はさすがに形ばかりは


「だったら悪かったな」


と、「道長に」謝った。


道長は父から言われた言葉を

報いとばかりにそのまま返した。


「兄上には我が家の泥を

かぶっていただかねば

なりませぬゆえ、

あのことは忘れまする」


「言うではないか」


道兼は少し寂しそうに

自嘲気味な笑顔になる。


「父上がそう仰せになりました」


道兼は真顔になる。


「父上のためなら

いくらでも泥をかぶる。

ためらいはない」


そう言い切る道兼。


道兼は改めて弟を見た。


幼い頃から周囲のことには

さしたる興味も持たずに、

呑気に生きてきた弟…


「お前は自分だけきれいな所に

いると思うておるやもしれぬが

足元を見てみろ」


道長は道兼とともに、

お互いの足元に目を向けた。


「俺たちの影は皆、

同じ方を向いている」


道兼は道長を見る。


「一族の闇だ」


伸びた影を見つめる道長は、

言葉を返せなかった…



私は道長様から

遠ざからねばならない。


そのためには

何かをしなければ…


この命に使命を

持たせなければ…。


まひろは密かに、

道長への気持ちを

諦めようと決心している。



道長は昨夜のことを

忘れようと朝から

馬を駆ったが、

その顔つきは晴れなかった。



寛和元(985)年。


「まあなんといたしましょう」


「それはそれはいとめでたきことで…」


しをりと茅子の明るい声が

響いている。


「では…」


赤染衛門が歌を詠み始めた。


「嘆きつつ

ひとり寝る夜の明くる間は

いかに久しきものとかは知る」


茅子としをりが、

うーん…と考えこみ


「さみしすぎ…」


と茅子は感想を述べた。


「蜻蛉日記をお書きになった

お方のようにはなりたくありませぬ」


しをりがそう言う。


倫子は笑って


「そんな心配をなさっていると

そういうふうになって

しまいますわよ」


といたずらっぽく言った。


「えっ!」


皆が笑う。


まひろはいつものように

自分の解釈を述べる。


「蜻蛉日記は殿御に

顧みられなかった作者が

その嘆きをつづったものでは

ないと思います」


「まあ、そうなの?」


「前書きにも、

身分の高い男に愛された女の

思い出の記、と

ございますし…」


赤染衛門が頷く。


「今をときめく藤原兼家様で

ございますからね、お相手は」


「身分の低い私が

身分の高い殿御に愛され

煩悩の限り激しく生きたので

ございますという…

自慢話やも…」


大胆な解釈に倫子も

しをりも茅子も


「自慢話!?」


と驚いた。


倫子は赤染衛門に


「そうなの?」


と確認する。


「まひろ様の申されるとおりで

ございましょう」


赤染衛門は肯定してくれた。


「されど何がどうあれ一人寝の

さみしさを歌った歌がすばらしく

そちらが強く感じられるので

ございますよね」


さすがは赤染衛門、

まひろの解釈に沿いながら

改めて歌の良さを解説する。


「知らなかったわ、

読んだことがないから」


倫子が感心した。


「家に写本がございますので

今度、お持ちします」


まひろはすぐにそう言う。


「要らないわ」


「は…」


「私、書物を読むのが一番苦手なの」


倫子がいたずらっぽく言うと


「私も」


「私も」


茅子としをりも同意し、

皆が笑い出した。


まひろもぎこちなく笑う。


が、皆が悪意があるのではない。


それだけまひろをきっと

受け入れてくれているのだろう。



二人きりになると

倫子はまひろに尋ねた。


「まひろさんって

いつも張り詰めていらして

疲れません?」


「疲れておるやもしれません」


「そうよね…もっと

お楽になさいましよ」


倫子はまひろがなんとか

皆に溶け込もうとしているのを

気遣っているのかもしれない。


「幼い頃に母を亡くしましてから

いつも肩に力を入れて

生きてきたように思います。

楽に生きるのが苦手なのです。

倫子様が書物をお読みになるのが

お苦手なように」


「そうでしたか…。

苦手なことを克服するのも

大変ですから

苦手は苦手ということで

まいりましょうか」


と、倫子は優しく微笑んだ。



帰り道、街なかを歩いていると

散楽の者たちが稽古をしている。


磯丸は苦労しているが

直秀はさすがの身軽さで

宙返りをしている。


まひろは思わずそこへ駆け寄った。


「終わったの?」


「一休みだ」


直秀が答えた。


「すっごいわね、みんな。

人じゃないみたい」


直秀は水を飲んでいたが、

まひろの言葉が気に触ったのか


「虐げられている者は

もとより人扱いされていないんだ」


と冷たく言った。


「そんなに怒らなくてもいいじゃない」


「まことのことを言っただけだ」


「まあまあ、まあまあ」


と輔保がなだめた。


「あっ…今度ね、五節の舞で

倒れた姫を笑いのタネに

しようと思うんだよ」


まひろが、私のことだ…、

と気まずい顔になる。


さすがに直秀は


「俺はあんまり乗らないけどな」


とごまかした。


だが、まひろはなぜか

楽しそうに


「あ…じゃあこういうのはどう?

五節の舞姫が舞台に出ていくと

そこには高貴な男たちが並んでいて

舞姫はその大勢と契っているの。

ん〜…神に捧げる舞を舞いながら

舞姫は男たちとの逢瀬を

あれこれ考える」


自分が元ネタなのに、

物語を語り始めた。


「男の都合のいいように

扱われてるように見えて

実は女子こそしたたかだって話。

どう?」


散楽の衆は皆の顔を見る。


「駄目か…。

また違うの今度考えてくるわ」


「誰もお前に頼んでねえよ」


直秀が言うと皆も笑った。


「大体、その話のどこが面白いんだ?

散楽を見に来る民は皆、

貧しくかつかつで生きてる。

だから笑いたいんだよ。

笑ってつらさを忘れたくて

辻に集まるんだ」


彼らがしている風刺は、

民衆にとっての息抜き、

それを笑い話にすることで

多くの民に活力を与えるのが

彼らの誇りだった。


「下々の世界では

おかしきことこそめでたけれ。

お前の話はまったく笑えない。

所詮、貴族のたわ言だ」


「ん〜…」


まひろは考え込んだ。


まひろからしてみたら

下級貴族の舞姫…

つまり自分が高貴な者たちと

交わって利用していたら

面白いんじゃないかと

考えたのだろうが、

それですらも民からしたら

手の届かない話、というわけだ。


だが酷評されたまひろが

気の毒に思ったのか

輔保は


「すいませんね」


とまひろに謝った。


「いつも来てくれるお客さんに

お前、無礼じゃないか」


直秀にそう注意するが、

まひろは聞いていない。


いや、頭の中で新しい話を

模索していた。


「笑える話…

今度考えてみるわ。

じゃあね、稽古頑張って」


頼んでない、と言ったのに

なぜかまひろはやる気まんまんで

踵を返す…


直秀は呆れて見つめている。


久々利が楽しそうに


「お前、あの子にほれてんのか?

いきなり絡んでよ」


と茶化した。


直秀は苦笑いすると


「俺は誰にもほれねえよ。

明日の命も知れぬ身だ」


と、寂しげに答えた。



「おかしきことこそ

めでたけれ…」


まひろはその言葉を覚えるように

口にしながら帰っていく。



花山天皇の后、

つまり倒れた忯子のもとに

兄をである斉信が

見舞いにきている。


「すっぽんの甲羅にございます。

これを煎じてお召し上がりください」


「何も喉を通りませぬ」


「元気な皇子を

お産みいただかねばなりませぬゆえ」


「はあ…」


と忯子はため息をついた。


本題、とばかりに斉信は

切り出した。


「実はお願いがありまする。

お産のために屋敷に

お下がりになる前に

帝におささやきくださいませぬか。

兄、斉信は使える男。

帝の尊き政には兄のような

若い力がなくてはならぬのだと」


「そのようなこと…」


「お願いいたします」


斉信は妹に必死に頼んだ。


「我が一族が頼みとするは

女御様しかおられませぬゆえ」


忯子が答えに詰まっていると


「帝がおいであそばしました」


と侍女が告げた。


斉信は慌てて下がる。


「忯子、いかがじゃ?」


花山天皇は心から心配そうに

尋ねる。


「そなたのことが気になって

政に気が入らぬ」


まるで子供のようだが、

帝の愛は本物なのだろう。


「もったいないお言葉…」


帝は忯子の手をしっかり握ると


「朕がついておる、案ずるな」


と優しい言葉をかけた。


斉信がチラと見ると、

帝と目が合ってしまった。


「お前は誰じゃ?」


冷たく言う帝に、

斉信は答えられず頭を下げるしか

できなかった。



道隆はくつろぎながら

酒を飲んでいる。


「ああ…うん、しみわたるのう…」


普段は礼儀正しい道隆だが、

妻の前では気を抜いているのだろう。


「そなたもどうじゃ?」


「頂きます」


そこへ


「道長様がお見えでございます」


と声がかかる。


道長は部屋に入ってきたが、

妻とくつろいでいる兄を見て


「あっ…」


邪魔をしてしまったかな、

と立ち止まる。


「珍しいな」


「さあ、道長殿もこちらへ」


高階貴子が優しく声をかけた。


「お邪魔いたします」


「邪魔なことはない。

わしと貴子の仲むつまじさは

常のことじゃ」


「は…」


物腰柔らかい道隆は、

道兼とは違い、

道長も気を使わずにいられる。


道隆の妻、高階貴子も

非常に気が利く女性で

珍しく義弟が訪ねてきた、

ということは兄弟だけで

話したいのだろうと察し、

目配りして侍女を下がらせた。


「何事じゃ?」


「実は昨日、四条宮で

行成に聞いたのですが…」




「明日の夜、義懐殿と

公任殿、斉信殿がお会いになります。

義懐殿のお屋敷で」


「ん?」


と道長は怪訝な顔をする。


「義懐殿の狙いはまずは

息子たちを懐柔し

父親もろとも帝の一派に

組み込もうというもののようです」


「俺は呼ばれておらぬが。

それはつまり我が右大臣家の

排除ということか?」


普段はぼんやりしている

道長だったがさすがに

兼家の息子である。


「おそらくは…」



もしかしたら忯子が

帝に話だけはして

くれたのかもしれないが、

無論、道長にはそこまでは

わからない。



「斉信はわかるが

公任まで誘いに乗ったのか」


「そのようでございます」


斉信は忯子の兄であるから

帝、もしくはその一派が

目をつけるのはわかる。


が、公任の父親である

関白頼忠のことは帝は

冷遇していたのに、

その息子を誘うということは

勢力図が変わる可能性がある。


道隆はしばし考えこんだ。



その頃、義懐は女子どもを

2人に侍らせて酒を飲ませて


「さあ、我らで新しき政を

なそうぞ!」


と下品にもてなしている。


「そうじゃ、そうじゃ!」


帝の乳母子である

惟成も


「頼むぞ公任殿」


と声をかけていたが、

当の公任は


「ああ…」


と愛想笑いを浮かべたが、

楽しそうな様子ではない。


「頼みましたぞ斉信殿」


「ええ…」


斉信も若さゆえに、

政への情熱があるだけで

下品に騒ぎたいわけでは

なかったろうが、

酒を飲み干してみせると

場は盛り上がってはいた。



「弘徽殿の女御様に

皇子が産まれることは

恐らくなかろうし

帝が長くご在位になることも

なかろうが…

若い者たちの心が

帝と義懐一派に向かい過ぎるのは

よろしくないな。

引き戻さねば」


落ち着いた口調で道隆は述べた。


道長はふと疑問を口にする。


「弘徽殿の女御様に

皇子が産まれることは

なかろうとは?」


そういえば、

道長は呪詛のことは

知らなかったか…と、

道隆は口が滑ってしまったと

思いつつも、

話しておくべきだろうと

語りだした。


「先日、父上が安倍晴明に

命じられた。

その場には関白様と

左大臣様もおられた。

皇子を望まぬことは

この国の意志じゃ」


道長はそういうことか…と

視線を落とす。


「道長、お前は内裏での

力争いには全く興味がないと

思っていたがどうしたのじゃ。

心を入れ替えたのか?」


兄は父のように、

道長の中で何かが

目覚めてくれたことを

喜んでいる。


「今もさほど興味はございません。

されど帝をお支えいたす者が

義懐殿というのはいかがかと。

帝がどのようなお方かはさておき

お支えする者が知恵なくば

国は乱れます。

義懐殿なら父上の方が

ずっとよいと思いました」


道長は最後は自信を持って

そう言い切った。


おそらくは多くの貴族らが

そうなのだ。


道長とて父、兼家は自分に

見せてくれている甘い顔だけでなく

狡猾な面もあることは知っている。


現に帝に皇子が産まれぬように、と

呪詛さえさせているのだ。


だが、天秤にかけたときに

義懐と兼家とでは、

上に立つ者としての器が違う。


道隆は道長の聡明さに

ハッとしたように見つめ、

わらった。


貴子も素晴らしい、

とばかりに微笑む。


「そのように能弁な道長は

初めて見た。

よく知らせてくれた」


と、嬉しそうに道隆は

弟の肩を抱いた。


「このことは父上には

黙っておけ。

もちろん道兼にもだ」


「は…」


「父上ならば力で

抑えつけようとなさるであろう」


道隆は道隆で父親とは

違う形で独自の力を得る道を

探っていた。


「されどその手のやり方は

若者のふんまんを煽るだけじゃ。

うまく懐柔する策を

わしが考えよう」


元来、争いが嫌いな道長に

とっても道隆の考えのほうが

自分に近いはず…


まして今回のことは、

自分の友も巻き込むことだけに

だからこそ父ではなく、

兄に相談したのだろう。


貴子が口を開いた。


「殿?」


「ん?」


「漢詩の会をお開きになっては

いかがでしょうか?」


「漢詩の会か…」


「漢詩にはそれを選んだ者の

思いが出るといいますでしょう?

それに若い方々は学問の成果を

披露する場に飢えております」


道隆は満足そうに頷く。


「うん、そうじゃな。

そういたそう。

では学者も呼ぶとしよう」


「さすが兄上と義姉上。

漢詩の会はよろしいかと

存じます。

…が、私は出なくても

よろしいでしょうか?」


道長は気恥ずかしそうに言う。


「漢詩が何より苦手でして…」


貴子が吹き出し、

道隆も笑った。


道長の学問嫌いは、

三郎の子供の頃からだ。


鋭くなったようにみせて

相変わらずな道長は、

道隆にとってやはり

可愛い弟であったろう。



「父上のお顔ににわかに

ほくろが出来たのかと

思いましたら

ハエでしたの」


左大臣家の集いでは、

いつもの如く倫子が

皆を楽しませている。


「普通、この辺りに虫が

いましたら、

気になりますわよね。

何も感じない父上は

どうなっておられるのかしら」


茅子としをりが爆笑した。


「内裏でのお仕事は

鈍いくらいでないとね」


倫子も笑い出す。


元々、周りと競い合っては

いるとはいえ、

さほど権力に固執していない

雅信らしい話とはいえる。


「姫様、そのような…」


と赤染衛門がたしなめた。


まひろは笑っていいのか

戸惑っていたが、

急に笑い出すと茅子と

しをりがじっと見つめた。


そんなまひろを見て、

倫子はまた笑う。


まひろもだんだんと

皆に溶け込めてきたようで

女たちの笑い声が響いた。



娘に笑いのタネにされている

雅信ではあったが、

詮子に招かれて東宮と

対面していた。


「東宮様、ご挨拶を」


「懐仁である」


「東宮様にはご機嫌麗しく

お喜び申し上げます」


「うん」


「東宮様をあちらに

お連れ申せ」


「さあ、参りましょう」


詮子に命じられて、

繁子が東宮を退室させた。


詮子は改めて雅信の前に座る。


「わざわざつぼねまで

来ていただいてすまぬことです」


「とんでもないことで

ございます。

されど女御様が私に御用とは

何事かと存じました」


恐縮している雅信に、

詮子は突然、本題を切り出した。


「さきの帝に毒を盛り、

ご退位を促したのは

我が父であること

ご存知でしたか?」


雅信は困惑する。


「そ…それは…

さすがにそれはありえぬと

存じますが」


少なくとも政敵でもある

雅信はそのようなことは

当然、知らない。


「ご退位の直前に

帝ご自身がそう仰せになったのです。

間違いありません」


とはいえ、

雅信には返す言葉がない。


「私はもう、

父を信じることは

できなくなりました。

都合が悪ければ私とて

懐仁とて手にかけるやも

しれませぬ」


「それはございませんでしょう」


さすがに雅信は否定した。


兼家の恐ろしさは

知ってはいるが、

そこまでするだろうか…と。


「危ないので表立って

父に逆らうことはしません。

されど私は父とは違う力が

欲しいのです」


雅信はハッとした。


「もう、お分かりでしょう」


雅信は答えられず

首をひねる。


「もう私の言葉を

聞いてしまった以上、

後には引けませんよ。

覚悟をお決めなさい」


さすが兼家の娘だけあり、

恐ろしい剛腕である…


雅信は固まっている。


詮子は雅信に近づいた。


「末永く東宮と私の力になること

ここでお誓いなさい」


雅信はそれでも黙ったままだ。


「さもなくば父に申します。

左大臣様から源と手を組まぬかと

お誘いがあったと」


「そのような理不尽な…」


人の好い雅信は狼狽した。


「私は父が嫌いです。

されど父の娘ですゆえ

父に似ております」


この娘はやると言ったら、やる…


雅信は仕方なく


「私なりに東宮様を

お支えいたしたいと

存じまする」


そう答える。


詮子は笑顔になり


「ああ…」


とさらに雅信に近づき、

その手を取った。


「ありがたきお言葉、

生涯忘れませぬ」


屈託のない笑顔を見せられると

雅信も嫌な気はしない。


「ところで左大臣様の

一の姫はおいくつですの?」


「22でございます」


倫子の美しさと評判は

詮子も知っている。


「殿御からの文が

絶えぬそうではありませぬか」


「いや…それが全く

関心を示しませんで

殿御を好きではないのでは

ないかと妻とよく

話をしておりますが…」


「そうですか…

私のように入内して

辛酸を舐めるよりは

よろしいかもしれませぬ」


それは、雅信にもわかった。


わかっていたからこそ、

倫子の意志を尊重して

帝には差し出さなかったのだから。



雅信を見送ると同時に、

道長がやってきた。


「ああ道長、

やっと会えたわね。

お前、左大臣家に婿入りしなさい」


いきなり告げる姉に


「は?」


と道長は固まる。


「評判の姫らしいわよ。

年は少し上だけどそれもまた

味があるわ」


「味…何でございますか?それは」


詮子はいたずらっぽく笑うと


「私の言うことに間違いはないから。

いいわね」


と言い残して去った…。


昔から可愛がってはくれるが、

勝手な姉だ。


道長は苦い顔になった。


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まひろは辛い思いをしたが、

そのおかげもあってか

父である為時はまひろを

間者のように左大臣家に

近づけたことを後悔し詫びた。


そのまひろのほうも、

父がなんとかして

家を生き残らせるために

母のことに目をつぶってまで

まひろ達を守ろうと

してくれていたことを心から

理解することができた。


まひろは左大臣家に

行くことは嫌ではない。


倫子のことを慕っているし、

考え方を変えれば

左大臣とつながるということは

右大臣とは違う力を

得ることができるのだ。


改めて左大臣家の集いに

参加することを頼むまひろは

これまでとは違って、

はっきりとした意志を持てた。


が、それも心の奥では


「道長を忘れるため、

何かをしなければ」


という思いであることまでは

為時は知らない…



一方で道長のほうも、

怒って兄を殴った道長を

笑って褒め称える父に対して

恐ろしく感じながらも、

父が冷酷なだけの男だとは

見ていない。


その父、兼家は道長に

左大臣家、つまり倫子との

縁談を勧める。


気が向かない道長に対して


「ほかに好きな女子がおるのか?」


と聞いてやるあたりは、

父親らしくもある。


このとき


「父上の下で働いている

藤原為時殿の娘が

好きなのです」


と道長が言えばおそらくは


「よし、わしが口を利いてやるから

その娘のほうは妾にすればよい」


と動いてはくれたはずだ。


兼家が道長を可愛がっている

ことはこれまでの言動でも

よく伝わってはくる。


可愛いからこそ、

目覚めてほしい、

しっかりした政治家に

育ってほしいのだろう。


少なくとも道隆や道長には

そういう明るさを期待し…


罪をおかしてしまった

次男、道兼のことは

道具のように扱っている。


もちろん親としては

褒められたことではないが

おそらくは兼家という人は


「どうすれば家が生き残るか」


を一番に考えている。


大きな視点で見たときには

汚れ役は必要であり、

逆に綺麗な者はわざわざ穢れる

必要はない、というのが

兼家の考えなのだろう…



兼家のことは妾の寧子が

蜻蛉日記にあれこれと

記してしまっており、

それらはまひろすらも

読んでいる。


道長に憧れているまひろには、

その寧子の生き方に

惹かれるような面も

あるのだろう。



突然、散楽の脚本を

語りだしたわけだが

そこでも自分がネタなのに

高貴な男を漁っていて、

女のほうが男を利用している、

などと妄想を語っていた。


直秀には却下されたが、

これはこれで面白くはあり…


というのも去年のどうする家康の

万さんみたいな女性を

想像したらわかるはずだ。


手を出したのは

高貴な方のほうに見えて

実は女のほうが男の弱さを

利用している。


これ、意外と現代でも

そういうことはあるよな。


例えば俺と奥さんとかでも、

その面はあるし、

仕事してても女は強いw


とはいえ散楽はあくまで

風刺なのだから、

そういうストーリーが

ウケるわけではないのだ。


要は普通のドラマを

やっているのではなくて

政治の風刺、毒舌漫才のような

ことをやって、

民のガス抜きになっているのが

散楽ということである。


でも、もしかしたら

源氏物語を描く前段階として

まひろが散楽の脚本を

書き始める、はあるかもしれない。



花山天皇はSMプレーのような

大河ドラマっぽくない

怪しいことはしていたものの、

妻のことは本気で愛していて

そこはかっこいい面でもある。


が、その妻のことは心配しても

妻の兄がそこにいても

誰だお前、で終わってしまう…


この辺りが花山天皇の

不安定なところ、

限界とも言うべきか…


ただ、義懐と惟成は

公任や斉信を味方に

つけようと動いてはいるから

そこまで無能なだけでは

ないのかもしれないが…


公任も斉信も下品な飲み会を

したいわけではなく、

若者らしく理想を追っている。


ここで道隆と高階貴子が

考えたのが


「漢詩の会」


というのが面白い。


なぜそんな会で

若者が道隆派になる?


と今の人たちはピンと

来ないかもしれないが…


劇中でも何度も描かれているように

道長はじめ若者たちは、

日々、様々なことを学んでいる。


それを披露したい、

下品な飲み会などではなく

雅な世界で活躍したい、

そんな夢を描いているわけだ。


それは若者の特権でもある。


道隆はそれをよくわかっているし、

兼家とは別の方法で

自分の勢力を築こうともしている。


今後、道隆と道長もやがては

相容れない部分が出てくるとは

思うのだが、

この時点では頼れる兄貴、

優しくて道長にとっては

嫌いな人ではないだろう。



源雅信を味方につけようとする

詮子のやり方は道隆のような

温和な路線ではなく、

まさに剛腕…


兼家そっくりな強引さである。


自ら父のことは嫌いだが、

私は父に似ている、と

平然と言ってのける。


基本、さほど野心もなく

倫子にとっても良い父親である

雅信はちょっと哀れである。


詮子が怖いところは、

道長に対しても

左大臣家の婿になれ、と

兼家とまったく同じことを

勧めているところだろう。



実は雅信はモテモテであり、

兼家も詮子も二人共が、

雅信とその権力を味方につけたい、と

必要としているわけだ。


それを考えると、

皆に慕われている

倫子そのまんまかもしれない。



親子の描写がこのドラマでは

とても上手い。


まひろの不器用さは

為時そっくりだし、

道隆、道兼、道長は

それぞれがどこかに

兼家のような面を持っている。


さらに兼家そのものなのが、

詮子である、という…。



さて、この前半に関しては


「俺たちの影は皆、

同じ方を向いている。

一族の闇だ」


という兼家の台詞にグッときた。


普通に見ると兼家は

嫌な奴ではあるし、

善人ではない。


道長のほうが子供の頃から

今に至るまで皆に愛されている。


が、道長がそういうポジションに

いられるのは、

どこかで嫌なことに

目を反らしてきた面があると思うのだ。


怒ることは嫌い、

政治にも興味がない…


そう言っていれば、

何かと衝突しなくて済むし

ラクでいられる。


藤原の一族でありながら、

気楽で好きに生きていられる。


自分は三男だからいいのだ、と

父に言って怒られていたが

そういう軽薄さが

道長にあったことは否定できない。


道長がそういう生き方を

わざとしてきたわけでは

ないのかもしれないが、

おそらくは無意識的に

そういう態度が出てしまう。


兼家が道長に苛立っていたのは

そういうところなのだろう。


兼家は自分がしたことに

苦しんできただろうし、

父の駒になることが

その罰だと思っているし

そうすることで、

一族の闇を背負えればいいと

割り切っている。


その所業を考えると、

ろくな死に方はできないと

思うのだが…


最終的にはまひろも

道長も兼家を許すのでは

ないだろうか。


そうでないと、

兼家の人生はあまりに寂しい。


罪人ではあるけれども、

どこかで救いはあってほしい。


おそらくは道長も、

権力を手にする過程で

兼家や道兼のように

ならなければいけないときも

やってくるだろう。


光があれば影もある、

それは普通のことでもあって…



その中でまひろが

どんな役割を果たすのか…


道長を照らし続けることが

できるのか、

最後はどうなるのか楽しみだ。