■認知症の行動のきっかけ■
認知症というのは、
「接し方次第で緩和できる」
「本人の見ている世界を
理解してあげて寄り添えば
症状は和らげられる」
「混乱のきっかけになるものを
取り除いてあげれば
平和でいられる」
と言われています。
実際、そうなんです。
そこがうまくやれると
多くの人は改善します。
だからこそ
「家にいるときよりも
施設に入ってからのほうが
穏やかな顔になった」
と言ってもらえることが多くて
それはまさしく僕らが
そういう認知症の方の
世界に合わせた対応をするための
仕事をしている結果なんですね。
だから
「対応次第で良くなる」
これは教科書通りではあります。
でもそれがいかに難しいことか。
前の記事のコメントに
非常にわかりやすい例を
書いてくれた方がいました。
たとえば駐車場に
「盗難の被害に遭っても
個人の責任です」
という看板があっただけで
「泥棒がいるから降りてはいけない」
と思い込んでしまい
車に閉じこもってしまう方が
いるということです。
テレビが地デジに変わるとき
「このテレビは〇月〇日に
観られなくなります」
というテロップがよく
家庭のテレビには表示
されていましたが
それを見て
「何か悪いことが起きるらしい!」
とおびえてしまう人も
いたそうです。
また、テレビで
「3時になりました」
というのを聴くと
「お父さんが帰ってくるから
食事の支度をしなきゃ」
と帰宅願望が始まる方も
いるとのことです。
これはうちの施設でもよくあって…
カレンダーを見ただけで
「〇日は地区の会議だから
絶対に行かないと困る!」
みたいになることは
本当によくあります。
「こんばんは19時のニュースです」
もやばいです。
その時間、NHKに入れておくと
けっこうダメな感じです。
とても重度な人のケースですが
「ト、トイレの中に!!
女の人の生首がある!!!!」
と大混乱している人がいて
あー、ついに霊が出たか
いよいよここも終わりだな、
呪われたな。
とは思うわけもなく、
幻覚ってことはわかるんですが
じゃあなんでそんな幻覚が
発生したかというと
「トイレに赤い花が飾ってあった」
だけですよ…
赤い花=赤い色=
赤い口紅の女の人
につながったようです。
ここまで強い幻覚の発現は
アルツハイマーじゃなくて
レビー小体型という認知症ですが、
ともあれ普通ならば
殺風景なトイレに癒しをという
意味で飾られたキレイな花でさえ
認知症の症状につながるわけです。
これが9人いたら9人、
18人なら18人、
もちろん100人なら100人
違うわけですから、
施設で少ないスタッフしかいない中で
同時に認知症の方を
お世話していくというのが
いかに難しいものであるか
わかると思います。
つまり
「何らかの原因があって
症状が生まれる」
ということはプロである以上、
わかるんですけど
その原因を探るというのが
非常に難しいんです。
何ヵ月とか時間をかければ
だんだんと原因がわかって
取り除けるようになりますが、
言い換えるならそれがわかるまでの
何ヵ月間はずっと手探り、
危険と隣り合わせってことなんです。
そういう中で事故が起きれば
自宅であれば本人または
家族の責任ということで
終われるんですが
施設は違います。
「お金を払って預けたのに、
プロのはずなのに、
事故を防がなかった」
といわれる場面は
少なからず存在します。
実際、それで猛烈に責められたことは
ありますからね…。
さいわいなことに、
そうはいっても責めてくる
ご家族は非常に少なくて
ほとんどの人は
「家にいたらもっととっくに
大怪我してるから、
これまで事故なく
やってくれたことに
感謝はしても責める気なんて
まったくないです」
と言ってくださいます。
ちなみに先日の転落事故は
どうも帰宅願望ではなく
他の原因なんですが、
それも非常に防ぎがたいレアな
状況が招いたことで…
(自分の介護経験でも初めてかも)
やはり予測をするというのは
99%無理というのが正直な
ケースです。
同じことが起きる可能性も
ないとは言えない感じです。
一応、役所にも報告をして
もちろん今後も安全とは
言えない状況で対応することに
なります。
それについてもご家族が
ちゃんと理解をしてくれて
「一生懸命やってくださってるのは
本当にわかっているので、
何があっても大丈夫です」
と信頼を寄せてくれるから
僕らもがんばろうと
思えるわけです。