昔語りその2 | NobunagAのブログ

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◆昔語りその2◆
 
これまたデイケアにいたころの話。
 
Bさんは90歳を超えたおばあちゃんで、
常に職員にも周りの利用者さんにも気を使ってくれる、
とても優しい人だった。
 
なにせ口癖は「ありがとうねぇ」。
 
とにかく何かしてもらったら、
すぐに自然にお礼の言葉が出る
あたたかい気持ちの持ち主。
 
たとえ大げさでもなんでも、
こういう言葉はそれだけで周りを和ませてくれる。
 
基本的に誰にでも優しいBさんだけど、
なぜか俺のことは特に気にいってくれていた。
 
なにせサービス担当者会議で担当の保健師から
 
「デイケアはどうですか?」
 
と尋ねられても
 
「そんなことよりねぇ、私はこんな年になって、
この人と出会えてそれだけでも本当に感謝してるんだよ。
ありがとうねぇ」
 
とずっと俺の手をさすり続けているくらいで、
まるで恋人みたいとも言われたし、
サービス云々ではなくて人と人との関係として、
これだけ深く信頼してもらえるのは介護の理想的な姿、
とお褒めの言葉もいただいた。
 
もっとも俺はとくにコレといったことはしてなかったんだけど…。
 
ともあれ俺もBさんは大好きな利用者の一人だったし、
週2回Bさんが来る日はそれだけで心が和むから、
忙しい業務の中でBさんとの会話にずいぶん救われていた。
 
そんなBさんだったが、
やはり高齢ということもあり、
少しずつ体調が悪くなっていき、
ついにデイケアに通うことができなくなった。
 
Bさんが来なくなって数か月した頃、
担当のケアマネさんから
 
「Bさんがあなたに会いたがっているから、
仕事外の時間でも会いにきてくれないかと家族が言っています」
 
と相談された。
 
正直そういうふうに思われることはうれしかったけれど、
とても悩んだ。
 
なぜなら、それをしたら
一人に対して特別扱いになってしまうから。
 
もし同じことが全員にできるのなら、
いくらでもするんだけど、
現実にはそうじゃない。
そこまでしてあげたいと感じるBさんのような利用者はいるけど、
全員がそうではない。残念だけど。
 
それなのに行動に移してしまったら他の人にも失礼だと思う。
完全に好みの問題になってしまう。
 
そもそも実際に全員に同じことをする時間もないし、
そこまで自分の時間を介護の仕事に費やすのはプロとはいえない。
 
だから少なくとも平等にお金をもらっている業務中は
みんなに全力を尽くすけれど、
それ以上の特別なことはしない。
 
それが俺の基本スタンスだ。
 
冷たいと思うかもしれないけど、
公私をしっかり区別できないと、
結局この仕事は続かない。
 
以前、仕事仲間で過剰に利用者に入れ込むタイプの人がいて、
デイの仕事が終わった後も利用者の家に行って、
食事を作ってあげたりしていた人がいた。
 
一見、とても素晴らしい行動に思えるけど、
実はあまりよろしくない。
 
「その人に家事の手伝いが必要と思うなら、
ケアマネに提案してサービス導入を検討してもらうべきで、
自分がやる必要はないよ」
 
と軽く注意したら
 
「冷たいんだね」
 
と返されてしまったが、
結局、その職員がどうなったかというと、
疲れ果てて仕事を辞めた。
 
つまり、一人に過剰に全力を出して、
その一人は救えて自己満足はできたかもしれないが、
残りの大勢の利用者を捨てることになったってこと。
 
そうなっては元も子もないので、
あくまで個人の感情としては
Bさんには会いたくてたまらなかったが、
あえて我慢して
 
「元気になってデイケアに戻ってきたら会えますから、
待ってますよ」
 
と伝えながら仕事をしていた。
 
それからさらに数か月経ち、
Bさんはデイケアに戻るどころか、
在宅で生活するのも難しくなってきたというウワサを聞いた。
 
「死ぬ前にもう一度でいいから、
会いたい。
私はもう死ぬから…」
 
Bさんが毎日のようにそう言っていると、
家族からまた相談を受けた。
 
とても悩んだが、あまりにも耐えきれず、
偶然、仕事中に空いた時間が出来た上に、
車でBさんの家のそばを走っていたので、
本当に秘密で会いに行った。
 
しかし、家には誰もいなかった。
 
昼間なので家族はいなくて当たり前かもしれないが、
Bさんがいそうな気配も感じられない。
 
仕方なくBさんあての手紙を書き、
ポストに入れて帰った。
 
数日後、家族に聞いた話では、
その日の朝、Bさんの体調が悪化し、
ちょうど入院のために病院へ行っていたところだったらしい。
 
運命のいたずらといえばいたずらだが、
どうしてこうタイミングが悪いのだろう。
 
その後、Bさんは天国へと旅立った。
 
手紙は本人に渡してくれたとのことだったが、
体調が悪い中でそれが読めたのかどうかはわからない。
 
結局、こんな感じで本当の意味で人間らしいつながりは、
最終的にはお互いの間には築けなかったのかもしれない。
 
でも、数年が経った今でも俺の心の中には、
Bさんとのことは鮮やかに焼き付いている。
 
Bさんは俺に何百回も「ありがとうねぇ」を言ってくれたが、
本当に感謝しているのは俺の方だ。
 
Bさんのようなやさしくてあたたかい人との出会いがあったから、
こうして今も俺は現場で続けられているんだと思う。
 
俺はBさんに何かをしてあげられたんだろうか。
 
俺はBさんから確実に何かをもらった。
 
この仕事はお互いに一方的な関係にならず、
お互いが存在することで双方が何かを得られるような、
そんな関係を築いていくことが一番大事だと感じている。