とうとう関東も梅雨入りしましたね。例年より大分、遅いようですね。

 

備忘録となっているこの日記です。いってみましょう。

 

 

 

 

昨日の木曜日。小・中学校のクラスメートの優子ちゃんが、「五木ひろしスペシャルコンサートin明治座」のチケットを2枚くれたので、主人と明治座に行ってきました。歌手生活60周年記念とかで、60曲メドレー&ヒットパレードの二部構成でした。色々な歌手の持ち歌60曲をメドレーで歌い上げてビックリしました。もう76歳なのに、声量や歌唱力、パフォーマンスに圧倒されました。日頃の精進の賜物なのでしょうね。それに懐かしい曲ばかりで、ジーンときました。私も、まだまだ頑張らなくてはと思いました。それにしても、明治座のとても良い席で、プレゼントしてくれた優子ちゃんには、本当に感謝です!

 

 

今日の金曜日。終日、雨で 当店のお客様の入りはあまり良くありませんでした。でも、豚の角煮が上手なお兄さんは来てくれました。「日本の古本屋」に登録していた「仏像のみかた」が店頭で売れました。「日本の古本屋」からは、「解説宋名臣言行録」「美人画の系譜」「和風堂全集 全3巻」にご注文が入りました。ありがとうございます!私は、本の相場を調べる仕事をしました。主人は本の発送と整理に務めました。

 

 

 

さて私は橘しのぶ様が御詩集「水栽培の猫」(思潮社)をお送りくださったので、読みました。

 

ここでは、5篇、ご紹介させて頂きたいと思います。

 

「水栽培の猫」

 

ベランダに

猫が一匹まよいこんだ

どこにでもいそうな

やせっぽちの猫だ

アパートはペット厳禁だけど

水栽培ならばれないかなと

窓辺のガラス容器に

水を張ってのせておいた

三日も経つと

水を吸った猫は

ふっくらとうめいになった

すっかりなついて

朝のゴミすてにもついてくる

アパートの住人は

気がついていないふう

おきまりの笑顔で

おはようございます

今日もいい天気

 

血管もはらわたも

とうめいなのに

胸のあたりに耳をあてると

とくんとくんと鳴っている

抱いて寝るとほかほかだ

けれどいつかは

つめたくなるのかな

想像したら泣きそうになった

 

おとなりさんも

そのまたおとなりさんもこっそり

水栽培の猫を飼っているらしい

 

おはようございます

おはようございます

おはようございます

 

ベランダで

朝顔がつぎからつぎへと

すきとおった花を咲かせる

 

 

「金魚」

 

古書店の若い奥さんは

腕に金魚を一匹飼っている

ぴちぴちした琉金がノースリーブの二の腕で

赤い尾鰭をゆらめかせる

餌の代わりに本を読んで聞かせるらしい

まるで売れないわたしの詩集を

棄て値で買い取ってもらったとき

「ことばの玉手匣みたいなご本ですのに」

と云ったけれど、金魚の餌になったのだろうか

奥さんはふいに立ち上がり、思いっきり伸びをした

焔のように赤がゆらいだ

それからまもなく、わたしは引っ越した

 

七年ぶりに古書店に立ち寄ると

いくらかふっくらとした奥さんが店番をしていた

「七人の子供の母になりました」

一度に七人産んだのか一人ずつ毎年産んだのか

どっちだろう

「お名前は?」

「ド、レ、ミ、ファ、ソ、ラ、シ♪」

アルトの声で答えてくれた

夕刻を告げる鐘が鳴る

スコットランドの釣鐘草だ

奥さんの腕に、金魚はもう、いない

 

「系譜」

 

女の子とわたしは

遊動円木にまたがって遊んだ

公園からは撤去されたはずだが

我が家にこっそりしのびこんでいたらしい

ベテルギウスリゲルシリウスプロキオン

アルデバランカペラポルックス

またたきながら空の梁から

吊るされている

女の子とわたしは

丸太の両端にまたがって空をゆらした

女の子は長い髪をおさげにして

リボンをゆわえている

わたしのむすめのようにも見えるが

むすめを産んだおぼえはない

ゆらしつづけると空は

お手本みたいな青が剥がれて

踏みはずしそうになる

 

女の子はふいに遊動円木にとびのった

丸太から落ちないように

腕を広げてバランスを取りながら

こちらに向かって歩く

数メートルに見えたそれは

けっこうな道のりで

やがて雪がちらつきはじめた

女の子は一歩踏むごとに大人びる

匂やかにひらいて萎れはじめる

白くなった髪にリボンをゆわえたその子は

わたしの母かもしれない母の母かもしれない

わたしを通過すると一気にころがって

ころがりおちて割れたのは

わたしだった

 

リノリウムの床に無数の羽根がちらばっている

つまみあげたら指尖に羽軸が刺さって

白い羽根が緋に染まった

子どものころ

喘息の発作をたびたび起こした

横になると息の苦しくなるわたしを母はおぶって

川べりの道をどこまでも歩いた

あの日見た夕焼けの色だった

 

「口笛」

 

動物病院でもらった薬の袋から

ほろりと出てきた

診療明細書には〈口笛〉と記されている

鳩尾のあたりにしまっておいた

 

カクゴヲキメルが胸をよぎる

覚めて、悟って、決めるのか

強制給餌したら、くだすか、あげるか

日に日に削がれて

紙切れになった猫で飛行機を折る

もしも、飛ばしたなら

二度と会えない

 

そのとき

鳩尾のあたりで、誰かが口笛を吹きはじめた

猫は目を覚まし、耳をぴくぴくさせる

わたしはまだ、悟ることも、決めることも

できないでいる

 

平均寿命とか、動物病院の費用とか

頭の中に数字をならべてけりをつけようとする

鳩尾のあたりで誰かが口笛を吹き鳴らす

どちらさまですか?

 

 

「鈴」

 

鈴虫から

鈴をもらった

百均にでも売っていそうな

ありふれた鈴だった

耳もとでゆすった

風のページがめくれて

そのすきまからふりしきる音を

手のひらにすくいあげたら

あたたかかった

ゆびと

ゆびとのあわいから

ひかりになって

こぼれつづける音色を

わたしはいつだったか

聞いたことがある

ずいぶん昔みたいな気がするし

昨日のことのようにも思われる

その音をききながら

いつのまにか泣いていた

泪で錆びついてしまったのか

鈴はふいに鳴るのをやめた

穴をほって

夏の終わりに逝った

猫の墓の傍らに埋めた

 

今日、風は琥珀色だ

どこかで金木犀が咲いたらしい

 

 

 

橘しのぶ様、ご恵贈ありがとうございました。

「水栽培の猫」 水栽培ならばれないかなと おとなりさんたちもこっそり飼っているらしいし とうめいになった猫は便利ですよね。かわいいでしょうね。私も、こっそり飼ってみたいです。

「金魚」 餌の代わりに本の読み聞かせが金魚の餌なのですね。我が家も古書店ですから、その資格がありそうですね。私も腕に金魚を飼ってみたいのですが。七人の子供の母親になった、おかみさんの腕には、もう金魚はいなかったのですね。ちょっと残念!

「系譜」 遊動円木は時間をコントロールするのでしょうか?ちょっと浦島太郎みたいですね。白い羽根が緋に染まった あの日見た夕焼けの色だった 懐かしい母が蘇るのですね。

「口笛」 診療明細書にある〈口笛〉 猫は目を覚まし、耳をぴくぴくさせる カクゴヲキメルことができないでいるのですね。口笛を吹き鳴らすのは、どちらさま?

「鈴」 鈴はふいに鳴るのをやめた 穴をほって 夏の終わりに逝った 猫の墓の傍らに埋めた 鈴もそこに埋めてもらって良かったのかも  猫は素敵な飼い主のもとで暮らせて幸せでしたね

 

凛として透明感のある詩の数々。童話作家ならではの詩ですね。メルヘンも感じるけれど、どこか姿勢を正さなくてはいけないような怖さも感じます。でも、どこか懐かしくて、自分が少女だった頃を思い出しました。

 

ありがとうございました。ますますのご健筆とご活躍をお祈り申し上げます!