PIW横浜の後半が始まりましたね。昌磨君の演目はラベンダーだったそう。これも懐かしいですね!

 

備忘録となっているこの日記です。いってみましょう。

 

一昨日の水曜日。私は初台の詩のクラス「ひるま会」に参加しました。宿題の詩は「足立美術館」を書きました。俳句もつけました。絵のような日本庭園秋澄めり

 

昨日の木曜日。主人はご近所まで本の買取に行きました。それで、私はお店番。お客様の入りはボツボツと。黒い帽子のお兄さん、豚の角煮が上手なお兄さんも見えました。「日本の古本屋」に登録していた「リリス」が店頭で売れました。「日本の古本屋」からは、「比較宗教学」「Japan des avant gardes」にご注文が入りました。ありがとうございます!私は店番をしながら、メールの整理をしました。

 

今日の金曜日。当店のお客様の入りはボツボツと。豚の角煮が上手なお兄さんも見えました。「日本の古本屋」からは、「日本演劇全史」「グノーシスと古代宇宙論」にご注文が入りました。ありがとうございます!私は本の相場を調べる仕事をしました。主人は本の発送と整理に務めました。

 

 

さて私は大葉二良様が御詩集「立ちどまる未来 くりかへす未来」をお送りくださったので、読みました。

 

「衣」創刊20周年記念・詩落緝6とあります。

 

ここでは、6篇、ご紹介させて頂きたいと思います。

 

「立ちどまる未来」

 

春の日の昼下りの

かたかたと鳴るくもりガラスの

窓の音よ

なつかしいぬくもりに

まどろんだ

遠い日の

 

果ても無く漂う日々の

安寧のひとときに

かたかたと鳴る劫の断層が

ふと見る

退屈な未来を

 

輝ける幼い日よ

いとしいその勇気よ

限り無い過去に定められた

柔らかい命の

向う見ずな野望が

細い記憶の回路の中で

気怠い私の今を見つめる

 

とても沢山の時間が過ぎて

残されたわづかな日々が

窓の向かうの雨の音に

立ち止まる

薄いガラスの

幽かなパルスが

凝固した劫の焦燥を

数百億光年の虚空に漂はせる

 

堆積した記憶のかけら

わし星雲の立ちのぼる柱

永遠に失はれた断片

 

やがて 残された

ひとひらのかけらさへ

平凡な哀しみのきれっぱなしとなって

再び 幼い日の

未来の前に立ち止まる

 

春の日の

かたかたと鳴るくもりガラスの

窓の向かうは雨

 

「珈琲の香りが少し」

 

左義長の灰

叩けばたたくほど

服の中

春の雪は

消えたるかまだ漂ふか

(あめゆじゆとてちてけんじや)*

 

かのひとの

面影ほのか花衣

山の夜の啜り泣きかも

花時雨

 

珈琲の香りが少し春の土

 

密やかに紫煙の香り

根が水を吸い上げる音

訪ね来よ

風の五月のただ中に

 

あんさんはいけずやなあ

朴さんと広げる海図

不意に弾ける古き日々

その影の濃ければ牡丹盛りなり

 

此岸より還る夕陽の

海に溶け出す空の裾

西日に焼ける古書店の

煮炊きのかをる胡同の

妻の生まれし邦のこと

祭果てて

眠れる街となりにけるかも

 

吾子の手を握り直す

原爆忌の息遣ひ

遠泳のなかのひかり

 

檸檬噛む

使はずに錆びてしまった

仏語、英語に中国語

眼裏の異国の街を花カンナ

 

故里の訛りきらきら

きらきらきらきら 毛糸帽

 

  *(みぞれまじりの雪を取ってきて下さい)宮沢賢治「永訣の朝」

 

「俗 謡」

 

風が霧雨をたたく

遠くで木立の葉が揺れる

霧雨が風に吹かれる音がする

葉が揺れ 木立が揺れて

森が音もなく動く

 

風が霧雨をたたく

音もない雨が

一瞬静かな叫びをあげる

遠くの森が大きく揺れて

スローモーションの映画のやうだ

 

霧雨が風に啼く

森の木立が霧に鳴く

霧雨に煙る村が

君の帰りを待って泣く

 

「台北余情」

 

夕立が止んで

風が吹いてきました

子供たちの遊ぶ声と

市場の喧噪が聞こえてきます

私は添ひ寝して

静かに静かに沈んでゆく

嗚呼 台北は実に平和だ

 

太陽の下

聞いたのです

嘘ではありません

肴はあぶった蛸がいい と

 

子どもが詩をひとつ食べた

 

ときが過ぎれば

わたしたちはまた

決められた家へと帰る

それはいつもさうでした

何事もなかったかのやうに

戻ってこなければならなかったのです

 

錆びついた部屋の中で

言葉が朽ちてゆくのを

わたしは見たのです

吐きだすたびに

形をゆがめ

醜悪なにほいを放ち

淫祠の中に満ちてくるのを

寂寥が悲鳴をあげ

怯懦と傲慢とが

つる草が壁を覆うやうに

忍びこみ

蔓延ってくるのを

 

そのあとに

蒼い空白だけが残るのを

 

「瞬く太陽」

 

キャンパスで初めて逢った

あなたの三つ編みは 天使の

輪のやうに頭に巻かれてゐた

こんな髪型もあるのかと

すっかり驚いた夏だった

 

真っ直ぐな造成地の路に

つらつらつらと銀杏の葉が落ちる

建物のない石畳だけの町で

洗ひ過ぎて薄くなった

ビーチタオルをまう一度

肩から掛けてみた秋だった

 

積木のやうな建物が

端から端まで並ぶ街並みに

西洋の絵本のやうな冬がくる

わたしは聖誕祭の唄から逃げて

松林の虎落笛のなかへ

駆け込んだ

春霞の運河のさきで

渡し舟がぐらりと揺れて

異国の幼児が消えてしまふ

 

日焼けした少年の

プールの中のひと泳ぎ

女の子の縄跳びの

小さな足のひと跨ぎ

ほんのひと蹴り

ひと飛びの

障子の紙のむかうがはで

いくつもの悔恨と

いくつもの戸惑ひが

いくつもの射精の中に

 

だあれもゐない夏の日の

ほろろと瞬く太陽の

その煌めきに

 

六十年が飛び越した

 

「Argued and Won...」

 

Town now in

The thick of feathers.

Stupas sway in the 

Hustle and bustle of the spring full moon.

 

Dragonfly born from the

Waters to be offered to Deity.

 

Electric fan

Gushing darkness

At a used-book shop...

Though, scents of roses are

Ripe at night.

 

Tannna japonensis chirps "tanna-tanna-tanna"

Cafe-on-Terrace.

 

autumnal tints

                scatter into a ring

                           playing musical chairs

 

Tugging twilight

Old soldiers is fading away, and

Crossroad is covered with masks all over.

 

Contending for the one-and-only-God

In the wasteland,

Light snow falls backward and forward

Unsteadily...

Fragment of city lights?

Dreams gone far away?

 

I augued and won, with a draft

Shivers down my spine...

 

 

「言ひ勝つて」

 

いま街は

深き羽毛の中にあり

春満月の賑はひに

卒塔婆は揺れる

 

閼伽水のなかより

蜻蛉生れけり

 

古書店には

闇を吹き出す

扇風機

夜に咲く薔薇の香

熟れてゐたりしが

 

かなかなはかなかなかなと

カフテラス

 

紅葉散る

   ことろことろの

        輪の中に

 

夕暮を曳いて

消えゆく老兵士

マスクまみれの交差点

 

唯一の神を取り合ひ

荒野には

ゆらゆらゆらと

ささめ雪

街の灯のかけらか

かなわぬ夢か

 

言ひ勝つて 背筋に沁みる

隙間風とかや 

 

 

大葉二良様、ご恵贈ありがとうございました。

「立ちどまる未来」 とても沢山の時間が過ぎて 残されたわづかな日々が 窓の向かうの雨の音に 立ち止まる 私も残り僅かと考えさせられました 幼い日の勇気 向う見ずな野望 私にもあったなあと・・・ 美しい言葉で形容されていて素敵な詩ですね。

 

「珈琲の香りが少し」 この詩も美しい言葉が並んでいますね。俳句が続いていく感じですが、五七のリズムが美しいですね。

どの連もイメージ豊かで情景が浮かびあがってきます。私も何年か外国にいたことがあるのですが、英語、錆びついてしまいました。

 

「俗 謡」 風が霧雨をたたく 音もなく動く森や大きく揺れる遠くの森が迫ってくる気がしました。

 

「台北余情」 台北は実に平和だと聞いて、こちらも安堵していたのに、錆びついた部屋の中で言葉が朽ちてゆくのをわたしは見たのです とあって、恐怖を感じてしまいました。蒼い空白も怖いですね。

 

「瞬く太陽」 こんな髪型もあるのかと  見てみたいです。だあれもゐない夏の日の ほろろと瞬く太陽の その煌めきに

六十年が飛び越した  六十年てアッという間の気もしてきました。

 

「言ひ勝って」 言ひ勝って 背筋に沁みる 隙間風とかや  この感覚、凄く解ります。 英詩、素晴らしいですね!

 

 

ありがとうございました。ますますのご健筆とご活躍をお祈り申し上げます!