新聞スクラップの習慣 | 村上信夫 オフィシャルブログ ことばの種まき

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元NHKエグゼクティブアナウンサー、村上信夫のオフィシャルブログです。

NHKの連続テレビ小説「ブギウギ」で、草彅剛さんが飄々と演じている人気作曲家の羽鳥善一のモデルは服部良一。

自分の才能を目覚めさせた事柄のひとつが、関東大震災だったと服部は自伝に書いている。

服部は大阪の生まれ育ち。震災後、多くのミュージシャンが関西へと拠点を移し、大阪は活気あふれる一大音楽都市になった。

道頓堀界隈が、ニューオーリンズのようだったと服部は述懐している。

 

ボクは、新人のアナウンサーの頃から、新聞のスクラップを欠かしたことがない。一面や社会面だけでなく紙面全体を見渡していると、素適な表現と出会う。新聞は「言葉の宝庫」だ。

 

朝日新聞(1月28日付け)「日曜に想う」欄では、作曲家、服部良一が開花したのは、関東大震災だったことを紐解きながら、こう結んでいた。

戦争や災害を、不運という安易な一言で片付けたくはない。

未来を語るのはまだ早いだろう。しかし、思いがけない困難に直面し、やむなく動いた先での出会いによって、世界への扉が大きく開かれるということは誰の人生にも起きうる。

避難という突然の非日常が、子供たちにとってこれからの長い人生を限りなく豊かにする、大切な故郷をもうひとつ心の中に持つための実りある経験となることを、今は心から祈りたい。

まったくもって同感だ。

 

昨日(2月20日付け)の天声人語は、『ドラえもん』ののび太を取り上げていた。

のび太は、何をやってもいいことがない。テストは0点だし、犬にかまれるし、買ったばかりの漫画をジャイアンに取り上げられる。でも何度もつまずきながら、決して人生をあきらめない。

作者の藤子・F・不二雄さんは、くるくる回る床屋の看板を人に例えていた。上へ上へと夢を追いながら、じつは同じ場所にいる。あげく『上昇の夢』さえ忘れてしまう。挫折しても明るく夢を見続ける『自分を見捨てない人』に共感してほしいと語っていたそうだ。これは、きっとのび太のことだろう。

旅立ちの季節を迎えた若者たちに、天声人語の筆者は、こうエールを送る。

ドラえもんから眼鏡型の道具「ファンタグラス」を借りたのび太は、童話さながらに、動植物と心を通わせられるようになる。大事に育てたタンポポから、綿毛が最後にひとつ、春風に吹かれて飛んでゆく。

どこへ行くつもり? のび太の問いに綿毛が答える。「わかんないけど…、だけどきっと、どこかできれいな花をさかせるよ」。旅立つ若者たちに幸あれ。

これまた同感だ。

 

未来を創るのは、自分が口にすることば。

突然の非日常が、これからの長い人生を限りなく豊かにする。

綿毛は、どこかできれいな花をさかせる。

しんどいとき、辛いときこそ、出会うことば、口にすることばで未来は明るいものになる。

 

そういえば、服部良一・笠木シヅ子のコンビが、生み出した『東京ブギウギ』が、どれだけ戦後の打ちひしがれた人々を元気づけ勇気づけたことか。終戦からわずか2年、すべてを失った日本人を「ウキウキ、ズキズキ、ワクワク」させた。復興に立ち上がる背中を押したことは間違いないだろう。