時代とテニスしている | 村上信夫 オフィシャルブログ ことばの種まき

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元NHKエグゼクティブアナウンサー、村上信夫のオフィシャルブログです。

時代を象徴する被写体にレンズを向けてきた写真家の篠山紀信さんが4日、亡くなった。享年83。

1940年、東京都生まれ。

日本大芸術学部写真学科在学中に写真家として頭角を現した。

「週刊プレイボーイ」にヌード写真を発表し、「明星」「週刊朝日」など多数のメディア向けに時代のスターたちを活写した。

山口百恵さん、ジョン・レノンとオノ・ヨーコ夫妻といった時の人物や現象の決定的瞬間を収めるという意味の「激写」は流行語となった。
70年、親交があった作家の三島由紀夫の依頼で自決直前の姿を撮影し、注目された。72年、写真集「女形玉三郎」で芸術選奨文部大臣新人賞を受賞。

人物に限らず、建築や風景、料理など幅広い対象にカメラを向けた。
90年代には、俳優の樋口可南子さん、高岡早紀さん、宮沢りえさんなどのヌード写真集で話題を呼んだ。

複数のカメラを結合し、一斉にシャッターを切る「シノラマ」など独自の表現方法でも注目された。

 

時代の寵児は、「時代とテニスしている」という名言を遺した。

ボクが篠山さんにインタビューしたのは、1995年。

ご本人曰く「国民的関心事」と呼ぶ3つの大仕事を成し遂げた年だ。

齢五十を迎えた吉永小百合さんの撮影、大相撲の全力士を一同に集めての撮影、非公開の三島由紀夫邸の撮影の3つ。

口角泡を飛ばす語り口には、自信が漲っていた。「カメラマンは、時代の写し鏡。その時代を記録するのが仕事だ」と早口でまくし立てた。

かつて、三島由紀夫は、カメラをラケットに、被写体をボールに例え、

「篠山さんは動き回るテニスプレーヤーのようだ」と評した。

それを紹介しながら聞くと「確かに、カメラマンは時代とテニスをしているようなものだ。時代とラリーしているようなものだ。時代に反応しながら感じたものを写真にしていく。吉永さんも、お相撲さんも、三島さん、

一見違うものに見えるかもしれないが、ボクにとっては、同じもの。いまの時代の中で、突出した面白い出来事に反応しているんだ」と。

直感で打つべき球が次々見つかるのはどうしてか、重ねて問うた。

そうしたら、少年のようないたずらっぽい顔になって「それは才能でしょうな」と言い放ち、大笑いした。

たぐいまれなる才能が、この世から消えた。