立川談志の凄み | 村上信夫 オフィシャルブログ ことばの種まき

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元NHKエグゼクティブアナウンサー、村上信夫のオフィシャルブログです。

世に天才といわれる落語家は、何人かいたかもしれない。しかし凄いと思わせ続けた天才は、立川談志だけだ。

立川談志18番目の弟子である談慶さんは、書籍の冒頭でそう記している。

談慶さんは、談志の天才性を「先見性、普遍性、論理性」の三つに凝縮して分析する。

先見性~落語を能と同じ道を辿らせてはならないと豪語。常に斬新さを取り入れ、ネタをいきいきとしたものに蘇らせ、決して「古典」にしなかった。

普遍性~「芝浜」の女房を、良妻賢母型から現代風な可愛げのあるタイプへ転換。オジリナルマクラのパイオニアでもある。オチも大胆に変えた。

論理性~落語を人間の業の肯定と定義した上で、登場人物たちの「弱さ」をも「業」としていとおしんだ。論理に基づいた優しさ、愛がある。

 

なにごとも短い言葉で喝破する「言葉の天才」談志語録は、読んでいて痛快だ。だが、談慶さんは理解するまで時間がかかる言葉もあると言う。中には、まるでわからない難解語もあった。

●落語の定義

 人間の業の肯定→イリュージョン(錯覚)→江戸の風

●俺は落語界に突如現れた突然変異。(落語界の織田信長?)

●落語家らしく生きろ。落語家ぶるな。

●枯れた芸なんてない。いつだって今を切り取るんだ。

●殺しはしませんから(両親との四者面談時)

●俺がルールだ

●俺に殉じてみろ

●このままでは済まないようにしてやる

●わかる奴にわかればいい。

●努力は、バカに恵(あた)えた夢。

●伝統芸能の延長戦上にいるんだ。だったら踊りや唄にいそしむべきだ。

●不快感の解消を他人が作ったもので処理するのが文明。自力で「解消するのが文化。

●修業とは、不合理、矛盾に耐えることだ。

●上品とは、欲望に対して行動がスローモーな奴のことだ。

●状況判断が出来ない奴をバカというんだ。

●個々の軋轢はここで解決してゆけ。(立川流は個)

 

談慶さんは、入門後二つ目に昇進するまで9年半も要した。その間の葛藤を素直に著している。

入門二年目に、当時つきあっていた彼女が事故死したこと、談志が弟子に課した歌舞音曲の意味、後輩の談生(現・談笑)が自分より先に二つ目に昇進した悔しさ、妻からもらった的確なアドバイス……。談志は難解な書物のようだ。情実に流されず、自分で問題点に気づき自分で答えを見つけるよう仕向ける。そんな師匠と向き合いながら、苦悩し、師匠を疑問視したこともあった。

何度も前途を阻まれ、心を折られ、何をやっても認めてくれない「最大のハートクラッシャー」と思い込んでいた。

時間をかけて気づいた。「師匠こそがハートウォーマーだ」と。

ようやく二つ目に昇進したとき、「談慶」と名付けてくれた。

「苦労して慶應出たわけだし、慶びを談じるっていうのも縁起がいいだろ」と師匠は自画自賛していた。

 

談志が伝えたかったことを、誰よりも知る

談慶さんが語る。

大人の寺子屋、12日18:30~麟祥院にて。

落語も披露してもらえる。初笑いにどうぞ!