18年ぶりの「アレ」 | 村上信夫 オフィシャルブログ ことばの種まき

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元NHKエグゼクティブアナウンサー、村上信夫のオフィシャルブログです。

阪神タイガースが、ついに優勝した。それも18年ぶり。

1964年、1985年、2003年、2005年の優勝、みんな嬉しかったが、このたびは、格別に嬉しい。

60年あまり、阪神ファンをやってきたが、ことしほどハラハラドキドキしなかったことはない。安心して見ていられた。きょうも9回に1点差に詰め寄られたが、岩崎投手が抑えると確信していた。

一昨日、西投手の完封で1対0で勝ったとき、優勝を確信した。

西投手の涙にもらい泣きした。

抜群の投手力、安定した守備、1番2番8番の機動力…。優勝はするべくしてした気がする。

何より、今年は、守備位置や打順の変更がほとんどなかった。

中でも4番は、開幕からずっと大山選手がつとめた。安打もさることながら、犠打や四球を選び、得点に貢献した。

その大山が、今夜は号泣していた。その手記が、日刊スポーツに掲載されていたので要約する。

 

 

実は優勝マジックがともった頃、YouTubeで「阪神 優勝」と検索しました。僕は茨城出身で、幼少期は祖父に連れられて東京ドームの巨人戦を観に行ったぐらい。阪神で優勝することの重みを知っておきたかったんです。

調べると03年、05年のテレビ特集が残っていて、道頓堀の様子も映っていました。泣いて喜ぶ方も多くてジーンと来てしまって…。でもやっぱり実際に味わう胴上げは格別でした。もう本当にうれしくてうれしくて…。優勝の瞬間はドラフトや最下位の経験が脳裏をよぎって、大泣きしてしまいました。  

これまでは頂点を知らない野球人生でした。小、中学校時代は県大会にも出られず、つくば秀英高校でも県ベスト8が1回だけ。白鴎大でもリーグ戦で1度も優勝していません。「勝ちたい」という欲求は誰にも負けません。だからチーム一丸で勝ち取った“初優勝”が本当にうれしい。岡田監督が四球の大切さを意識させてくれて、打線のつながりも増しました。常にベンチを盛り上げてくれた原口さん、糸原さんたちの声も大きな力になりました。 

今季は岡田監督が「4番一塁」に固定してくれました。例年以上に「自分がやるんだ」と良い意味でプレッシャー、緊張感を持って臨みました。監督はよほど悪くなりかけた時だけ的確なアドバイスをくれて、併殺打でも「しゃあないやろ」とコメントしてくれる。

期待に応えたいと必死になる中、本音を言えば首位独走中も毎日しんどかった。勝ち試合でもギリギリの展開が多くて…。心身ともに疲れ切った時は7年前のドラフト動画を見返して、なんとか心を奮い立たせました。  

今だから明かせますが、僕のプロ野球人生は「謝罪」から始まりました。16年秋に阪神からドラフト1位指名された時、会場にいた観客の反応は「えー!?」と後ろ向きな悲鳴でした。プロ野球選手になるという夢がかなった瞬間なのに、本当にショックでした。親や家族も傷つけてしまって「自分に力がないからだ。有名じゃないからだ」と情けなくて…。

ある雑誌の阪神ドラフト採点は50点で「史上最悪」とまで書かれました。まだプロで1試合も戦っていない選手に、もう僕のような思いは絶対にしてほしくない。2度とあんな“事件”が起こらないように、自分が評価を覆して見返すんだ-。

他の選手にはないモチベーションが、今季も僕を支えてくれました。今では自分の名前が入った赤タオルを掲げてくれるファンの方々も増えました。応援してくれる方々のためにも優勝できて本当に良かった。

岡田監督はもちろん、大卒なのに1年目に「半年間しっかり体を作れ」と将来を考えてくれた金本監督、実績もないのに4番で使い続けてくれた矢野監督にも感謝しかありません。

 「阪神の4番」は活躍したらすごく盛り上げてもらえるけど、翌日に打てなければたたかれる宿命です。何よりいい結果でも悪い結果でも普段通りに接してくれる妻と猫2匹に助けられて、打てなくてもエラーしても引きずらずに済むようになりました。 

とはいえ、シーズン終盤は2位広島が勝ち続ける中「追われる重圧」にも苦しみました。9月1日の敵地ヤクルト戦では体がフワフワして、こだわってきた一塁守備でファウルフライを落とし、グラブの下をゴロで抜かれ、悪送球…。なんとか2点差で逃げ切った直後、クラブハウスで思わず「勝って良かった!」と叫びました。

僕なんかまだまだ。特に9月はチームメートに助けられてばかりで…。だから仲間と優勝を分かち合えたことが本当にうれしいんです。 

今季は現時点で全試合に出場できています。ただ、シーズンにはまだ先があります。CSに日本シリーズ。引き続き、勝つためだけに全身全霊を注いでいくつもりです。

この手記を読むだけで、もらい泣きする。

 

そして、「アレ」の話。

話は岡田監督がオリックスの指揮を執っていた2010年までさかのぼる。交流戦の優勝を争う中、選手が意識しないように「優勝」とは言わず「アレ」という言葉を使用。コーチや報道陣まで「アレ」と表現し、見事に初優勝を飾った。

当時は交流戦優勝グッズとして「アレしてもうた」Tシャツが売り出されるなど話題となった。 

阪神で再び指揮するにあたり、昨秋の監督就任会見で「『優勝します』とは僕はよう言わないですけど、ずっと優勝は“アレ”としか言ってなかったんで。シーズン終わる頃には楽しみにしてもらったら、いいと思います」とあいさつ。すると秋季練習やキャンプ、オフの契約更改の場で、「一緒に“アレ”目指して頑張りたい」(湯浅)、「絶対に“アレ”をして、喜ばせたい」(岩崎)、「優勝したら絶対、流行語になるでしょ。“アレ”を目指して頑張りたいと思います」(佐藤輝)と選手が次々に口にしてキーワードとなり、ファンもSNSなどで盛り上がるようになった。

今季のチームスローガンは「A.R.E.」。

Aim(エイム)、Respect(リスペクト)、Empower(エンパワー)の思いを込めた造語だが、もちろん語源は岡田監督の「アレ」からきている。

Aim(明確な目標)、Respect(野球や先輩方への尊敬)、Empower(更にパワーアップ)。文字通り、「アレ」を体現しての優勝と言える。

 

(号泣する大山選手)