この正月、門井慶喜作品を堪能した。
430ページの大作だが、このたびも一気読みした。
『銀閣の人』は、銀閣寺を構想した室町幕府八代将軍、足利義政に焦点を当て、銀閣寺に義政がどんな思いを込めたのか、建築にも詳しい門井さんが独自の考察をした小説だ。
門井さんの小説は、いつもながら、情景が思い浮かびやすい。
それも、俯瞰した光景(時に鳶の目になり、まるで現代のドローンのような上空からの映像も)もあれば、登場人物の所作のアップ映像も交えて、物語を傍らで見ているような気分にさせてくれる。
義政は、政事でなく文事で名を残そうとした。
応仁の乱のさなか、義政が構想したのは、
当代一流の才能を結集した一大文化プロジェクトだった。
乱世にあって、政治に背を向け、己の美意識を追求した。
永遠の政治はあり得ないが、永遠の文化ならあり得る。
現に、五百年以上経っても、
銀閣寺は、注目を集める存在として残っている。
義政は、銀閣寺に「不足の美」を求めた。
目に入るものが少ないほうが、魂の遊びの余地は大きいと考えた。
文化の政治からの独立のために必要なのは「わび」だった。
孤独の境地に身を置いて、他人から自分を解放し、
精神の自由を志向する場を作りたかった。
銀閣寺・東求堂。日本最古の書院造りとして、日本家屋のスタンダードとなった建物である。その後の茶室の原点ともなった。板の間が主流だったが、畳の間を取り入れたことでも画期的だ。この四畳半には、義政の秘めた想いが去来する。それを小説で解き明かす。
当時、物理的距離は、身分の差を表した。だが、この部屋には、距離感がない。身分で分けない。
人をもてなす部屋ではなく、自分をもてなす部屋でもある。義政は、自分自身と対峙する部屋を作りたかったのだ。
その後、四畳半の茶室は、様々な政治の舞台となった。文事の上に政事が成立したことになる。
そして、畳の間や四畳半は、日本中に普及していった。
日本中が「銀閣の人」になったのだ。