芸能界の大御所的存在、内海桂子さんが亡くなった。享年97。
粋ということばがしっくりくる人だった。
浅草で、一緒に食事をしていたときのこと。
桂子師匠の声はよく通る。その声が聞こえたのか、別の部屋にいた客が顔を出した。「師匠、ひとつお願いしますよ」とだけ客が問いかけると、「あいよ」と桂子さんが応じた。何が始まるのかと見守っていると、
桂子さんは三味線を取り出し、都々逸を歌い始めた。
耳を傾けていた客は、おひねりを差し出す。それを受け取った桂子さんは、着物の襟のところに、おひねりを挟み込んで、なおも歌い続ける。
頃合いは見計らって、客はお礼を言って引き上げる。双方の間合いが実に粋で心地よかった。長すぎず、短かすぎず、絶妙だった。
内海桂子さんは、2010年8月からTwitterを連日更新していた。
今年4月14日まで、途絶えることなく。
2012年4月16日のTwitterにこんな記述を見つけた。
「NHKラジオがおかしい。朝の村上さんの爽やかな声が無くなってせわしい声が日替わりで聞こえてくる。週末の夜9時からは3時間も標準語でない男の子が勝手に騒いでいる。両方とも台本がなく自由に喋らせているようだが語彙が少なくNHKでは無理。少なくともNHKは標準語を大切にしてくださいよ」
師匠は、ボクのラジオを聞いていてくださったんだ。
師匠の都々逸で締めくくる。
「人生は、仕掛け花火に似たようなものよ。
玉や鍵やについだまされて、気がつきゃお空に消えている」
「人生は、野辺のレンゲに似たようなものよ。
人に踏まれて枯れてはいるが、気がつきゃいつか咲いている」
「人生は、富士山(おやま)の雪に似たようなものよ。
苦労苦労が積もっちゃいても、気がつきゃいつか解けている」
(シンガーソングライター吉岡しげ美さんのパーティで)