マスオさんが教えてくれたこと | 村上信夫 オフィシャルブログ ことばの種まき

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元NHKエグゼクティブアナウンサー、村上信夫のオフィシャルブログです。

声優の増岡弘さんが、先月21日、亡くなられた。享年83。

増岡さんは、サザエさんの夫マスオさん、「アンパンマン」のジャムおじさんの声で知られる。

ラジオ番組でインタビューしたとき、事前の打ち合わせで、所沢のご自宅に伺ったことがある。そのとき、「手前味噌」をいただいた。

以来、年賀状の交換をしてきたが、2013年に新刊をサイン入りで送ってもらい、そのまま書棚にあった本を、訃報を聞いて読んでみた。

そこには、増岡さんの人生観がにじみ出ている。

以下、本の中から気になったことを略記する。

 

サザエさんの家には、普通の生活が続けられる健康があり、

そのことに感謝している。たとえ病気になっても「一部直すところのある健康」だ。晴れた日が「良い天候」、雨の日が「悪い天候」ではなく、晴れも雨も含めた「全天候型」がサザエさんちなのだ。サザエさん一家は、幸せ見つけの達人ぞろいなのだ。

 

言葉について。

人の耳は録音機。聴いたことばはすべて録音される。

言った自分は忘れてしまっても、相手は録音再生して、

何度もその言葉を聞いている。

美しい言葉を使えば美しい生活になり、汚い言葉を使えば汚い生活になる。言葉は心の食べ物だから。心が言葉を生み出す。心が変わらなけれな声も変わらない。

これから起きることに「感謝します」。悲しいときに「有難う」。

言葉の使い方で人生が変わる。

 

森繁久彌さんから聞いたことば。

「若いうちに貯金して自分の墓を買いなさい。そうしたら、ああ、いずれここに入るんだ。それまでの人生か!よし!思い切り生きようと考えると、腹の据わったいい役者になれるよ」

寺山修司さんから聞いたことば。

「生が終わって、死が始まるなら、どんなにいいだろう!」

増岡さんが若い声優志望者に言うことば。

「出来ることをやるのは努力とは言わない。出来ないかもしれないことをやるのが努力だ」

ジャムおじさんのことば

2万回くらい「頼んだよ!」。1万回くらい「頑張るんだよ!」

それに「気をつけるんだよ!」

 

あとがきから。

毎年、咲くべきときが来たら、当たり前のように咲く花のすごさ。

ごく自然にすべてを受け入れ、自分を不幸とも思わず、努力の結果を他に求めない。生きていることを全天候型でとらえ、生きることを続けているのだからすごい。

なんでもない毎日が人生そのもの。

なんでもないけど、本当はとても大切にしたいことを書いた。

どう生きたかではなく、どう生きようとしたかが大事。

 

まさに増岡さん自身が、自然体の人生を送られたと思う。

 

(サインを入れて謹呈いただいた本)