大林監督の遺言 | 村上信夫 オフィシャルブログ ことばの種まき

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元NHKエグゼクティブアナウンサー、村上信夫のオフィシャルブログです。

日本の映画界が大切な宝を失った。

大林宜彦監督が、10日、亡くなった。享年82。

ボクは生前お会いする機会はなかったが、

穏やかな語り口の中に「芯」を感じる人だった。

追悼記事の中に、印象の残るものがあった。

スポーツ報知に北野新太さんが書いたエピソードだ。

北野さんは、将棋棋士をテーマにしたエッセイでも健筆を奮っている。

 

その北野さんの記事によると、3年前の6月、ある短編映画祭の授賞式に、大林さんは病身を押して参加した。その時、大林さんは28分にも及ぶスピーチをした。

その前年、ステージ4の肺がんを告知されていた大林さんは、会場を埋めつくした国内外の映画人を前に語った。それは、巨匠・黒澤明監督から受け継いだ遺言というべきメッセージだった。

「じじいが、なぜ出てきたかと言いますと、去年8月に余命3ケ月という宣告を受けまして、本当は今ここにいないのですが、まだ生きております。生きているなら、皆さんに、私が胸に温めていた黒澤明監督の遺言を伝えようと、命懸けできました」

 

「黒澤監督に言われたんです。『大林くん、人間とは本当に愚かなもんだ。いまだに戦争もやめられない。こんなに愚かなものはないけれど、人間はなぜか映画というものを作ったんだ。映画というものは不思議で、事実を超えた真実、人の心の真が描けると思っているんだ。僕はもう80で死ぬけれども、映画には世界を必ず平和に導く美しさと力があるんだよ。俺があと400年生きて映画を作り続ければ、俺の映画できっと世界を平和にしてみせるけれど、俺の人生はもう足りない。大林君、君は50か。俺が80年かかって学んだことを君は60年でやれるだろう。君が無理だったら君の子供、さらに君の孫たちが少しずつ…そしていつか俺の400年先の映画を作ってくれたら』と」

 

 「混迷の時代ですが、どうか皆さんも映画の力を信じてください。未来に向け、いつか黒澤明の400年目の映画を私たちが作るんだ、と。黒澤さんは最後におっしゃいました。『お願いだから、俺たちの続きをやってね。人と人との心のつながりが物語としてつながることが映画のいいところだ。だから嘘をつきながら真を描くことができるんだ』。長くなりましたが、黒澤明先輩が私個人にとどめた『俺の続きをやってよね』という言葉を皆さんに贈って終わらせていただきます。若い人たち、俺の続きをやってよね。ありがとうございました」

会場に鳴り響いた拍手はしばらくやまなかったそうだ。