コロナウイルスが教えていること③~メルケルさんのことば | 村上信夫 オフィシャルブログ ことばの種まき

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元NHKエグゼクティブアナウンサー、村上信夫のオフィシャルブログです。

新型コロナウイルス対策については、

各国のリーダーたちが頭を悩ませている。

未知の存在、見えない存在だけに具体的な対策を示しようがないのが

実情だろう。そんな中で、ドイツのメルケル首相のことばは、国民の心に響いた。ドイツ国民だけでなく、世界から注目を集めた。国民は協力を惜しまず、結果、感染の広がりを食い止めることが出来ている。

なぜ、人の心をとらえたのか…。

メルケルさんが東ドイツ出身で「分断の痛み」がわかっているから、ここは一つにまとまらないと大変なことになるという本気の説得力があったことは大きいだろう。そしてどうしたらいいかを具体的に示している。さらに「上から目線」ではなく、相手を慮っての気遣いがあった。

 

スピーチは3月18日に行われた。その一部を紹介する。

(ドイツ在住のギュンターりつこさんの訳を参照)

「なぜ、あなた方を必要としているか、一人一人に何が出来るか説明します」と、まず国民に呼びかける。

意味付けもしっかりと伝える。

「治療薬やワクチンが発見されるまで、出来ることが一つだけあります。それがウイルス感染の速度を落とし、研究者が発見出来るよう時間稼ぎをするのです」

「遅らせるために、極めて重要なことは公的生活を中止することです。

供給は確保され、可能な限りの経済活動が維持出来るようにします」

そして、自らの経験を語りながら、親身になって伝える。

「旅行や移動の自由を苦労して手に入れた私のような人間にとって、

このような制限は、絶対に必要な場合のみ正当化されます」

釘を刺すのも忘れない。

「パニックになる必要もありませんが、軽んじてもいけません」

「伝染病は、我々がどれほど脆弱か教えてくれています。ただ、協力しあえば互いを守り強めることも出来ます」

その上で、具体的方法を述べる。

「お互いの距離を保ちましょう。握手をしてはいけません。丁寧に頻繁に手を洗い、少なくとも1.5メートルの距離を置き、お年寄りとのコンタクトをさけましょう」

ソーシャルディスタンスを取っても、人を孤独にさせない手段があるとアイデアの一端を紹介している。

「孫が祖父母にポッドキャストで声の便りを送る。スカイプ、電話、メール、郵便…様々な方法で繋がれます」

そして、こういう呼びかけで締めくくっている。

「状況は深刻で未解決ですが、私たちがこの危機を克服出来ることは間違いありません。どうか私たちの公式発表以外の噂を信じないでください。心から理性を持って行動することで、命が助けられることを示さなければなりません」

素晴らしいスピーチだと感じ入る。

不安になったとき、メルケルさんのことばを反すうするだけで、前向きになれそうだ。

駆り立て煽るか、後手後手に回りその場しのぎをする為政者か、落ち着いて先を見据えた為政者のどちらがいいかは自明の理である。