右足に有難う | 村上信夫 オフィシャルブログ ことばの種まき

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元NHKエグゼクティブアナウンサー、村上信夫のオフィシャルブログです。

羽生結弦選手が金メダルを獲得した。

演技が終わったあと、

右足に手をあてたのは「感謝しかないから」だと言う。

羽生選手は、音声が聞こえないときも、

口の動きを見ていると「有難う」とよく言っていることがわかる。

オリンピック中継を見ていて嬉しくなるのは、

選手たちが感謝のことばを口にすることだ。

あの場にたてば、有難いことだという気になるのだろう。

 

 

羽生選手が、右足首を痛めたのは、

去年11月のNHK杯の公式練習中、

4回転ジャンプを着氷したときのことだった。

その右足で、4回転3回転、8つのジャンプを成功させた。

後半、右足首がぐらつく場面もあったが、耐えた。

故障から復活したものと思っていたが、

実は、痛み止めを飲まないと、ジャンプを跳べる状況ではなかった。

右足首は、まだ悲鳴をあげていたのだ。

だからこそ

「右足が頑張ってくれた」と感謝のことばが自然に出たのだ。

「何もなく順風満帆に来ていたら、たぶん金は獲れていない」とも

言った。痛めた右足が取らせてくれた金メダルなのだ。

 

長崎県島原市の隈部大樹くんは、22歳。

発達に時間がかかる「知的発達遅滞」だ。

だが、ゆっくり時間をかけて成長してきた。

彼が就寝前にする習慣がある。

「手さん、いろんなものつかんでくれて有難う」

「足さん、いっぱい歩いてくれて有難う」」と、

身体の隅々に感謝のことばを言ってから床に就く。

何一つたりと、あたりまえと思っていないからだ。

 

ボクは、幼いころ、右足が小児マヒに罹ったことがある。

1年に及ぶマッサージ治療の結果、完治した。

だから歩けることに感謝を忘れてはならないのに、

あたりまえに思えて、忘却してしまう。

先週、山道を歩きすぎてふくらはぎや膝が悲鳴をあげた。

そのときになって「有難う」と言っても遅い。

ふだんから、毎日、あたりまえと思わぬために、

有難うの習慣を身につけておかねばならない。