夏休みの祝日だからだろうか・・・。
映画館は満席。空席のない光景は初めて目にした。
エンターテイメントでもない映画に、
なぜ、これほどの人が引き寄せられるのだろうか・・・。
私小説の傑作『死の棘』の作者・島尾敏雄と、その妻ミホ。
太平洋戦争末期、二人が出会ったのは、奄美群島・加計呂麻島。男は特攻艇の出撃命令を待ち、
女はどこまでも一緒にいたいと願った。
後年、結ばれた二人は、ともに小説家となり、
それぞれが鮮烈な出会いと恋の物語を書く。
その原作が映画化された。『海辺の生と死』
主演は、ルーツを奄美大島に持つ満島ひかり。
『夏の終り』以来4年ぶりの単独主演だ。
島尾ミホをイメージしたヒロイン大平トエを演じる。
みほと恋に落ちる特攻隊隊長の朔中尉役は、
人気上昇中の若手俳優の永山絢斗。
昭和19年(1944年)12月、
国民学校教員として働く大平トエは、
新たに駐屯してきた海軍特攻艇の隊長・朔中尉と出会う。
島の子どもたちに慕われ、軍歌よりも島唄を歌いたがる軍人らしくない朔にトエは惹かれていく。
やがて、トエは朔と、海辺で逢瀬を重ねるようになる。
しかし、しだいに敵襲は激しくなり、
沖縄は陥落、広島に新型爆弾が落とされる。
そして、ついに朔が出撃する日がやってきた。
母の遺品の喪服を着て、短刀を胸に抱いたトエは家を飛び出し、いつもの海辺へと無我夢中で駆けるのだった・・・。
越川道夫監督の方針で、長回しの原則ワンテイク。
芝居じみた演技はない。
生きる時間が切羽詰まった時代、
淡々とした時間経過が、よけいに切ない。
監督は、「島に撮影させてもらっている感覚でいた」という。
島時間に合わせ、鳥が鳴いたり虫が飛んだりするのを待った。
島唄も大切にした。島のことばも大切にした。
戦争下の恋愛映画ではあるが、
どうも「島」が主人公のような気がしてきた。
島の醸し出す空気感、島の静かな時の流れ、島の唄や踊りが育んできた文化。それらを誰も奪ってはならない。
『海辺の生と死』は、テアトル新宿など全国で公開中。