NHK時代、ニュースや天気予報の時間に、
アナウンサーがスタジオに入るのを忘れたり、遅れたりするのを、未然に防ぐため、
30秒前にアラームがなる仕組みになっていた。
こういうシステムになったのは、「ヒヤリ・ハット」報告の積み重ねからだ。
仕事中にヒヤッとした、ハッとした、危ない!と一瞬感じたけど、
幸い事故には至らなかったことを「ヒヤリ・ハット」という。
特に高齢者や子どもがいる職場では「ヒヤリ・ハット」の経験は多い。
一方、その逆で、「思わずニヤリ」とする出来事や、「何気ない、明るい話題」を
報告しあって、入居者のお年寄りの健康に役立てている施設がある。
東京・杉並区にある 介護付き有料老人ホーム「ライフ&シニアハウス井草」だ。
若手介護スタッフたちが、2012年~13年頃に自然発生的に始めた。
介護の現場では、常に転倒などのリスクがあるので、入居者の行動を制限しがちだ。
そして何かヒヤリとした出来事があると、「ヒヤリ・ハット報告」を共有する。
でも、注意を促したり、ストップをかけたり、 「共有する情報がマイナス面」に偏りがちだ。
「ヒヤリ・ハット報告」だけだと、その人らしさや、良いところに注目が集まらない。
そこで、日常の何気ない一言や、思わずニヤリとしたこと、ちょっとした行為など
どんな小さなことでも報告してもらい、「その人らしさ」が見つけるようにした。
「お話し好き」「お裁縫が上手」「乙女心を持っている」「 歴史に詳しい」
「歌が好き」「昔の映画に詳しい」・・・
入居者一人ひとりの細かな性格も見えてきた。
いいところ見つけの活動が、「ケアプラン」の変更にもつながる。
車いす生活の90代の女性が、車いすから立ち上がって歩こうとしたことがあった。
「この女性が歩こうと頑張っている」と報告書に記録したところ、
女性のケアプランを担当するケアマネジャーが報告書を見て
「トイレ介助の際」は、自力で車いすから立ち上がってもらい、
数歩歩いて、便座に座ってもらうようにした。
行動を制限する「ヒヤリ・ハット」では実現しない身体機能の向上につながった。
「にやり・ほっと」をはじめてから、若い職員と、お年寄りの入居者との距離が縮まった。
これって、嬉しいことばの種まきに相通じるものがある。
「にやり・ほっと」報告は、施設だけでなく、家庭や学校でも広めたらいい。
寝る前に「よかった日記」の習慣をつけたらいい。