本を読んでこれほど泣いた記憶はない。
最後の50ページくらいは、滂沱の涙を流しながら読んだ。
大崎善生さん作の『聖の青春』。
夭折の天才棋士、村山聖さんのドキュメント小説だ。
「東の羽生、西の村山」と言われた男。
もし腎臓に病を抱えていなければ、棋界地図は変わっていたことだろう。
将棋中継を担当していたころ、
村山さんの姿を何度か見かけたことはあるが、話しかけたことはなかった。
安易に話しかけられる雰囲気ではなかった。
しのぎを削るA級順位戦の日、
中継用のリモートカメラを対局室に設置することを拒んだことがあった。
気が散る要素は、一つでも排除したかったのだろう。
命を削りながら、将棋盤に向かっている村山さんは、
孤高の棋士だった。
その原作が映画化されることになった。
公開に先駆けて、試写を見た。
村山さんの役は、松山ケンイチさん。
この役作りのため20キロ増量したという。
狂気と刹那さを、うまく表現している。
東出昌大さん演じる羽生さんは、そっくりさんだ。
映画もドキュメンタリータッチ。
せりふは少ない。
駒音、息遣い、衣擦れの音が、対局の緊迫感を醸し出している。
将棋盤を挟んで、互いを認め合う無言の会話が聞こえてくる。
村山聖。1998年8月8日死去。享年29。
意識が混濁する中、「8六歩、同歩、8五歩、2七銀」
これが最後のことばだった。
映画の公開は、11月19日予定。