渾身の人 長田渚左さん | 村上信夫 オフィシャルブログ ことばの種まき

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元NHKエグゼクティブアナウンサー、村上信夫のオフィシャルブログです。


先日の恵比寿のトークライブに長田渚左さんが来てくださった。

ボクの敬愛するノンフェクション作家だ。

常に「渾身の想い」で仕事をしている。

中でも、スポーツに寄せる想いは、ひときわのものがある。

ラジオビタミン「スポーツのツボ」の時間でも、

舌鋒鋭く、小気味いい解説をしてくれていた。

その長田さんに、NHKを辞めると言ったら、

誰よりも驚いてくれた。

「村上さんが辞めざるを得なくなったNHKは大丈夫なの?」

そこまで言っていただいた。



スポーツゴジラ最新号(26号)


長田さんは、自らの責任編集で『スポーツゴジラ』という冊子を発行している。

冊子に寄せる想いを長田さんは、こう語っている。

本気でスポーツを論じる冊子はなかった。

しかも無料で刊行することなど無謀、できるものかと言われた。
お金にならないどころか、労力と手間ばかりをかけて、

何でそんなにムキになるのだと煙たがられた。
スポーツを見ることで、あるいはスポーツをすることで、

私たちは心に平和や安らぎを得て、均衡を保っているのではないか。
スポーツに敬意を払い、

心からスポーツを愛する人に『スポーツゴジラ』を届けたい。
どこかの顔色をうかがいながら、スポーツを論じるのはもうたくさんだ。
「人民の人民による人民のスポーツ」が、『スポーツゴジラ』の原点だ。

さまざまな事件を見聞きするたびに、

原因は個人の資質に由来するものなのか、

特殊な社会状況の軋轢なのか、

学校教育や社会背景に根ざすものなのか、いつも惑う。
自分とは無縁で、他人事ですむ問題なのか、

はたまた根っこは自分とも繋がっているのかと、さらに惑う。
人が本来の姿を失わないためにも

スポーツは欠かせないことを改めて感じてしまう。
人が立ち止まって考えるとき『スポーツゴジラ』はその傍らにいたい……。


(チャスラフスカさんと)~東京新聞HPより


長田さんは、体操のチャスラフスカさんと日本との深いつながりに光をあてて、

ノンフェクション『桜色の魂』を上梓した。取材期間は四半世紀に及ぶ。


東京五輪で、その美技に見惚れたものだ。

五輪であわせて金メダル七つ。

女優のような美貌、艶やかな演技で世界を熱狂させた。

ベラ・チャスラフスカさんは、いま72歳。

五輪後は、波乱万丈の人生だった。

女子体操界のスターは1968年、「プラハの春」の民主化運動に賛同する

「二千語宣言」に署名。撤回を求める政府から迫害された。

スカーフで顔を隠し、掃除の仕事で家族を養った。

弟を謎の事故死で失い、どれほど周囲から白眼視されても、意志を貫いた。

チャスラフスカさんは、東京五輪の男子体操金メダリスト、

遠藤幸雄さんと、深い友情を結んでいた。

八九年の「ビロード革命」で名誉を回復し、

ハベル大統領の補佐官として粉骨砕身したが、心身に異常を来す。

息子が父親である元夫を殴って死亡させる悲劇的な事件が発生。

家族にも反応しなくなり、14年も沈黙を続けた。

2007年を境に、劇的に復活した。

東日本大震災では、被災地の子どもたちをチェコ旅行に招待した。

心の殻を破ったのは、何だったのか。

「遠藤選手との友情にヒントがある」と長田さんは気付いた。

その謎が、著書で解き明かされる。

チャスラフスカさんは、

「オサダはシャーロック・ホームズみたいね」と言っていたらしい。