先日の恵比寿のトークライブに長田渚左さんが来てくださった。
ボクの敬愛するノンフェクション作家だ。
常に「渾身の想い」で仕事をしている。
中でも、スポーツに寄せる想いは、ひときわのものがある。
ラジオビタミン「スポーツのツボ」の時間でも、
舌鋒鋭く、小気味いい解説をしてくれていた。
その長田さんに、NHKを辞めると言ったら、
誰よりも驚いてくれた。
「村上さんが辞めざるを得なくなったNHKは大丈夫なの?」
そこまで言っていただいた。
長田さんは、自らの責任編集で『スポーツゴジラ』という冊子を発行している。
冊子に寄せる想いを長田さんは、こう語っている。
本気でスポーツを論じる冊子はなかった。
しかも無料で刊行することなど無謀、できるものかと言われた。
お金にならないどころか、労力と手間ばかりをかけて、
何でそんなにムキになるのだと煙たがられた。
スポーツを見ることで、あるいはスポーツをすることで、
私たちは心に平和や安らぎを得て、均衡を保っているのではないか。
スポーツに敬意を払い、
心からスポーツを愛する人に『スポーツゴジラ』を届けたい。
どこかの顔色をうかがいながら、スポーツを論じるのはもうたくさんだ。
「人民の人民による人民のスポーツ」が、『スポーツゴジラ』の原点だ。
さまざまな事件を見聞きするたびに、
原因は個人の資質に由来するものなのか、
特殊な社会状況の軋轢なのか、
学校教育や社会背景に根ざすものなのか、いつも惑う。
自分とは無縁で、他人事ですむ問題なのか、
はたまた根っこは自分とも繋がっているのかと、さらに惑う。
人が本来の姿を失わないためにも
スポーツは欠かせないことを改めて感じてしまう。
人が立ち止まって考えるとき『スポーツゴジラ』はその傍らにいたい……。
(チャスラフスカさんと)~東京新聞HPより
長田さんは、体操のチャスラフスカさんと日本との深いつながりに光をあてて、
ノンフェクション『桜色の魂』を上梓した。取材期間は四半世紀に及ぶ。
東京五輪で、その美技に見惚れたものだ。
五輪であわせて金メダル七つ。
女優のような美貌、艶やかな演技で世界を熱狂させた。
ベラ・チャスラフスカさんは、いま72歳。
五輪後は、波乱万丈の人生だった。
女子体操界のスターは1968年、「プラハの春」の民主化運動に賛同する
「二千語宣言」に署名。撤回を求める政府から迫害された。
スカーフで顔を隠し、掃除の仕事で家族を養った。
弟を謎の事故死で失い、どれほど周囲から白眼視されても、意志を貫いた。
チャスラフスカさんは、東京五輪の男子体操金メダリスト、
遠藤幸雄さんと、深い友情を結んでいた。
八九年の「ビロード革命」で名誉を回復し、
ハベル大統領の補佐官として粉骨砕身したが、心身に異常を来す。
息子が父親である元夫を殴って死亡させる悲劇的な事件が発生。
家族にも反応しなくなり、14年も沈黙を続けた。
2007年を境に、劇的に復活した。
東日本大震災では、被災地の子どもたちをチェコ旅行に招待した。
心の殻を破ったのは、何だったのか。
「遠藤選手との友情にヒントがある」と長田さんは気付いた。
その謎が、著書で解き明かされる。