江戸小紋職人 菊池宏美さんとの縁 | 村上信夫 オフィシャルブログ ことばの種まき

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元NHKエグゼクティブアナウンサー、村上信夫のオフィシャルブログです。

近くに寄ってみないとわからないほどの細かい柄を型紙で染めた「型染め」の着物を『江戸小紋』という。基本は一色染めで遠目には無地と見間違うほどの細かい柄が染められている。
細かい柄ほど「型紙」を彫るのも染めるのも難しく、技の粋を集めた江戸小紋は息を飲むほど美しい。
江戸小紋は、もともと江戸時代の武士の「裃(かみしも」から発達したものだそうだ。他の藩との区別を象徴するため、徳川将軍家の「御召十(おめしじゅう)」、紀州徳川家の「極鮫(ごくさめ)」、加賀前田家の「菊菱」など、各藩で「定め柄」を決めていた。戦のない平和な江戸時代の武士の間では、より細かい柄を競い合うようになり、武士たちの要望にこたえるため、型を彫る職人も、それを染める職人も互いに切磋琢磨し、極めて細かい柄が生み出された。
江戸中期には豊かになった町人たちにも小紋を着るようになり、花鳥風月や日々の暮らしを題材にした情緒あふれる柄が無数に生み出された。
「型染め」の型紙は伊勢地方でのみつくられていたため「伊勢型紙」という。柿渋紙で型地紙をつくり、熟練した職人が技術を駆使して型紙を彫るが、その職人が年々減ってきている。
江戸時代から脈々と続く伝統的技法を現在にも受け継いでつくられている江戸小紋。その江戸小紋の職人の一人が群馬県伊勢崎市にいる。菊池宏美さん。
菊池さんは師匠のところで修業中、師匠と一緒にボクのラジオ放送に耳を傾けてくれていた。何でも師匠がボクと同じシャレ好きの方で、相通じるものを感じたらしい。インタビューも熱心に聞いていて、関心を持った人の本を手に入れて読むようにしていたらしい。師匠から独立してからも、ラジオを聞き続けていた。菊池さんには目標があった。日本伝統工芸展に4回入選したら『村上さんに手紙を書こう』と。
日本伝統工芸展は、工芸作家にとっては年に一度、自分の成果を世に問う機会。出品者を秘して審査するため、まれにベテランでも落選することがあるという。4回入選したら日本工芸会の正会員認定資格が得られる。歴史ある工芸会から正会員の認定を得るのは、工芸家として大きなステップになる。
菊池さんが目標を達成したとき、NHKのラジオからボクの番組がなくなっていた。そこで文化放送宛てにお便りを下さった。嬉しかった。
ボクのラジオを励みに聞いてもらい、目標達成したからお便り出来た。ぜひ作品を見てほしい。そういう趣旨のお便りに感動したボクは一も二もなく会場に駆けつけた。まさにラジオが生んだ縁。ラジオが結んだ出会い。
菊池さんの江戸小紋は、ボクの駄洒落を聞いていたのに、品格が漂っていた。
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菊池さんの入選作品
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アップで見ると、細かい柄がよくわかる
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菊池宏美さんと