伝えなければならないこと | 村上信夫 オフィシャルブログ ことばの種まき

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元NHKエグゼクティブアナウンサー、村上信夫のオフィシャルブログです。

戦前、ブラジルへの移住を決意した人々が、神戸で過ごす最後の1週間を描いたミュージカル「神戸 はばたきの坂」を見た。



世界大恐慌が始まった翌年の昭和5年。舞台はブラジルへの移住希望者が集まる国立神戸移民収容所。新天地となる異国での暮らしを学ぶため、出発までの1週間を過ごす場所だ。そういう施設が存在したことを全く知らなかった。


日本中からやってきた人々は、それぞれ事情や家族の秘密を持っている。複雑な思いを抱えながらも、故郷を捨てて旅立つ覚悟を決める時を過ごす。故郷・青森に残した病気の子どもに胸を痛める夫婦もいれば、借金問題を抱える沖縄から来た家族もいる。



ブラジルに先に移住して一時帰国した女性の身の上は複雑だ。共に移住した夫に先立たれ、生きていくために、現地でブラジル人と再婚。亡き夫との間の息子が日本で勉学するため、別れ別れに暮らす決断をする。剣幸さん演じる母親が、離れたがらない息子をあえて突き放すシーンは泣けてきた。船出前に歌う「ふるさと」は胸に沁みた。


 神戸からブラジルへ旅立った人は、のべ25万人。今に続く日系ブラジル人社会を築き上げた移民の歴史には、想像を絶する苦労があったに違いない。それでも新天地に希望を抱き、前向きに生きてきた。誇りを持ち、自分たちの生活を築いた『日本人の強靭な精神』を伝えたい」という思いが、痛いほどに伝わってきた。そう、日本人の勇気と誇りは、いまの人々にも受け継がれているはずなのだ。