神戸のかかりつけ弁護士

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神戸の弁護士 山根聡一郎のブログです。
「弁護士は敷居が高い」というよくある勘違い。これを勘違いだと気づいてもらうためにブログを始めました。かかりつけの弁護士がいればどんなに得かを知ってほしいです。
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「データ活用」はしやすくなるのか、企業が注意すべきポイント

近年、AIの発展により、企業が持つ個人情報をどこまでAI開発に使えるのかが大きな課題になっています。

令和8年4月7日、「個人情報の保護に関する法律等の一部を改正する法律案」が閣議決定され、国会に提出されました。

この改正案は、AI開発のためのデータ活用をしやすくする一方で、個人情報の保護も強化する、いわば「アクセルとブレーキを同時に踏む」内容です。

 

政府には国産AIの育成・普及を後押ししたいという政策的な意図もあり、松本デジタル大臣は「AIの開発に必要なデータ活用が滞れば、日本の開発・利活用に大きな障害が生じる」と改正の意義を強調しています。

 


1 そもそも個人情報保護法とは

個人情報保護法は、個人情報を適正に取り扱うルールを定めた法律です。

「個人情報を全部禁止する」法律ではなく、「きちんと扱えば活用してよい」という考え方が根底にあります(同法第1条)。

 

ただし、個人情報を使う場合には、「何のために使うか」を明確にすること、目的外での利用を禁じること、他社に提供する際は原則として本人の同意を得ること、などのルールを守る必要があります。

 


2 なぜAI開発で問題になるのか

AI開発には大量のデータが必要です。顧客の購買履歴、問い合わせ履歴、顔画像、音声、医療・健康データなど、さまざまな情報がAI学習に使われます。

問題は、これらのデータに個人情報が含まれることが多い点です。

特に、こうしたデータを外部のAI開発会社に渡す場合は「第三者提供」にあたり、現行法では原則として本人の同意が必要です(同法第27条第1項)。

一人ひとりから同意を取るのは現実的に難しく、これがAI開発の大きなハードルになっていました。

 


3 改正案の目玉――一定の条件下で本人同意が不要に

今回の改正案の最大のポイントは、「統計やAIモデルの開発など、個人を特定しない目的のみに使う場合」は、本人の同意なしにデータを外部提供できるという特例の新設です。

 

たとえば、自社の顧客データをAI開発会社に渡してAIモデルを作る場合でも、「特定の個人を識別・評価する目的で使わない」ことが担保されていれば、同意取得なしにデータ提供できるようになる方向です。

ただし、重要な留意点が2つあります。

 

① 「個人を特定しない目的のみ」という条件は厳しい AIモデルを作った後、その結果を使って「この人に融資するかどうか」「この人を採用するかどうか」といった個別の判断をする場合には、この特例の対象外になる可能性が高いです。

 

② 具体的な範囲はまだ確定していない どのようなAI開発が特例の対象になるかは、今後、個人情報保護委員会が定める規則やガイドラインによって明確化される予定です。現時点では最終的な射程範囲は確定していません。

 


4 同意不要の場面はほかにも広がる

今回の改正案では、「統計・AI開発目的」以外にも、本人同意が不要になる場面が追加されます。

 

たとえば、ホテル予約サイトが予約者の情報を宿泊先ホテルに渡す場合や、銀行が海外送金のために送金者の情報を送金先銀行に渡す場合など、「本人も当然わかっているだろう」という状況では、同意なしに提供できるようになる方向です。

また、病院などの医療機関が医学研究のためにデータを活用する場面でも、従来より使いやすくなることが見込まれます。

 


5 規制が強化される面もある

今回の改正案は「規制緩和だけ」ではありません。悪用に対するペナルティも大幅に強化されます。

 

課徴金制度の新設 1,000人を超える大規模な個人情報を不正に取得・利用した事業者には、得た利益の相当額が「課徴金」として課されます。これまでの命令・罰則だけではなく、経済的なペナルティが加わることで、企業への抑止力が大幅に強化されます。

 

顔画像・顔特徴データへの規制強化 顔認識AIを開発・利用する企業は特に注意が必要です。顔特徴データについては、取扱いに関する周知の義務化、本人からの利用停止請求の要件緩和、オプトアウト(本人が拒否できる仕組み)による第三者提供の禁止、といった規制強化が予定されています。

 

子どもの個人情報への保護強化 16歳未満の子どもの個人情報については、保護者(法定代理人)からの同意取得を明文化し、「子どもの最善の利益を優先する」という責務規定が新たに設けられます。教育サービスや子ども向けアプリを提供する企業は見落とさないよう注意が必要です。

 

本人からの利用停止請求の拡大 顔画像など身体的特徴に関する個人情報については、違法な取扱いがなくても、本人が「使わないでほしい」と請求できるようになります。

 


6 企業が今すぐ確認すべきこと

⑴ 自社が持つデータを整理する

どのような個人情報を持っているか、その中に顔画像・医療情報・子どもの情報が含まれるかを把握しておきましょう。

⑵ AI開発の「使い道」を明確にする

「個人を特定しない統計・モデル開発のみ」なのか、「特定個人への判断に使う」のかによって、法律上の扱いが変わります。AI開発の目的を社内で明確に整理しておくことが重要です(同法第17条第1項)。

⑶ 外部委託先との契約を見直す

AI開発会社やデータ分析会社にデータを渡す場合、契約書に以下の内容を盛り込むことが重要です。

  • 統計・AI開発の目的以外での利用を禁止する条項
  • 特定個人の識別・判断への利用を禁止する条項
  • データ漏えい時の報告義務
  • 契約終了後のデータ削除・返還

⑷ プライバシーポリシーを見直す

「どんなデータを集め、何のために使い、誰に渡すか」が明確に書かれているかを確認しましょう。顔特徴データを扱う場合は、新たに義務化される周知事項への対応も必要になります。

 


7 まとめ

今回の個人情報保護法改正案は、AI開発のためのデータ活用を進めやすくする重要な改正です。うまく活用すれば、これまで本人同意の壁があって踏み出せなかったデータ連携が可能になる場面が増えます。

一方で、「AI開発なら何でも使える」という改正ではありません。特例の範囲は今後の規則・ガイドライン次第であり、課徴金制度の導入や顔画像・子どもの情報への規制強化など、守るべきルールも増えています。

 

改正法案は現在国会で審議中です。今のうちから自社のデータ管理・契約書・プライバシーポリシーの見直しを進めておくことを強くお勧めします。

 


ソース一覧

  • 個人情報保護委員会「『個人情報の保護に関する法律等の一部を改正する法律案』の閣議決定について(令和8年4月7日)」  https://www.ppc.go.jp/news/press/2026/260407/

  • 個人情報保護委員会「個人情報保護法 いわゆる3年ごと見直しについて」(制度改正方針等の関連資料)  https://www.ppc.go.jp/personalinfo/3nengotominaoshi/

  • 個人情報保護委員会「個人情報保護法 いわゆる3年ごと見直しについて」(令和8年1月9日公表 記者配布資料)  https://www.ppc.go.jp/files/pdf/01-4_kisyahaifusiryou2.pdf

  • e-Gov法令検索「個人情報の保護に関する法律」  https://laws.e-gov.go.jp/law/415AC0000000057

  • 参議院「第221回国会 議案情報」  https://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/gian/221/gian.htm


本稿は令和8年4月7日時点の公表情報に基づく一般的な解説です。改正法案は現在国会審議中であり、今後の規則・ガイドライン等により内容が変わる可能性があります。個別の法律相談については弁護士にお問い合わせください。