神戸のかかりつけ弁護士

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神戸の弁護士 山根聡一郎のブログです。
「弁護士は敷居が高い」というよくある勘違い。これを勘違いだと気づいてもらうためにブログを始めました。かかりつけの弁護士がいればどんなに得かを知ってほしいです。
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はじめに

高年齢者の就業をめぐるルールはこの30年で大きく変わりました。

実務上の誤解や手続きの不備は、再雇用の可否や条件を巡る紛争につながります。

本ニュースレターでは、制度の全体像と、現場でまず整えておきたいポイントを、専門家でなくても読みやすい形で整理します。

 

1.制度の全体像(ここだけは押さえる)

現在の基本線は、

①60~65歳は「雇用確保措置(定年引上げ・継続雇用・定年廃止)」が義務、

②65~70歳は「就業機会の確保」が努力義務です。制度の流れは、1986年に高年齢者雇用安定法(以下「高年法」)が整備され、

1994年に60歳定年が義務化、2004年に雇用確保措置の義務化、2012年に「希望者全員を65歳まで継続雇用」が原則化、

2021年施行の改正で65~70歳の就業確保が努力義務となりました。

 

要するに、65歳までは会社側の受け皿を確実に用意し、65歳以降は可能な範囲で就業の場を確保するという考え方です。

 

2.65歳までの継続雇用:「希望者全員」とその例外

継続雇用は「希望者全員」が原則です。

ただし、就業規則に明記した事由に当たる場合には、例外的に不再雇用とできる余地があります。

典型例は、①心身の故障などにより業務に明らかに耐えられない、②勤務状況が著しく不良で職責を果たせない、③重大な非違行為がある、等です。

 

この「例外」を適正に扱うには、

①基準の事前明確化、

②面談記録・評価・医師意見などの証拠化、

③判断過程の説明可能性の確保が不可欠です。

ここが曖昧なまま不再雇用を選ぶと、後日、相当性や手続の適正が厳しく問われます。

 

3.紛争のポイント(最高裁の示した視点)

再雇用を巡る紛争では、基準に適合している人を会社が不再雇用とした場合の相当性が大きな争点になります。

最高裁判例は、継続雇用への合理的な期待があるのに、基準を満たす人を理由なく断ることは社会通念上相当とはいえないという厳格な見方を示しています。

一方で、高年法の規定違反が、直ちに私法上の地位(再雇用の当然の権利)を生むわけではないという理解も併存します。

結局のところ、①規程の明確さ、②個別事実の記録、③労働条件の特定(職務・時間・勤務地・賃金の決め方)が、結果を大きく左右します。

 

4.65~70歳の取扱い(努力義務の設計)

65歳以降は努力義務の領域です。

ここでは、①継続雇用だけに限定せず、

②業務委託や社会貢献事業への参加なども選択肢として設計し、

③その手続と同意の取り方を社内規程・内規で明文化しておくことが重要です。

説明可能性が確保されていれば、本人・会社双方にとって納得度の高い運用がしやすくなります。

 

5.実務で今すぐ整えるべきこと

まず、規程と内規の棚卸しを行い、

①対象者の範囲、

②判断基準(能力・健康・懲戒歴・勤務状況等)、

③手続(申請→面談→決定→通知)、

④不合格時の理由開示の方針を、誰が読んでも分かる文章にします。

 

次に、労働条件の特定性を高めます。

①職務内容、

②勤務地、

③所定労働時間、

④賃金の決め方と改定時期を、

書面で分かるようにしておきます。

 

さらに、運用の標準化として、

①面談記録の様式、

②評価表、

③医師意見の取得手順、

④書類の保存期間を定め、判断の根拠が後から検証できるようにします。

 

不再雇用を検討する場面では、少なくとも

①事実の特定、

②資料の整合、

③代替配置の検討、

④合理性の記録化

の4点を、抜け漏れなく行ってください。

これだけで、後日の説明や紛争対応の難易度が大きく下がります。

 

おわりに

定年後再雇用は「制度があるかどうか」だけでなく、「明確なルール×適正な手続×検証可能な記録」で初めて安全に運用できます。

規程の見直しや個別事案の判断に不安がある場合は、早めにご相談ください。

貴社の実情に合わせた文言設計と運用フローをご提案します。

 

参考資料

・竹村和也・高谷知佐子「多様化する働き方と労働法—定年後再雇用に関する法改正と裁判例について」『自由と正義』2025年4月号(日本弁護士連合会)。

・高年齢者雇用安定法(特に9条、2021年施行改正条項)。

・最高裁平成24年11月29日判決(津田電気計器事件)ほか、再雇用・雇止めに関する主要裁判例。

(※本ニュースレターは一般的情報の提供であり、個別案件に対する法的助言ではありません。具体の判断は、事実関係・就業規則・個別合意等に即して検討が必要です。)