中国語に顶风作案(頂風作案)という言葉があります。今までこの意味がいまひとつ分かりませんでした。しかし最近、とある揉め事のおかげで理解が深まりました。

 

 

「頂風作案」の意味

 

直訳すると「風に逆らって犯罪を犯す」で、意味としては「社会的な圧力があるなかで違法行為や問題行動を起こすこと」だそうです。
主に政治の場で使われるらしく、用例として紹介されているのは「汚職が問題となっている時に汚職事件を起こすこと」みたいな、実用性のなさそうな説明ばかり。

 

しかし、調べものをしていて、一般人もよく使っているのを発見しました。

 

  用例1:この時期に日本に行くこと

 

▶日本への渡航自粛

高内首相の「台湾有事」発言が問題視された後、中国は日本への渡航を控えるよう通達を出しました。

 

▶それでも日本に行く人たち

こういう状況でも日本に行く人に対し、「“頂風作案”なことをしてけしからん」と批判する投稿を複数見かけました。

 

スクショ

(この時期に“頂風作案”にも日本へ行く人は、頭がおかしいか売国奴だ)

 

一方の日本に来る人たちも、自分たちの行為を“頂風作案”だと(自虐ジョークとして、あるいは言い訳のように)言いながら、日本を満喫する写真を投稿しています。

 

スクショ

(この時期に日本に行くのは“頂風作案”な感じがある)

 

スクショ

(“頂風作案”、思い切って行った。食べてよし、買ってよし、見てよし)

 

  用例2:この時期に日本人のライブに行くこと

 

▶日本関連のイベント中止が相次ぐ

11月半ばから日本関連のコンサートやイベントの中止が相次ぎました。半月ほどの間に60件を超える中止や延期の発表が確認されていて[小红书小红书]、現在も増加中です。

※浜崎あゆみさんの無観客公演の件は、中国のSNSでは誤報だとする記事や動画が拡散し、それと同時にそれまでの投稿がごっそり消された(あるいは検索に出なくなっている)

 

▶開催中止の基準は不透明

こうした規制について公式の通達はなく(政府は関与を否定)、開催可/不可の基準はよくわかりません。

 

28日に大槻マキさんのステージが中断されたことや、浜崎あゆみさんのコンサート中止の件は日本でも話題になりましたが、その後も複数のコンサートが開催されています(メイリアだけではない)

11月26日、広東省広州で開催されたw-inds.のコンサートに行った人は、「(突然中止になるかもしれない状況の中で)観客にも演者にも“頂風作案”な感覚があった」と書いています。

 

スクショ

 

▶余談

刻々と状況が変わるなか、中国のSNSでは日本音楽のファンたちが「広州の誰々のライブは無事に開催された!」「上海はもうだめだ!」と情報交換していました。不謹慎な例えですが、まるでポストアポカリプスものの映画で生存者のいる街を探しているような切実さがあって、ちょっとスリリングでした。

 

  日本でも中止が発生

 

日本で開催予定だったコンサートも中止になっています。

 

鄭伊健(イーキン・チェン)
香港の俳優、歌手
2025年12月5日に東京で開催予定だった。
11月25日「不可抗力の事由により」中止発表。
公演中止のお知らせ[2025-11-25 DISK GARAGE]

 

韋禮安(Weibird)
台湾の歌手
2026年1月4日に東京で開催予定だった。
12月2日(?)「諸般の事情により」中止発表。
イープラス

 

これは今回の規制と関係あるのでしょうか?

ちなみに、中国にも“頂風作案”なミュージシャンはいて、11月後半に複数のバンドやグループが来日公演を敢行しています。

 

  用例3:この時期に日本語で歌うこと

 

▶地下アイドルも日本語禁止

規制されたのは日本人だけではありません。日本語の歌も上演禁止になったようです。

 

北京の地下アイドル情報を発信するアカウントによると、「北京では12月の間、日本語の歌(の上演)が禁止になった」とのこと。(ほかの地域からも同様の報告がある)

 

スクショ

 

中国の地下アイドル界隈には、日本のアイドル文化が好きな人が集まっています。日本語の歌をメインにしているグループも多いため、対応に追われているようです。

 

▶『デス・ストランディング』コンサート

上海でバンダイナムコのイベントが中断された11月28日、同じく上海で、日本のゲーム『デスストランディング』のオーケストラコンサートが開催されました。そこでは「Minus Sixty One」という歌の日本語の部分が「ラララ」に変わっていたという報告があります。 

 

スクショ

 

そのコメント欄。同じコンサートに行っていた人の書き込み。

 

スクショ

(聴いている時は、演者が日本語ができないから「ラララ」にしただけだと思ってた。でも、終演後にみんなで日本語の歌を歌い始めたら、すぐに警備員が来て「日本語で歌うな」と止められた。今思うと、最近の状況が特殊だからかもしれない)

 

この件の詳細はわかりませんが、一般人が歌うことまで禁止できないと思うので、これは「着物コスプレを排除する警官」みたいな「現場の判断」のような気がします。明確なルールがないなかで、こういう人が出てくると厄介ですね。

 

▶アニメファンの抵抗

SNSでは、“頂風作案”だと言いながら日本語で歌う動画を投稿するアニメファンも見かけました。

 

こちらはイベントで中断された「memories」を演奏する動画のタイトル。投稿者にとって思い入れのある曲だそうです。

 

スクショ

(頂風作案|大槻マキは中断させられた。私たちが続ける)

 

  ダンスのイベントにも規制が

 

ランダムダンスのイベントでも、日本語の曲に規制が入っているようです。
※ランダムダンス…主にアイドルのダンス曲を流して踊るイベント。

 

以下は、各都市の状況について質問する投稿のコメント欄。地域によって対応に差があります。

 

スクショ

(日本語の曲を流せない地域もある。成都と重慶はまだ大丈夫だけど、告知やプレイリストには日本語が使えない)

 

スクショ

([広東省の]私たちのところのプレイリストは全て変更になった。日本語の曲は25%までにするよう言われた)


ランダムダンスは公共の場で行うことも多いようです。これが誰かからの命令なのか、あるいはトラブルを避けるための自主規制に近いのかはわかりません。

 

日本の音楽にひと時の別れを告げる

 

中国のSNS(小紅書や微博)を軽く眺めた程度ですが、日本音楽のファンは今の状況をあまり楽観視していないようです。

 

SNSでは多くの人が「エヴァンゲリオン」のセリフをもじって「再见了,所有的日音」(さようなら、すべての日本音楽)と投稿しています。

 

スクショ

 

たぶん、若い人が多いのかもしれません。尖閣諸島問題で日本のエンターテインメントが規制されたのも、もう10年以上前です。

近いうちに、また日本の音楽やアニメを堂々と楽しめる日が戻ってくることを願っています。

 

完了 おしまい