とある人が歌っていて気になった曲があります。「流浪記」という曲なんですが、軽い気持ちで調べ出したら思いのほか複雑でした。記録します。
まず最初にたどり着いたのは、台湾の楊宗緯(アスカ・ヤン)が中国のテレビ番組でカバーしたものです。どうやら、中国で一番知られているバージョンのひとつのようです。
「流浪記」楊宗緯 Ver.
2013年『我是歌手』第1シーズン
動画内のクレジットには「原唱:紀曉君」と書かれていますが、紀曉君 (サミンガ) 版もカバーでした。
「流浪記」紀曉君 Ver.
2001年
この曲はプロアマ問わず広くカバーされていて、その多くがこの2つのバージョンを元にしているようです。
正直なところ、両方とも好みではなかったんですが、その後にたどり着いたオリジナルは編曲も歌い方も全く違っていて驚きました。断然こっちの方が好きです。
Panai「Panai流浪記」
2000年 1stアルバム『泥娃娃』収録
作詞/作曲:Panai(巴奈)
歌詞:KKBOX
※ 複数のサイトでタイトルが「Pauai流浪記」と表記されているが、間違いなのか何なのかよくわからなかった。
配信サイト アーティストページ
Amazon Music
Apple Music
Spotify ほか
この曲が収録されたアルバムは発売当時から高く評価されたそうで、日本版CDも発売されました。
パナイ『パナイ放浪記』
2003年
歌の内容としては、故郷を離れた主人公が都会でタフに生きようとするも、純粋さが失われていくことに哀しみを覚える、みたいな感じでしょうか? 淡々としながらも力強いPanaiのボーカルが素晴らしいです。
Panai(巴奈/パナイ)
1969年台南市生まれ。台湾の原住民族であるアミ族とプユマ族の血を引く歌手。
《参考》
ミュージックステーション(2021-03-22)先住民族歌手、巴奈Panai Kusui - Rti 台湾国際放送
Panaiは原住民の権利回復運動にも積極的に取り組んでいて、「Panai流浪記」も、故郷を追われた原住民の歴史と重ね合わせて聴かれたり歌われたりすることがあるようです。
オリジナルを聴き、この曲が民族的なアイデンティティと深く結びついた曲だと知ると、多くのカバー版にはどこか物足りなさを感じます。プユマ族の紀曉君(サミンガ)をはじめとして、台湾の歌手は歌の背景をわかっていると思いますが、その外側では、歌唱力の高さを披露する/鑑賞する曲として広まっている印象も受けました。
林班歌
台湾原住民の労働歌として生まれた音楽に「林班歌」と呼ばれるジャンルがあり、「Panai流浪記」のなかで引用されています。
曲の冒頭で歌われているのは「流浪到台北」という歌で、生活のために仕方なく都会へ出稼ぎに行く若者の哀しみが歌われています。
(終盤には「老實年輕人」という林班歌も歌われている)
この「流浪到台北」は台湾で様々な人に歌われたり、楽曲の一部として引用されたりしています。
カバー(?)
・「流浪到台北」王富美(阿荻絲)
歌のなかで引用(順不同)
・「情人流浪記」(情人的眼淚) MATZKA樂團
・「珍重」林廣財
・「流浪劝世歌」陳明仁&伍美珠
《参考》
・「原音‧林班歌」,分享原住民的時代歌曲「林班歌」| 講客廣播電臺
・一首原住民都市流浪之歌的誕生與傳唱:〈流浪到臺北〉之傳唱、填詞與接力 -原住民族文獻
おしまい