ボクシングで減量ならぬ"増量" 1週間で6キロ増しヘビー級挑戦

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ボクシングで減量ならぬ"増量" 1週間で6キロ増しヘビー級挑戦
[写真]ヘビー級転向の石田順裕(グリーンツダ)

■元ウェルター級暫定王者がヘビー級転向

 元WBA世界スーパーウェルター暫定王者、石田順裕(グリーンツダ)のヘビー級転向を公開で査定するという“ランキング入りテストスパーリング”が11日、後楽園ホールで行われた。石田のこれまでの主戦場は、ミドル級で、一気に4階級アップとなると異例の事態。JBCは、この過去に例のない転級に対して、「ヘビーウエイトで戦えるかどうかのテストが必要だ」と判断。金子ジムの4勝3敗の4回戦ヘビー級ボクサー、大和藤中との3ラウンドのスパーリングが組まれた。


 1ラウンドは、完全な様子見。左フックを浴びる場面があってJBC職員から「クリンチ、ホールドはやめてもっと打ち合いなさい」と注意を受ける始末。それでも2ラウンドに入ると、ショートレンジからのボディ、アッパー、フックなどコンビネーションと手数で圧倒して、これまで海外リングで試合を重ね、あのWBA世界ミドル級王者、ゲナジー・ゴロフキンとも戦った“サムライボクサー”の片鱗を見せた。
 「ヘビーは圧力を感じましたね。相手の選手が110キロを越えていたので正直怖さもありました。もうお腹一杯で吐きそうです」

■減量が”代名詞”のボクシングで増量

 今回のテストスパーは、急に決まったため、ほとんど練習ができておらず、しかも、ヘビー級のリミットに合わせるため、1週間でなんと6キロの増量をしてきた。ラグビーの元日本代表、大畑大介にも相談。大畑からは「加圧トレをうまく取り入れ筋量を増やしてはどうか」とアドバイスをもらい、ボディビルダーの指導の元、フィジカルトレーニングを行なってきたが、今回は筋肉で増やすのは間に合わない。

 他の階級ではリミットまで必死に減量するというのがボクサーの常識だがヘビー級では90.7キロ以上という規約がある。石田の普段の体重は84~85キロなので、今回は6キロを一気に増やさねばならなかった。一日5食。「体重を増やすにはタンパク質がいいと聞いたので」と、肉、魚、納豆などの高タンパク食品を一食につき200グラム、ドンブリ飯を何杯も胃に詰め込んだ。計量は、この日行われ、石田は、91.6キロでクリア。ミドルのリミット72.5キロからは19.1キロの増量となった。



■ヘビー級ランキング入りで次戦は日本王者

 自慢の腹筋も割れておらず、思うように動けなかったのも無理はない。それでも相手を務めた大和は「手数とコンビネーションについていけませんでした。京太郎選手ともスパー経験はありますが、その部分は、石田さんが上に感じました」と脱帽。今月末のランキング委員会を経て、晴れてヘビー級の日本ランキング入りが認められれば、いきなり4月30日に後楽園ホールで、日本ヘビー級王者、藤本京太郎(角海老)へ挑戦するカードが組まれる予定だ。

 ヘビー級テストを無事に“合格”で終えた石田は、「スピードをどれだけ上に持っていけるのか。そこで勝負したいが、インファイトにも応じるつもり。それにしても次は準備が必要。95キロまで筋肉で増量してから絞り込んでいくようにしたい。京太郎君の評価は低いらしいが、カウンターも打てるし上手さもパワーもある。僕との試合では、前に出てくるだろうし難しい部分もある」と、先を見据えた。

■日本王者「石田とは対戦したくない」

 その対戦相手となる京太郎はリングサイドで観戦していた。これまでは「石田選手とはやりたくない」とだだをコネていたが、この日は「おそらく今日の出来が最低ラインなんでしょう。手数とスピード、コンビネーションもある。ボクシング界のためには面白い試合になるんじゃないですか」と余裕のコメント。

 56年ぶりに日本ヘビー級王座が復活したものの、早くも有力なランキングボクサーが底をつき、消滅危機にあった日本のヘビー級戦線だっただけに“元世界王者”石田の参戦は大きなニュースだ。
 「僕も39歳。第二の人生に進む前のボクシング人生の最後に、なんかアホなことしてもおもろいやないですか。将来的にジムを開きたいし、そのために国内での知名度をもっと上げてから辞めてもええやないですか。3人の子供を抱え生活していかなあきませんから」

ヘビー級は”プランB”だった

 “引退マッチ”としてロンドン五輪金メダリストでプロ転向した村田諒太にターゲットを絞っていた。それを“プランA”と呼んでいた。だが、村田陣営は、東洋太平洋王者とデビュー戦を行ったことで日本人対決は卒業、2月にはマカオで試合を行うなど、目線は世界に向いていて、石田が、挑戦機会を手にする可能性は低くなった。

 そこで石田が考えたのが“プランB”と呼んだヘビー級挑戦。
「半分冗談のつもりが、いつのまにか本気になってきてしもたわ」

 波乱万丈のボクシング人生の締めくくりには最高の舞台なのかもしれない。

(文責・本郷陽一/論スポ、アスリートジャーナル(http://www.athlete-journal.com/))