舞台裏・WBA世界ミドル級タイトルマッチ⑥
~勝者と敗者~3.30モナコ
(傍でカメラを回し続けたTUG_manのブログより)
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見上げると無数のスポットライトがリングを焦がしている。まるで一番星だけをかき集めたプラネタリウムのようだ。
“パン!キュッ!パン!”
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リング上ではヘッドギアを着用したアマ式の試合が行われていた。
赤コーナーの選手が飛び込みながらのカウンターを実によく決めていた。試合終了。赤コーナの手が挙がった。
進行表によると次はクルーザー級10回戦だ。コンゴのハードパンチャー、イランガ・マカブが登場する。
これから本格的なアンダーカードが始まろうというその時、レッドシート付近が物々しい雰囲気に包まれた。会場にシークレットサービスが現れ、カメラを向けるとスッと目の前に立ちふさがった。
リングアナがマイク片手に読み上げる。
“みなさまモナコへようこそ!ボクシングの夜がやって来ました。ミリオンダラースーパー4、そしてミドルウェイトタイトルマッチの時間です!”
さあモナコ宴の始まりだ。
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ラウンドガールがモナコ国旗を掲げ、観客全員が起立した。モナコ国歌“モナコの賛歌”が場内に響き渡る。
モナコ大公、アルベール2世夫妻のご来場だ。
赤と白の国旗は王家の証。元祖フランソワ・グリマルディ公家に由来する。以来700年以上もの永きに渡り諸外国の侵入から城を守り抜いて来た。
1309年レーニエ1世が領主に即位し、その血統が御前のアルベール2世まで脈々と受け継がれている。
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“今夜、素晴しい戦いが見れる事を期待しています”
一見、華やかで優雅なイメージしかないモナコだがその地には幾千もの兵士達の流した血がしみ込んでいる。
それは闘争の歴史。戦いの日々だった。
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“カーン!”第一試合、開始のゴングが鳴った。
第3ラウンド。マカブの左フック一閃。ダウンを奪い、さらに猛然と襲いかかるとレフリーが試合を止めた。
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「3ラウンドで終わりましたね。どんどん前倒しになるんでしょうか。これ入れてあと4試合だから3時間後くらいですかね」
麻衣夫人はまだ余裕のある表情を見せている。ボクシングイベントに慣れないモナコの進行具合を気にしていた。夫の出番はあと数時間後だ。
続く第二試合もKO決着だった。ファーストラウンドノックアウト。倒されたボクサーがマット上でピクピクと痙攣し手足をバタつかせていた。
無意識下でもなお戦っているのか。勝利への執念か。
報われない努力もある。
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夢は一撃で打ち砕かれ一瞬で儚く消えた。敗者の闇が暗ければ暗いほど、傷が深ければ深いほど勝者の光は輝きを増し、その強さを際立たせる。
ボクシングの祭典。夜は更けて行く。
“数々のグレートファイトを演じた伝説のファイターをご招待しています。マーベラス!こちらへお上がり下さい”
拍手と歓声に包まれた。黒のダブルスーツに蝶ネクタイでビシッと決めた漆黒の戦士。マービン・ハグラーが挨拶をした。
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“私は24歳の頃、モンテカルロで試合した事があります。素晴しいファイトナイトでした。再びそんな日が訪れるなんて。熱くなって来ました”
突き刺すような目つきに現役時代の面影を残す。しかし表情は穏やかだ。拳を軽く突き上げ観客の声援に応えるとVIPシートへ戻って行った。
第三試合はヨーロッパスーパーウエルター級タイトルマッチ。石田順裕が尊敬するリッキー・ハットンの愛弟子、ラブチェンコが登場した。
“バン!ババン!”
硬質な打撃音が鳴り響く。ラブチェンコは開始から飛び出し、パンチの壁で相手を押し込んで行った。さすがハットン魂だ。
第2ラウンド2分過ぎ。ラブチェンコの左フックがモロにテンプルにヒット。またしてもKO決着だった。
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前座3試合全てが序盤KO劇。完全決着の流れ。
石田順裕のファイトプランも前半勝負だ。やるかやられるか。奇跡を起こす。相応のリスクもある。期待混じりの胸騒ぎがする。
昨晩のノリ隆谷氏の言葉を思い出す。
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「ゴロフキンは強いです。ただ強いだけじゃない、巧いです。それでも石田が勝ちます。石田のカウンターパンチが決まれば相手が誰でも倒せます」
チャンスが来れば1ラウンドで倒せると、そして8ラウンドでTKOすると力強く語った。石田順裕自身も6ラウンド以内に倒すと語っていた。1、2ラウンド速攻に勝機を見いだすチームISHIDAだがその必勝プランは二重構造になっていた。
ゴロフキンはこれまで全試合をかかったラウンド数で割ると4ラウンド以内に相手を仕留めている計算になる。
序盤、ゴロフキン怒濤のプレスを押し返す。もちろんここでKOチャンスが巡ってくれば一気に叩く。そうして主導権を握れば4ラウンド以降にも必ずチャンスがやって来る。中盤の山場。ここで仕留めようというのだ。
この一戦に関してよく引き合いに出されるカークランド戦。
ファーストラウンドで3度ものダウンを奪い、世界にISHIDAの名を轟かせた大一番。この勝利も実は計算し尽くされた作戦によるものだった。
「カークランドってあったでしょ。打ち終わりガードが下がるクセがあった。作戦通りカウンターでダウンを取れた。でもカークランドはコロコロ転がるだけで回復が早くパンチも生きている。あそこで行ったら倒されてるのはこっちの方なんですよ」
開始早々ダウンを奪った石田だがこの時まだ冷静に相手を見ていたと言う。試合が長引く事をも想定し、まずは左で牽制し距離を作った。事実再びダウンを奪うまで1分近く費やしている。
2度目のダウン。ここで始めてゴーサインだ。一気に試合を決めに行った。
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“早い回での勝負狙っています。モナコの奇跡を起こします”
3分12ラウンド。どの道判定などない。前半に全てを懸ける。真剣勝負。ファイトする。ゴロフキンをぶっ倒すか、オレがぶっ倒れているかだ。
イメージはできている。引かない。強く打ち抜く。気持ち次第。
やるだけだ。
石田順裕決戦の時は刻一刻と迫っていた。
リング上では勝者と敗者が熱い抱擁を交わし、健闘を称え合っていた。
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