舞台裏・WBA世界ミドル級タイトルマッチ 決戦当日~パパの背中~ 

(傍でカメラを回し続けたTUG_manのブログより)



$石田順裕オフィシャルブログ 「そんな時もあるやんか」by Ameba

30日。決戦当日、昼。外は雨降り。

ベランダからはモナコの街を厚い雲が覆っているのが見える。予報では夕方までには晴れるらしい。

12時間後には結果が出ている。あれだけ待ち望んだはずなのに、いよいよとなると時間が惜しい気がして来た。

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石田順裕は小松応援会長の泊まるVIPルームを訪れチームISHIDAの面々とスケジュールを確認していた。

「6時半くらいにここ出発です。食事は嫁さんが作ってくれたおにぎりとか食べます。あ、部屋に来たみたいなんでちょっと戻ります」

食事のほかにも会場入り前にやる事は山ほどある。石田順裕は簡単に打ち合わせを済ませると、いったん自分の部屋へと戻って行った。

6F。エレベーターのドアが開くと麻衣夫人、しおんくん、さらちゃん、お母様と、産まれて4ヶ月になるりくくんの姿が見えた。

りくくんは目元がお母さんそっくりだ。お腹の中では逆子だったため帝王切開での出産となった。この時、石田順裕はロスでこんこんと試合決定を待っていた。オレのリングはどこだ。

3ヶ月にも及ぶ海外生活。しかし一向に試合の目処は立たず、一時無念の帰国を果たした。

「本当は産まれてくる子どもの為にも、ファイトマネーを握り締めて帰りたかったです。まだまだ諦めません」

“このままじゃあ終われないです”

今やモナコの高級ホテルに家族を招くまでに至った。これから一世一代の大仕事、世界戦のチャンスを掴んだ。

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試合間近の一家団らん。ファミリールームに入った。

海外旅行で観光に来た家族であればバカンスモードでいっぱいだろう。しかしこの部屋は穏やかながらも張りつめた緊張感が充満している。

りくくんを抱っこしながらお母様が嬉しそうに話した。

「まさかモナコで試合ができるなんてねぇすごく光栄です。100年振りですってねタイトルマッチの試合するの。だから何かモナコ中の人が注目してるみたいで」

お母様ご一行は25日にモナコ入りしたが観光らしい観光はまだしていない。

石田順裕はバッグから試合で履くトランクスを取り出した。

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ゴールドを基調に左半分は赤色のスパンコール、右半分が白のスパンコールとモナコの国旗をイメージしたカラーデザイン。

偶然にも日本の国旗と配色は同じだ。さながら日本とモナコのコラボトランクスといった感じに仕上がっている。

トランクスをベッドの上へ置くと“WBAとIBOのワッペンをどこに配置しようか”という相談が始まった。前面には所狭しと企業ロゴが入っている。

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「これ後ろ面じゃあかんの?できれば前面にだって?そうかぁ」
「バランス的にはこっちかな。それともこうかな?」

多数のスポンサーワッペンでスペースがない。どこか嬉しくもある悩みだ。そうして大体の見当をつけると、お次は試合に招待したお客様の席をどうしようかと話し合う。

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「それとチケットはどうする?全部で何枚あるん。席どうする?」
「◯◯さんはプレスで入るから、2、4、6これが◯◯さんの分でっと」

ボクシングイベントとしては非常に稀なモナコでの開催。そのため日本にチケット窓口がなく、さらには興行に日本のプロモーターは関わっていない。石田順裕はこうした細かな対応も全て自分自身でこなしていた。

家族みんなで力を合わせて。

麻衣夫人はトランクスにワッペンを縫い付け、チケットの手配を請け負った。チームISHIDAの一員として夫を懸命にサポートする。

子どもたちは部屋でおとなしく遊んでいる。

しおんくん9歳、さらちゃんはまだ6歳だ。普通これくらいの年の子なら部屋中を駆け回り騒がしく遊びをねだるだろう。

もちろん普段は元気一杯だ。しかし今はそれをしない。パパとママの仕事を邪魔しない。それがボクたちにできる事。肌で感じている。

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「ボクシングはしいひん。しいひんよ。したくない」

しおんくんがミット打ちごっこを始めた。ワンツー、中々サマになっている。“大きくなったらボクシングはするの?”と聞かれるとしないと言った。

その間も石田順裕は言葉数少なに黙々と支度を進めていた。洗面台の前に立つと髭を剃り身だしなみを整えている。麻衣夫人はと言うと準備に追われる夫に替わってPCに文字を打ち込んでいた。

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『感謝』2013.3.30
皆様いつも応援ありがとうございます。
現在・・・モナコ時間14時、あと約8時間でゴングが鳴ります。
石田順裕、Team-Ishidaスタッフ一同、心から感謝しております。
輝かしいWBAミドル級のベルトを日本に持ち帰れることを楽しみにお待ちください!
~Team-Ishidaスタッフ一同~

ホテルを出発する時間まではあと4時間半。石田順裕はもろもろ他の準備を進めるため、また部屋を出て行った。せわしなく時が過ぎて行く。

外を見るとすでに雨が止んでいた。カモメが悠々と空を飛んでいる。

部屋の温度が上がったため暑がりの赤ちゃんが泣き出してしまった。お腹も空いているかも知れない。いや眠いのか。

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“ゲンコツ山のタヌキさん~おっぱい飲んでねんねして、だっこしておんぶしてまた明日♪”

お母様はベランダへ出るとりくくんにミルクを飲ませながら子守唄を聴かせた。りくくんはすやすやと眠りについた。


石田順裕が長い海外生活を送っている間、家族には寝る前に日課としている習慣があった。それは写真に向って挨拶をする事だった。

「ぱぱ、おやすみー!」

写真の中のパパ。肩からチャンピオンベルトを下げている。

久しぶりにあったパパ。これから決戦のリングへと向う。

すぐ脇のソファーには試合のパンフレット。戦ってるパパがいた。

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「試合ボクも観に行きたい!行きたい!行きたい!」

しおんくんが急にパパの試合を観に行きたいと言い始めた。ベッドの布団に顔をうずめ会場へ連れて行ってほしいと大声で何度もお願いした。

パパの試合開始は夜中の11時からと遅い。「そんなん言うても連れてかれへんもん。お留守番しといてよ」会場入りにはドレスコードがあり入場年齢制限も設けられてた。

「なんで行かれへんの?もう観られへんかも知れないのに!」

子どもは思っている事を素直に口に出す。それでもパパがいたら言わなかっただろう。我慢していた言葉でママを困らせる。

「子供は行かれへんの。我慢しとき。お兄ちゃん、さらの面倒も見なきゃあかんやん。また次があるやん。そん時また観れるやん」

大人が必至になだめすかす。しおんくんの気持ちは痛いほど分かる。それでもパパの試合を観たいのだろう。

「負けたら終わりなんやで!もう最後かも知れへんのに!」

勝利を信じる大人たちだってどこか頭の片隅には、少なからずこうした思いはよぎっている。これが最後かも知れない。

出掛けるママにしおんくんは布団に埋もれたまま一つだけお願いをした。

「それじゃ試合が始まったら電話してね!」

とは言え試合が始まる頃にはさすがに夢の中だろう。

“絶対に勝ってね。パパの試合が見たいから”

パパの背中。石田順裕は今夜、夢の舞台に立つ。


“ぱぱ、おやすみー!”


大丈夫だよ。起きたらチャンピオンベルトを肩から堂々ひっ下げて、パパがやって来るんだ。やったよって。勝ったよって。


写真のパパが、きっとそこにいるんだ。


そしたらボクはおめでとうって言うんだ。そうしてみんなで笑うんだ。



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