その5〈2024年7月22日〉
山口本、第4章『日本人の発明! 次世代大洋電池の主役・ペロブスカイト太陽電池』チラ見。
結局「発明した」のは日本人だ、と言うだけの話。
残念ながら、原料の鉛が有害物質であるため使用には厳しい制限があることが難点で、商業化に進めないうちに中国等に先を越されてしまったとのこと。
そもそも本件、日本のエネルギーにとってどのような意味があるのだろうか。
その6〈2024年7月22日〉
山口本第5章『都市部に眠る資源、新しい身近な再エネ』。
紹介されているのは豊橋市のごみ発電と、大阪のベッドタウン大東市の都市型木質バイオマス発電。
身の回りの出来ることはやろうとの心意気や良し。創意と工夫で困難に立ち向かう姿勢は大事だ。
だが、それぞれ1MWと5.75MW。
日本の総発電容量321GW(=321,000MW)への貢献度は極めて小さい。
以上。
その7〈2024年7月22日〉
山口本、第6章『ウクライナ危機で再エネ加速! 再エネ先進都市ドイツ・ミュンヘンの地熱活用』。
これまた身の回りで出来ることはなんでもやろう、ミュンヘン市では地下4千メートルにある地熱を発電、熱供給に称している、とのレポート。
残念ながら山口氏は、ドイツの電力はエネルギー全体に占める比率が10数パーセントでしかないという事実を知らないようだ。
手元にある資料(追記:「Energy Institute」「Statistical Review of World Energy 2024」、以下「EI統計集」。1951年から続いていた「BP統計集」が2022年版を最後に終了し、それを引き継ぐ形のもの。統計集は石油、ガス、石炭など化石燃料のデータが豊富。クリーンエネルギーへの転換を図るBPは、会社イメージに反するとして終了を決定した由。従前より、BP統計集作成の手伝いをしていた「EI」が、若干カバー範囲を縮小して継続作成しているもの)によると、ドイツの2023年エネルギー消費量は11.31EXJ、発電量は513.7TWhで1.85EXJ相当。
ドイツは周辺諸国と活発に電力の輸出入を行っているので、発電量=消費量ではないが、電力が一次エネルギー全体に占める比率は」10数パーセントというのはほぼ正しいだろう。
ちなみにドイツの電源燃料別は次の通りとなっており、地熱発電は「再エネ」の一部となっているようだ。
水力を再エネに加算すれば53%となり、電源燃料の半分以上を再エネが賄っているのは事実。
石油 1.0 (単位:%)
ガス 15.1
石炭 24.9
原子力 1.4
水力 3.8
再エネ 49.2
その他 4.6
いずれにせよ再エネが一次エネルギー全体に占める比率は数パーセントである。
(追記:在独の方から「X」で「数パーセントというのは1990年ごろの話で、2023年は19.6パーセント、との指摘を受けた。もう一度、前述資料をチェックしたら、一次エネルギーに占める再エネの比率は22.8%で、水力を含めると24.4%と記載されていた。電力エネルギーの換算に誤りがあったようだ。申し訳なし」
また北西ヨーロッパでは、暖房需要が日本とは比べ物にならないくらい大きい。
したがって、地熱を発電ではなく熱供給減として利用するニーズが高い。
また、第1章の「業務スーパー」沼田さんの発言を引用して、日本では10本掘って1~2本程度しか当たらないが、ここミュンヘンでは「60本掘ってはずれたのは4本だけ」と記しているが、沼田さんは「地下1キロ、2キロ」すなわち、1,000メートルから2,000メートルが掘削対象と言っているのに対し、ミュンヘンでは4,000メートルだとのこと。この掘削震度の差が成功率の違いになっているのではないだろうか。
地下4,000メートルまで掘れば、どこでも地熱にぶつかる、と技術音痴の筆者思うのだが、どなたか技術に詳しい方、ご教示願います。
いずれにせよ山口氏は「木を見て森を見ず」の状態に陥っているのではないだろうか。
その8〈2024年7月21日〉
山口本、第7章『ドイツ、地方からの再エネ革命! 驚異の再エネ比率、ライン・分須リュック郡』。
この章も前章と同じドイツのある地方が風車(陸上風力)を導入したことで豊かになった、と言う話。
中で、ウクライナ危機でエネルギー価格が高騰しているが「私たちは心配していません。私たち石油が要りません。ガスも要らないのです」との地元民の発言を紹介しているが、風車の素材の多くにも石油化学製品が使われていることは知らないのだろうか。隣村への移動は電気自動車(EV)で済むとしても、遠くの国に行く場合は飛行機や船に乗らず、グレタさんのようにヨットで行くのだろうか。
章を読む合間に山口豊氏をネット検索し、浦和高校の後輩だと知って、生来の「おせっかい心」が増しているなぁ。
その9〈2024年7月22日〉
山口本、第8章『識者に聞く 今解決すべき 日本の課題と処方箋』「#1再エネシフトは100年に一度の大チャンス」加谷珪一(経済評論家)
この方がどのような方か、まったく存じ上げないが、少なくとも石油ガスというエネルギーに関するリテラシーは極めて低い御仁のようだ。
冒頭から驚かされ続けているが、
「ロシアのウクライナ侵攻の背景に何があるとお考えですか?」と問われ、
「明らかにエネルギーシフトの過渡期に伴う痛みが原因の戦争」と応えているのは吃驚もの。
いわく、「再エネシフトは、ロシアにとって国家的な非常事態」だからなのだとか。
初耳の話だが加谷氏は、あたかも再エネシフトが明日にでも完成するとでも思っているようだ。
IEAが「2050年排出ネットゼロ工程表」を2021年5月に発表し、環境派ともども躍起になっているが、遅々として進んでいない現実をご存じないのだろうか。
「ある種の戦争行為というものを行って、石油や天然ガスの価格を高く誘導し、その間ロシアの国家収入を最大限高めて次の時代に備えたいという野心がおそらくある」のだとも述べておられるが、石油や天然ガスの価格がどのようにして決まっているのかもご存じないようだ。
また、再エネで賄えるのは電力のみで、電力が世界の一次エネルギー全体に占める比率は2023年実績で約17.4%に過ぎないという事実もご存じないのだろうな。
次から次へと驚かされるのだが、
「もともと石油は、アメリカがドル覇権の象徴として、ドルでの取引を各国に要求していた歴史的経緯がある」のだとか。
アメリカはいつ、どこの国に要求したのだろうか。
43年間、商社とその子会社でエネルギービジネスに従事し、リタイア後は10年間、エネルギーアナリストとして活動しているけど、聞いたことない話だな。
もう、止めよう。
最後に一つだけ加谷氏に聞きたいのだが、
「100年に一度のチャンス」ということは、エネルギーシフトが実現するのに100年かかるという意味ですよね?
(ベッドの中で思い出したので、歴史の中で一次エネルギー比率がどのように推移してきたのか、少々古いがグラフを添付しておきます)
出所:『天然ガスのすべて』森島宏「石油/天然ガスレビュー」2004/1・3
その10〈2024年7月23日〉
山口本、「第8章#2『希望と絶望のはざまで揺れる気候変動の行方』江守正多氏(気候科学者IPCCWG1第5次・6次評価報告書主執筆者)。
気候変動問題では日本の第一人者江守氏との対談ゆえ、気候変動問題に限っていえばまともな議論をされている。
だが、議論をそこで終わらせてはいけない。
また江守氏が「気候変動問題」について述べられていることは、エネルギー問題についてもまったく同じ事がいえる。
すなわち、多くの日本人は「関心の無い人が多い」し、「必要に迫られないと関心を持たない」のだ。
筆者の最初の本『石油の「埋蔵量」は誰が決めるのか?』(文春新書、2014年9月)をBS日テレ『久米書店』で紹介してくれた久米宏氏は「日本人のエネルギーリテラシーが低いのはなぜか?」との素朴な質問に、自らの平壌での経験を語り「それは日本に停電がないからですよ」と喝破されていた。
日本政府が国民に心配をさせないようにしていることが、実は国民の関心を失わせている面があるのだ。
同席していた店員壇蜜さんは「日本に石油開発の技術者って何人くらいいるのですか?」と小生が応えられない質問をしていたのも新鮮だったなぁ。
エネルギー問題を理解しないと気候変動問題は理解できないと筆者は思うのだが、江守氏はどう考えているのだろうか?
彼の書を探して読んでみよう。
何度も言うが、人類がいま直面している重要課題は「More Energy Less Carbon」(より多くのエネルギーを、より少ないCO2排出で供給すること)の同時解決だ。子供たちがLess Carbonしか語らないグレタさんの真似をするのはまったく賛同しない。
現在、地球上にいる約70数億人のうち、クリーンクッキングが出来ない人が20億人以上、電気を使えない人が7億人以上いるんですよ。
我々はこの問題も解決する努力をしなければならいのではないだろうか。