岩瀬昇のエネルギーブログ 74.アジアのLNGは買い手に有利な | 岩瀬昇のエネルギーブログ

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これは日本にとっては朗報だろう。

WSJが日本時間、今朝の5:50に報じているニュースだ。原題は”Asia’s LNG buyers get sweeter deals”

 要点は次の通りだ。

現在の全世界のLNG供給能力は年間415BCMBillion Cubic Meters)だが、2020年までに完成予定の建設中のものが176BCMある。約4割増になる。その内の73BCMはオーストラリアで、66BCMがアメリカである。

【筆者注:上記は、年間現有能力307百万トン、建設中130百万トン、内、豪州54百万トン、米州49百万トンのこと。ちなみに2014年実績は、全世界取引量247百万トン、日本輸入量89百万トン(BP統計集2015)】

大勢の見方は、現在の買い手市場は当分の間つづくだろう、ということだ。

アジア向けLNG契約では原油価格リンクが一般的であり、仕向け地条項もついた厳格なものである。特に福島原発事故以降の日本は、スポット契約で百万BTUあたり20ドル(以下、$/MMBTU)も支払わされたが、最近のスポット価格は$7/MMBTU程度に下がっている。ちなみに昨日のNYMEX終値は$2.89/MMBTUだった。

【筆者注:6倍すると原油価格($/BBL)になります。7ドルのLNG42ドルの原油相当】

今年末から始まるアメリカ産LNG輸出は、原油価格リンクではなく米国産天然ガス価格リンクとなるほか、仕向け地条項はついていない。

かかる状況変化を踏まえ、アジアの買い手は有利な契約条件を勝ち取ろうとしている。原油価格リンクではなく米国産天然ガス価格リンクにしたり欧州取引価格リンクにしたり、あるいは仕向け地自由の条件を勝ち取ろうとしている。・・・

以上の朗報には若干の解説が必要だろう。

まず、日本の電力会社は「停電をおこしてはいけない」という大命題があるため、基本的には必要量を長期契約で押さえている。従って、いま購入しているLNGは、ほぼ日本が輸入している原油価格に連動したものと見て良い。最近の原油価格から推定するに、百万BTUあたり10ドルから11ドル程度だろう。

一方、アメリカ産天然ガスを日本に輸入するには、購入ガス価格に液化コストと輸送コストを加える必要がある。日本勢も参画しているアメリカでの液化プロジェクト主体会社がどのような価格でガスを手当てできるのか、さらに液化コストと輸送コストがどのくらいかかるのか、不透明な部分があるが、これまでの各種報道から、ガスはNYMEX価格に少々プレミアムを乗せたレベルとし、液化と輸送コストを合わせて数ドル(67ドル)と見ると、現在のNYMEX市場価格(昨日の終値$2.89/MMBTU)をベースとして、日本着CIF価格は10ドル程度になると考えられる。おおよそ長期契約価格と同一レベルだ。

従って、欧州市場の動静によっては、手持ちのアメリカ産LNGを欧州に転売し、中東等の安いスポットLBGを購入することによりコスト削減が図れることになる。

一方、弊著『石油の「埋蔵量」は誰が決めるのか?』で説明した通り、LNGプロジェクトは巨額の初期投資を必要とする。従って、「建設中」のプロジェクトはすでに相当部分が長期販売契約締結済みのはずだ。

WSJ報道の「建設中」のもの以外に数多くの「FID待ち」プロジェクトがある。

FID」とは、Final Investment Decision(最終投資決断)のことで、プロジェクトの採算が見込める段階になって初めて行うものだ。また、必要資金が巨額になるため、銀行等からの融資が確約されることがFIDには必要だ。銀行等も、融資を決めるためにはプロジェクトが採算に乗っていることが前提となる。

アジアのLNG買い手が「有利な状況にある」とは、「FID待ち」プロジェクトのLNG販売契約交渉において、これまでの契約とは異なる、買い手に有利な条件での契約締結が可能な状態にある、ということを意味する。これらの交渉は当然、第三者には秘密裡に行われるため、内容を知ることは出来ない。だが、諸般の外部事情から推察するに、きっとそうだろう、ということだ。

原油価格の動静は依然として不透明だが、スポットLNG価格は当分の間、低位安定で推移しそうだ。この間にぜひ新規長期契約でも有利な諸条件を勝ち取って貰いたいと切に思う。