岩瀬昇のエネルギーブログ

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エネルギー関連のトピックス等の解説を通じ、エネルギー問題の理解に役立つ情報を提供します。

 トランプ大統領は1月3日、マドゥロ大統領を拘束し米国に移送した日の記者会見で、次のように述べた。

 

〈米国企業がベネズエラに何十億㌦もの投資を行い、崩壊している石油インフラを修復し、巨額の富を回収するだろう〉

 

 毎度のことだが、トランプの認識は「思い込み」か「淡い期待」か、あるいは自分に有利な政治状況を作ろうとする「悪だくみ」かのいずれかだ。

 

 読者の皆さんには正しいファクツを認識して貰いたく、本欄(エネブロ)でも何回かベネズエラ石油の実態をご紹介して来た。

 おそらくお読みいただいた上で疑問に思われたのだろう「FB友」が昨夜(1月24日)、次のような質問を寄せてくれた。

 

〈ベネズエラの天然ガスの採掘・搬出コストはどの程度なのでしょうか。

 全く設備がない状態からなのかと愚考しますが。〉

 

 これはこの「FB友」だけではなく、多くの方の脳裏に浮かぶ疑問だろう。ならば個別にお応えするのではなく、本欄で解説するのがベターだろうと書き出している次第だ。

 

 これまでの経験・知見から筆者は直感的に、次のように考えていた。

 

〈ガス田開発プロジェクトは、隣接するトリニダード・トバゴのアトランチックLNG用原料を目指したものがあったはずだが、政治情勢等の理由でまったく進んでいない。

 ベネズエラ領土内ではまったく聞いたことがない。

 だから、原油生産に随伴するガスの生産、その消費こそあれ、採掘・搬出コストが問題となるような独立したガス生産は行われていない、と。〉

 

 筆者が最初にチェックするのは1952年から毎年発行されている「BP統計集」であり、その後継の「EI統計集」である。

 

 ちなみにBPは、当時のバーナード・ルーニーCEOの指揮下「クリーンエネルギーのチャンピオン」企業への転身を目指すにあたり “BP Statistical Review of World Energy” と銘打った、石油・ガスのデータが満載の「BP統計集」の発行継続は望ましくないとして2022年以降、それまで一緒に作業して来た「Energy Institute」に「EI統計集」として発行して貰っている。

 

 「EI統計集2025」によると、ベネズエラの2024年の天然ガス生産量も消費量も、317億立米(31.7BCM)となっている。

 ちなみに世界全体の生産量は4,124.5BCMで生産量は4,127.8BCM、日本の消費量は90.9BCMである。

 

 分かりやすいように係数「1BCM=0.735LNG百万トン(MT)」を使って整理すると次の通りだ。

 

   世界生産量 30億3,200万㌧

     消費量 30億3,400万㌧

   ベネ生産量 2,300万㌧ (世界比0.77%)

   日本消費量 6,700万㌧ (世界比2.2%)

 

 ベネズエラの消費量が生産量と同一、というのは引っかかる。なぜならベネズエラのインフラはほぼ壊滅状態で、天然ガスを原料とする石油化学も、燃料に使う火力発電所や大規模製造工場などがあるとは思えないからだ。

 

 そこで、最近はきちんと引用元を示してくれるChatGTPクンに聞いて見た。

 すると、次のことが分かった。

 

・生産はほぼ全量随伴ガス。

・生産量は2024年、22.6BCM(OPEC統計)とEI統計集よりは小さい数値が示されている。

・興味深いのは、生産されたガスの46%が圧力調整のためフレアされており、8%が直接大気に放出、残りの46%が「消費」に回されていると見られるが、そのほとんどが油田への再圧入、すなわち生産効率を高めるEOR(回収増進法)と、自家燃(現場で生産活動に必要なエネルギー源)とのことだ(出所:Venezuela flared 46% of its 3,895 MMcf/d of natural gas production in 2024 - Energy Analytics Institute (EAI)

 

 つまり、通常の意味での商業的消費はゼロということなのだ。

 

 ご質問いただいた「FB友」よ、筆者の経験・知見に基づく直感がほぼ正しいようだ。

 商業用に消費されていることは皆無なので、採掘・搬送コストが問題となることはない、だからご質問への答えは「分からない」というしかないのです。

 

 もしベネズエラの炭化水素法(いわゆる石油法)が改訂され、国際水準に近いものとなり、同時に政治的安定がもたらされるようになったら、冒頭紹介したトランプの大言壮語が現実化する前に、隣国トリニダード・トバゴのアトランチックLNGの原料ガスとして、沖合のドラゴン・ガス田共同開発プロジェクト(シェルが関与)がいち早く動き出すのではないだろうか?

 

出所:米国が制裁を免除、トリニダード・トバゴALNGのバックフィルに向けてベネズエラDragonガス田共同開発へ

 

 いずれにせよ現在のロドリゲス暫定政権では無理で、大統領選をやり直し、ベネズエラに民主的政権が誕生し、政治情勢、社会的安定がもたらされることが前提条件だな。