UAE(アラブ首長国連邦)は4月28日、5月1日付でOPEC(石油輸出国機構)およびOPECプラス(2016年12月、OPEC加盟国にロシア等の産油国が参加して出来上がったプラットホーム。事務局はOPEC事務局が代行)から脱退すると発表した。
筆者は定期ブログ「岩瀬昇の相場報告&今日の気になること」5月1日欄に、『#579 OPEC脱退:UAEは賭けに勝つのか?』と題して所見を書いておいた(*1)。
基本的見方は今も不変なので、煩を厭わず該当箇所全文を転載しておこう。
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今日の気になること
「UAEがOPECを脱退」との日経記事に4月30日、池内先生は次のようにコメントを付して「X」で紹介していた。
〈UAEのOPEC脱退は「反サウジ」であることは常識として知るべき。イランの脅威への対抗は自国のみで、そしてGCCでまとまってできないという判断から、米・イスラエル側に全面的につく賭け〉
先ごろのジェッダにおけるMBS主催のGCCサミットを報ずる「アラブニュース」記事によると、トップを送り込んだのはクウエート、バーレーンとカタールだけで、UAEは副首相兼外相、オマーンはそもそも出席しなかった由。
ホメイニ師が唱えた「革命の輸出」に対抗するためサウジの音頭取りで結成されたGCCだが、カタール封鎖を行ったこともあり、必ずしも一枚岩ではなかった。
この度の米国・イスラエルによる攻撃に対抗し、イランが米軍基地を置くなど反イランと見られる湾岸諸国を攻撃したことに対してGCCがまとまって対応できずにいることにUAEが大きな不満を抱いている背景には、2020年のアブラハム合意により国交を樹立し、経済関係を深化させているイスラエルの存在があるのは間違いがない。
その意味で今回の「OPEC脱退」は、米国・イスラエルの側と心中するという非常に大きな決断なのだろう。
UAEが「反サウジ」であることを筆者は、サウジとUAEの間には「すきま風」が吹いていると評して来た。
たとえば「新潮社フォーサイト」2020年11月24日『サウジ・UAE「盟友関係」微妙な「すきま風」と腹の底』(*2)で指摘してきたように、石油政策をサウジの意のままにしていることへの反感や地域経済ハブを巡る軋轢が存在していた。そして昨年末、表ざたとなったイエメンを巡る対立がある。また、米イ停戦協議の仲介を試みているパキスタンに対する外交姿勢の差がある。
これらはすべて、独立時の領土問題が根底にある両国の紛糾が原因と見るべきだろう。
この文脈の中で池内先生は「OPEC脱退」もUAEが「米・イスラエルの側に全面的につく賭け」に出たと評価されているのだろう。
ではUAEは、他の地域組織「アラブ連盟」や「OIC」からも脱退するのだろうか?それとも、時間の経過と共にサウジと(表面的には)仲直りする形で、OPEC再加盟があるのだろうか。
今朝、イスラエルがイランの攻撃に対する防衛システムを急いで供与しているとの「FT」記事を読みながら、イラン戦争終了の中東・エネルギー秩序はどうなるだろうかと考え込んでいる。
イスラエルが望む様な「体制転換」が出来るのであればUAEの賭けは実を結ぶだろう。
だが、そうは行かないだろう。むしろ「負けない戦争」を遂行しているイランの意図がある程度実現した、あいまいな「停戦」、つまり、いつまた火を噴くか分からない形での、中途半端な均衡状態になるのではないだろうか?
その時、UAE以外のアラブ諸国は米国およびイランとどのような「関係」となるのだろうか? UAEは、前門の虎(イラン)、後門の狼(他のアラブ諸国、特にサウジ)に挟まれ、望むような中東経済のハブとして発展する道を阻害されてしまうのではないだろうか?
いやはや、分からない。
分からないことは安易に結論に飛びつかず、考え続けて行くしかない。
かくて勉強し続けるしかないのだろうな。
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前述「気になること」を含む定期ブログをSNS投稿後、筆者は3日間、関連情報を読んで見た。普段は見ることもない、一般に配信されている関連動画も覗いてみた。その結果、日本のエネルギーリテラシーの低さに改めて落胆している。
エネルギーリテラシーの低さを痛感した関連動画を一つだけ挙げておくと、「公式 池上彰と増田ユリヤのYoutube学園」2026年5月1日『そもそもOPECとは? なぜUAEは脱退する? 石油価格への影響などを含めて分かりやすく解説【イラン情勢】』(*3)がある。
冒頭からOPEC創設の目的、経緯、続いてOPECプラス形成への流れ等々、事実誤認がはなはだしくて、筆者が『石油の「埋蔵量」は誰が決めるのか?』を上梓したとき、「エネルギー界の池上彰さん誕生!」との販促キャッチフレーズに喜んだものだが、この動画を見た今は返上させていただきたいほどだ。
池上動画の誤りを確認するためにも、OPECがどのようにして、何を目的に設立されたのかについてご興味のある方はぜひ「文藝春秋SPECIAL 2017年秋号」に掲載した弊稿『石油支配を我が手に OPECを創った男たち』(*4)をお読みいただきたい。
あるいは、若い仲間に要請されて作ってみた動画「のびパパエネルギーチャンネル」の第7回(*5)をごらんいただければ幸甚だ。
さて、この3日間の勉強の成果をいくつかご紹介しておこう。
まず筆者が信頼しているエネルギーアナリスト、ジョン・ケンプが4月29日、「FT」に寄稿しているオピニオン記事 “UAE opens up an OPEC fissure”(*6) がある。
ジョンは本稿を次の通り書き出している。
〈すべてのカルテルは結局、失敗するものだ。カルテル外に新たな供給源が出現し、各国の環境を変えてしまうので対応に苦慮し、メンバー間に亀裂を齎すのだ。〉
〈OPECも同じだろう。〉
このように書き出したジョンは、UAEが脱退を決意した動機については多くの識者が指摘しているように「端的に言って、サウジ支配の生産政策を拒否する」ことだろうとしている。
そもそもOPECの目的は加盟国の収入増を図ることであり、組織のタテマエとして加盟国は平等の発言権を持っている。
それは「OPEC憲章」(*7)を読めば理解できることだ。
たとえば、加盟国には様々な国がいるので公平を期するため、公用語は英語と定めている。
重要事項については「全会一致」が原則である。
また、議長国はアルファベット順に交代することになっている。
OPEC月報にみられるように、各国の生産量データなどもアルファベット順に記載されている。等々。
1960年の創立以来、長い間この原則を維持してきた。
ところが、2019年9月8日、サウジがそれまでテクノクラートに任せていた「石油大臣」に王族、しかも実質的指導者であるムハンマド・ビン・サルマン(MBS)皇太子の実兄、アブドラアジーズ・ビン・サルマン(ABS)王子を任命したころから変質してきた、といえる。
一言で言えば、テクノクラート大臣の時代には「交渉と説得」を駆使して他の産油国の同意を得て来たのだが、生来「交渉と説得」を必要とされたことのない王族大臣は、そんな「技」は持ち合わせていない。「みんなは従えばいいのだ」という態度なのである。
その明らかな証左が2024年6月2日に開催された「対面」で行われたOPECおよび非OPEC有志8か国の大臣会合であろう。
直前までオンラインで全体会合を行う予定とされていたのだが、蓋を開けてみればサウジ、ロシア等8か国の大臣がリヤドに集合し、各国別各月別の減産緩和(=増産)生産量が合意され、発表されたのだ。明らかにサウジが各国大臣を呼びつけ、皆の前で各国の月ごとの生産枠を確認させ、その上でオンライン全体会合を行って公式発表に至ったのである。
集められた有志国とは、三段階からなっている減産の、第二段階(2023年4月合意、166万BD)および第三段階(2023年10月合意、220万BD)の減産に合意したOPECプラス内の大産油国(サウジを含めて)8か国だけだった。
出所:Opec+ agrees to extend deep production cuts into next year
第一段階の減産(2022年10月合意、200万BD)はOPECプラスとしての組織合意であった。だがそれ以降は、今日に至るまで4年弱、いっさい「組織決定」は行われていない。あくまでも大産油国の有志国だけで合意しているのだ。
つまり、昨今サウジは、他の小産油国を重視してはいないのである。
次にアブダビの首長にしてUAEの大統領であるMBZ、Muhamad bin Zaeed al Nahyanの人となりを分析、紹介している「FT」中東部門編集長のAndrew Englandの筆になる “MBZ, the Emirati sheikh who shook up the Gulf” (2026年5月2日、*8)である。
当該記事によると、イラン戦争が始まって5週間、イランから2800発のミサイルとドローンによる攻撃を受けたUAEは湾岸の“safe heaven”としての輝きを奪われた、それでもGCCとしてまとまってイランに厳しく当たれていない現状に大いなる不満を抱き、OPECから脱退することによってサウジに剣突を食わした、と。
サンドハースト(英王立陸軍士官学校)卒業生であり、イランとムスリム同胞団を潜在的脅威と認識しているMBZは、さらにポスト石油時代を睨んでナレッジベース経済の時代に先んずるべく、もはや”we are Arabs, we are Muslim”がキーワードではないとして、2020年のアブラハム合意で国交を樹立したイスラエルとの関係強化を進めてきたのだが、今回、改めて米国、イスラエル寄りの立場を明確にしたのだ、と。
そして、今もUAEのOPEC脱退に対して沈黙を保っているサウジについての “The silent treatment : Saudi Arabia’s long game for managing OPEC” という「FT」記事である(2026年5月3日更新、*9)である。
当該記事によると、今回のOPEC脱退発表はサウジにとってもショッキングなニュースで、事前に一切の連絡もなく正式文書が届くまで交渉の余地は皆無だった、いま重要なことは追随して離脱する加盟国が出ないことだ、5月3日に減産緩和(=増産)を進めている8か国有志国会議があるが驚きの決定とならないことが大事で、サウジとしてはUAEにいつでも戻れるようドアを開けておくだろう、サウジが他産油国に対して保持している「力」とは、言うことを聞かないと増産をして油価を暴落させるぞという「脅し」だが、現在はホルムズ海峡が「事実上の閉鎖」されているため使えない、UAEが乳製品等の食料をサウジからの陸上輸入に依存しているが、これを使ってしまうと両国の関係は回復不可能な事態にまで深刻化してしまうので使用しないだろう、とのことだ。
つまりサウジとしては、ホルムズ海峡の「事実上の閉鎖」が解消されるまで、断固たる措置は取れないだろう、というのだ。
これらの情報を総合的に考えると池内先生が喝破しているように、UAEは米国とイスラエルに自国の将来を賭けることにした、と判断出来るだろう。
では、UAEはこの賭けに勝てるだろうか?
筆者は、人口1,000万人、うち外国人が9割を占めるUAEは、やはり湾岸の“safe heaven” としての「輝き」を取り戻さなければ、海外からの投資を呼び込み続けることはできない、そのためにはイランと「敵対関係」にあり続けることはできないだろう。
また、周辺アラブ諸国はやはり “we are Arabs, we are Muslim” で団結しているので、これも無視はできない、ましてや地域大国たるサウジと「敵対」することは、国のよって立つ基盤を弱くするものだから得策ではないと判断している。
今回のイラン戦争が、まさにイスラエルの国策から出発していることを考えると、ガザ戦争で大イスラエル主義の貫徹を目指していることが如実になり、パレスチナの「二国解決」がイスラエルの視野に入っていないことがはっきりしたこともあり、トランプが仲介したアブラハム合意の目的であるイスラエルとサウジの国交樹立は当分、実現しないだろう。
結局はサウジと(表面的だけでも)仲直りしてOPECに再加盟する道を選ぶのではないだろうか?
そのためにもGCCやアラブ連盟からの脱退は行わないのでは?
本稿を書いている5月4日、UAEはOPECに加えOAPEC(アラブ石油輸出国機構=1973年の第一次オイルショックを引き起こした米蘭への石油禁輸を実行した組織)からの脱退を公表している。
UAEの、アラブ・イスラム離れがここで止まるか否かが当面の焦点と言えるのだろうか?
*1 エネルギー相場報告&今日の気になること #579 OPEC脱退:UAEは賭けに勝つのか? : 岩瀬昇のエネルギー相場報告&今日の気になること
*2 サウジ・UAE「盟友関係」微妙な「すきま風」と腹の底:岩瀬昇 | 岩瀬昇のエネルギー通信 | 新潮社 Foresight(フォーサイト) | 会員制国際情報サイト
*3 そもそもOPECとは?なぜUAEは脱退する?石油価格への影響などを含めて分かりやすく解説!【イラン情勢】
*4 文藝春秋SPECIAL 電子版 2017年秋号 / 文藝春秋【編】 <電子版> - 紀伊國屋書店ウェブストア|オンライン書店|本、雑誌の通販、電子書籍ストア
*6 UAE opens up an Opec fissure
*8 MBZ, the Emirati sheikh who shook up the Gulf
*9 The silent treatment: Saudi Arabia’s long game for managing Opec



