岩瀬昇のエネルギーブログ

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エネルギー関連のトピックス等の解説を通じ、エネルギー問題の理解に役立つ情報を提供します。

(カバーグラフは、2021年2月27日『インドネシア、中国・イランのタンカー摘発 経済制裁逃れの石油「背取り」か』のものです)

 

 渡邊英徳東京大学大学院情報学環教授が『中東発の原油を”日本行き“に積み替える――マラッカ沖のSTSが示す、エネルギー輸送の多重化とコスト増』と題する興味深いNo+eを公表している(*1)。

 かねてAISデータや衛星画像を収集、分析し、非常に有益な研究室を率いておられる教授だ。中身の濃い、きわめて有益なNo+eだといえる。

 

 渡邊教授は、同No+eの中で、サウジの紅海側やUAEのホルムズ海峡外側にあるフジャイラで船積みされた中東産原油がマラッカ沖で背取りされ、日本に輸送されている具体的な3つのケースを紹介している。これらが、コストがかかるが新たな輸送ルートとなっている、というわけだ。

 

 マラッカ沖合でのSTSShip to Ship=背取り)は決して珍しいことではない。

 

 かつては同国の生産量よりも多量のマレーシア原油を「輸入」していた中国は、最近では同じく同国の生産量よりも多いインドネシア原油を「輸入」していることが通関統計上、現れている、と「ロイター」が報じている(『中国のインドネシア産原油輸入が急増、イラン産の産地偽装で=貿易筋』、2025年11月24日、*2)。

 これらはすべて、制裁を受けている国々(イラン、ロシア、ベネズエラ)で産出された原油である。

 

 このようにマラッカ沖でのSTSは、すでに数年の実績を持つ確立された輸送手段なのである。

 

 そもそも背取りとは、通信機能が現在のように格段に進歩発展した時代だからこそトレース可能となったものだが、古くは南アが国連制裁破りに使用した方法だ。

 同国のアパルトヘイト政策への制裁として、国連は南ア向け原油販売の禁止を決議した。アラブ諸国も同調し、パレスチナを“不法占拠”しているイスラエル向けに加え、南ア向けには原油を販売しないことを申し合わせた。

 当時、原油ビジネスの端っこにいた筆者も、アラブ産原油販売契約の中に「アラブボイコット条項」なるものがあったことを記憶している。いわく、“Destination free except for Israel and South Africa”、すなわち、世界中、どこに仕向けてもいいが、イスラエルと南ア向けは禁止、という条項だった。

 ところが「蛇の道は蛇」、この条項をかいくぐって大儲けしたトレーダーがいた。組んだのはイランのシャーだ。

 イランは、アラブではない。だから「アラブボイコット条項」には縛られない、という訳だった。

 彼らは、イラン産原油を「Destination for order(仕向け地は追って指示する)」として船積みさせ、ペルシャ湾内で別のタンカーに積替え(背取りし)、南アあるいはイスラエルに輸送したのだ。当然、高値で販売できるので、トレーダーは大儲けである。

 

 渡邊教授のNo+eを読んでいて、最も気になったのは中東からマラッカ沖まで、積載原油のリスク&アカウント(危険負担と所有権)は誰が負っていたのか、と言う点だ。

 渡邊教授は、彼らの手法では積載原油の銘柄や産地は断定できない、としているが、リスク&アカウントの保有者も断定できないだろう。

 

 筆者は、本邦石油会社はマラッカ沖で、おそらくトレーダーから中東産原油を購入したのでは、と推測している。つまり、中東の船積み地からマラッカ沖までは、売主であるトレーダーがリスク&アカウントを所有している。だから高値で買わざるを得ないのではないだろうか?

 

 では、なぜ中東産原油を積載しているタンカーをそのまま日本まで運航させ、日本の港で受け取らないのか、という疑問が次に浮かんでくるだろう。

 

 これも筆者の推測だが、一つは不測の事故発生の可能性を極力抑えるために未知のタンカーを受け入れたくない、万が一にも環境汚染など引き起こされたら困る、そもそも付保が完全に出来ているか否か、チェックしなければならない、それよりはコスト高でもマラッカ沖で通常配船している既知のタンカーに「背取り」して輸入した方が総合的に望ましい、からではないだろうか。

 また、通常配船しているタンカーは長期傭船していることが多いから、遊ばせるわけには行かず、何としても有効活用する必要がある、ということだろう。

 

 いずれにせよ、イラン戦争により油価は高値に張り付いたままだろう。

 その上、輸送コストが従前以上にかかることになる。

 政府は、イラン戦争は簡単に終わらない、油価は当分下がらないことを前提に、政策を打ち出すべきではないだろうか。

 

*1 中東発の原油を“日本行き”に積み替える──マラッカ沖のSTSが示す,エネルギー輸送の多重化とコスト増|渡邉英徳研究室|渡邉英徳

*2 中国のインドネシア産原油輸入が急増、イラン産の産地偽装で=貿易筋 | ロイター