夜はマチネの劇場から一番近いであろう別の新宿にある劇場、シアタートップスで本多劇場グループX海外戯曲シリーズ第4弾Joe Penhallの「BIRTHDAY」を観た。
演出家の大澤遊と翻訳家の小田島創志、この二人を本多劇場グループがバックアップしての企画ということだ。
本多劇場がこんなプロジェクトを行なっていることを知らなかったので、これからは要チェックだと思った。
**** 演劇サイト より *****
エド(夫)(阿岐之将一)とリサ(妻)(宮菜穂子)にまた子供が生まれようとしている。妊娠しているのはエド。
NHS(国民保健サービス)管理下の病院で帝王切開に臨もうとしているが、病院は人員不足で、なかなか対応してもらえない。
ようやくやってきた助産師のジョイス(山崎静代)にイライラする2人。そこに研修医のナターシャ(石山蓮華)が現れ、「胎児の首にへその緒が巻き付いてる」と告げる。エドは無事に出産できるのか・・・
NHSの問題や白人ミドルクラスによる人種差別、男性目線で作られた社会の問題が見えてくる、皮肉の効いた傑作コメディ。
**********
このところ英語戯曲の翻訳としてあちらこちらで名前を見る小田島創志氏。特に現代の英国戯曲を積極的に紹介し続けていて、この企画にあたっているのも大いに納得が出来る。
そこで、もう一人の仕掛け人演出の大澤遊氏のプロフィールを読むと。。
日本大学芸術学部演劇学科卒。
演劇ユニット「空っぽ人間〈EMPTY PERSONS〉を主宰、すべての作品で構成、演出を手掛けるほか、新国立劇場『スペインの戯曲』、日韓演劇交流センター『少年Bが住む家』、劇団銅鑼『ボクの穴、彼の穴。』、世田谷パブリックシアター『ザ・シェルター』、水戸芸術館『ライフ・イン・ザ・シアター』などを演出。また『セールスマンの死』『出口なし』『図書館的人生 vol.4』『The Beauty Queen of Leenane』など、さまざまな舞台に演出補、演出助手として参加。
平成28年度文化庁新進芸術家海外研修制度の研修員としてイギリスのDerby Theatreにて1年間研修。
ということで、彼も英国演劇とのつながりが強いことがわかった。
第一弾「ダム・ウェイター」—by Harold Pinter
第二弾「BIRTHDAY」のリーディング by Joe Penhall
第三弾「ULSTER AMERICA」by David Ireland
そして今回の第四弾「BIRTHDAY」本公演と確かに英国、アイルランド人作家の作品が続いていて、これからどんな作品を紹介してくれるのか、楽しみでしょうがない。
今回の「BIRTHDAY」、観てみようと思った一つのきっかけが作家のJoe Penhallの名前があったから。
彼の「いま、ここにある武器」という作品を2016年に千葉哲也演出で風姿花伝で観ていて、面白かったというのがあり観てみたいと思ったのだ(実はその前、2007年に現地での評判が高かったことから急遽足を運びロンドンNational Theatreで同作品、原題Landscape With Weaponを観ていてとても面白かったので風姿花伝へと駆けつけた経緯もあり)。
「BIRTHDAY」だが、英国では2012年に(劇作家のための劇場)ロイヤルコート劇場で上演され、その後2015年にはテレビ映画の制作もされている(https://www.imdb.com/title/tt4370538/)。
余談になるが、そのテレビ映画で妊娠する夫を演じているのがStephen Mangan。個人的におバカなテレビコメディ「Green Wind」の彼が大好きで、まさに今回の妊娠でパニくる「BIRTHDAY」の夫役にはドンピシャだと信じている。—テレビ映画観てみたいな!
この戯曲が書かれた2012年のイギリス、保守党政権下で”ゆりかごから墓場まで”と謳われた福祉国家の体制に改革のメスが入れられ、その後さらに拡大していくことになるNHS(国民保険サービス)の弱体化が始まった。
その社会問題をウィットで指摘したのがこの戯曲(病院の人手不足、人材不足などが出産という通常なら命に関わらないであろう場面であるにも関わらず重大なトラブルを引き起こす)。さらにそこに社会に蔓延している男女格差、その格差に関する男女の意識の違いを盛り込んでいて、笑い満載のコメディ、秀逸なシチュエーションコメディであることは疑いがないのだが、そこに英国特有の社会風刺が効いている。
スローで使えないが悪気のない(?!)助産師をしずちゃん(山崎静代)が好演。このキャスティングはお見事!と手をあげるしかないだろう。彼女のキャラがこのコメディをコメディたらしめていたのは確実。
英国のコメディにはこの手のドタバタ、というか悪いことがどんどん重なっていってみんながわめき散らすというのが多く、役者もヒステリックになる演技を面白おかしくこなすというのが上手いのだが、これを日本でやるのはなかなかの難題と言えるかもしれない。その点で阿岐之将一には大きな課題が託されていたように思うが、出演者四人のチームワークでうまくまとめあげられていた。