最近マチネとソワレの間の空き時間に観た映画2本。

 

バティモン5

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パリ郊外(バンリュー)。ここに立ち並ぶいくつもの団地には労働者階級の移民家族たちが 多く暮らしている。再開発計画があるこのエリアの一画=バティモン5では、老朽化が進んだ団地の取り壊し計画が進められていた。
市長の急逝で、臨時市長となった医者のピエールは、汚職を追及されていた前任とは異なり、クリーンな政治活動を行う若き政治家だ。居住棟エリアの復興と治安改善を政策にかかげ、理想に燃えていた。一方、バティモン5の住人で移民たちのケアスタッフとして働くマリにルーツを持つフランス人女性アビーは、行政の怠慢な対応に苦しむ住人たちの助けになりたいと考えている。友人ブラズの手を借りながら、住民たちが抱える問題に向き合う日々を送っていた。
日頃から行政と住民との間には大きな溝があったが、ある事件をきっかけに両者の衝突は激化することになる。バティモン5の治安改善のために強硬な手段をとる市長ピエールと、理不尽に追い込まれる住民たちを先導するアビー、その両者間の均衡は崩れ去り、激しい抗争へと発展していく――。

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「ここにはあなたが知る「パリ」はない」の宣伝文句の通り、そこには花のパリ、美食のパリ、ファッションの都パリ、芸術のパリはない。でもこれが確実に、というかこちらが本当のヨーロッパの大都市パリの姿であるのだと思う。

移民、難民問題にある矛盾ー>受け入れたいがそうも言っていられない、、そんな”現実”が画面からこれでもかと訴えかけてくる。

マクロン大統領が今まさに直面している問題であり、このままでいくと予想としては極右政党の国民連合(RN)が下院選で勝利、それこそ移民政策にも大きく影響してくるだろうとみられている。

移民受け入れ反対の極右政党UKIPの台頭もありブレクジットに至った英国の先例もあるが、フランスもその轍を踏むことになりそうだ。

 

バティモン5人々が住む高層アパートはエレベーターがずっと壊れていて、住民はせまくて急な階段を使って昇降するしか術がない。映画では冒頭でその階段を棺桶を担いで降りるしかない環境を映し出す。人々はここは”死ぬのもままならない、通常通りにはいかない、そんな劣悪な環境の住居だ”とぼやく。

フランス語が話せない難民家族の年老いた父親、それでも彼は国を追われた身ゆえにここフランスで住むしかない。

 

前市長が心臓発作で急逝した後、その職に就いた小児科医のピエール。彼は現実を知らなすぎる理想主義者だったがゆえに大きな地図を描きながらそこにある木一本一本を蔑ろにし生きている樹木(人々)を壊滅させてしまう。

 

この映画がリアルですごいなと思うところの一つが出演者一人一人がそれぞれに矛盾を、それぞれに善と悪の両方を抱えているというところ。

例えば、ピエールにしても家族思いで善良な医者であることは明らかなのだが、そちら側を守ろうとするばかりにその反対側にいる人々=バティモン5の移民、難民たちを蔑ろにしてしまうのだ。彼らの生活、実態を想像できない、想像力が欠如しながら理想を掲げる政治家ほどやっかいなものはない。

 

あんのこと

 

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売春や麻薬の常習犯である21歳の香川杏(河合優実)は、ホステスの母親と足の悪い祖母と3人で暮らしている。子どもの頃から酔った母親に殴られて育った彼女は、小学4年生から不登校となり、12歳の時に母親の紹介で初めて体を売った。人情味あふれる刑事・多々羅(佐藤二朗)との出会いをきっかけに更生の道を歩み出した杏は、多々羅や彼の友人であるジャーナリスト・桐野(稲垣吾郎)の助けを借りながら、新たな仕事や住まいを探し始める。しかし突然のコロナ禍によって3人はすれ違い、それぞれが孤独と不安に直面していく。

 

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巷で大評判の映画「あんのこと」。

杏の壮絶な人生を追った映画で、やはり主演の河合優実の存在感が圧倒的。一世を風靡した山口百恵を彷彿とさせる。

杏の周りの人々—得に幼少期から虐待を続けていた母親—の悪影響もあるが、コロナという世界的パンデミックが及ぼした杏の人生の希望のすべてを断ち切ってしまった不幸 —人とのつながりを断ち切ってしまった— がこの悲劇の要因であると感じた。