新国立劇場バレエが良い波に乗っている。

 

今回は2008年に2010-14年に新国立劇場(NNTT)舞踊芸術監督だった英国人のデヴィット・ビントレーが在籍中に新作として創作し、NNTTで世界初演をした「アラジン」の再演。

 

NNTTで初演後、英国や米国でも上演され世界各地で大好評を博した作品で、ビントレーの代表作の1本となっている。

 

当日パンフレットの中で舞踏評論家の高橋森彦氏がアシュトン、マクミランに続く英国バレエの巨匠と称しているが、まさにその通りで、バレエ史に大きな事跡を残し続けている(やはり)天才と言えるのだと思う。

そんな人物が4年間NNTTバレエの芸術監督で導いてくれたこと、新しい風を吹かせてくれたことはとても大きなことだったとしみじみ思う。そしてそんなビントレーの系譜(バーミンガムバレエ出身)である吉田都現芸術監督がその流れをきちんと受け継いで、現在、波に乗っているバレエチームを率いてくれているのは本当に頼もしい限り。

そんな彼らは7月に「ジゼル」で初の海外公演、英国公演を控えている。

 

で、そんなビントレーの天才ぶりが随所に光っているこの「アラジン」、どこがすごいのかと言うと、

 

一言で言うと、これまでのバレエの枠を打ち破った何歩も先を行った新しいアイディアに溢れているところ。

 

振り付け、美術、衣装、演出、、人物のキャラクター、、、どれをとっても「これバレエなの?」「バレエでこんなのありなんだ」と言った新鮮さがてんこ盛りというところだ。

 

アラジンのキャラはノーブルなイケメン王子ではなく、人間味あふれた普通の、、というか貧しい母子家庭の家の息子。

そんなアラジンに扮したのが速水渉悟、アラジンを踊るのは今回が初めてだ。

彼の跳躍の軽さ、そして踊りの安定感もさることながら、今回のキャスティングがあたっているなと思ったのがその表情。

王子ではない市民の若者らしい、喜怒哀楽を前面に出し、ほとんどの場面で満面の笑みを見せながら踊り、アラジンの素直で勇敢な性格をみごとに作り上げていた。

 

砂漠の国(北アフリカ)の風土・文化を反映した衣装の中、驚いたのが第二幕の冒頭プリンセス(紫山紗帆ーこちらもNNTTでは初の当役でのキャスティング)が浴場で湯浴みをしているシーン。そこにいるお付きの女性たちは身体にバスタオルを巻き(衣装)、頭にタオルを巻いている。

そして、その浴場の舞台美術、照明がまたすばらしく、天窓から差し込んでくる陽光が湯気がこもった風呂場を見事に表現していた。

 

ランプの精ジーン(木下嘉人ーこちらも初キャスト)のディズニー映画から飛び出してきたような青い全身メイクも素晴らしい。

 

そして、そのジーンのランプからの登場シーンでは宙吊り、大量スモーク、、、と魔法の力をヴィジュアルで表現。

踊りだけでない、あれやこれやのものがたりを盛り上げる演出にワクワクせずにはいられない。

 

このファンタジーなものがたりをワクワクするエンタメ舞台に仕上げているのが、いわばバレエの醍醐味である踊りの部分、驚きのアクロバティックな振り付けにある。

 

トゥ(つま先)で立ち、上へ上へと伸び上がりその美しさが見せ所の従来のバレエプログラムの定石をあっさりと飛び越え、女性ダンサーが逆さまに持ち上げられ、逆さ状態で足を開閉したり、アラジンとプリンセスのリフトでもかなりの傾斜でプリンセスがえびぞりされたり、ハラハラするほどのアクロバティックな振り付けが多い。また、床にぺたりと腰をつけて語り合うシーンもある。

*ビントレーの就任当時、リハーサルを見学する機会があったのだが、そこでもかなり難易度の高い体操的な振り付けをカンパニーのダンサーたちが何度も練習していたのを思い出した。

 

、、、と見どころ満載のビントレー「アラジン」。

良い意味でエンタメの頂上にあるディズニーの世界、さらにはハリウッドまで感じさせる21世紀の超豪華エンタメバレエだった。