夜はバスで南下して三軒茶屋のシアタートラムで日本でも人気のアイリッシュの劇作家Enda Walshエンダ・ウォルシュの最新作を白井晃が演出した舞台「Medicine メディスン」を観た。

 

******** 演劇サイト より **********

病院らしき施設のなかの部屋。
パジャマ姿のジョン・ケイン(田中圭)が入ってくる。
そしてまもなく、ドラム奏者、
メアリーという名前のふたりの女性(奈緒と富山えり子)、
老人と巨大ロブスターがやって来る…

2021年イギリスでの初演から瞬く間に世界の演劇界を席巻した
エンダ・ウォルシュの最新作を待望の日本初演!

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ウォルシュの作品らしく(日本では「バリーターク」「アーリントン」が白井の演出で上演されている)、それが起こっているのがどこでいつなのかは不明、説明もない。ちなみに今回のパンフレットに作者が「僕は25年間、同じ劇を書いている。というか、ほんのわずかに形式が違う同じタイプの劇を」と言葉を寄せている。

 

状況から判断するにどこかの精神病院の中の一室で年に1回行われる、セラピスト、またはどこか国家機関から派遣された審査係?による患者=ジョン・ケインとの面接、彼が彼の人生を振り返り語るというプログラムの様子が続く。

 

問診によりカウンセリングを受けるべき患者が—「きょうの調子はどうですか?How are you today?(おそらく)」—という日常の軽い挨拶のあと、置き去りに、そしてなおざりにされる中、二人のメアリーは演劇的治療法でもってセラピーを行うのだが、圧倒的に、そして一方的にその場をコントロールしている彼女たちは自分達の仕事がつつがなく、目的通りの結果を生むことだけに専念しているようだ。

 

すがるような眼差しで、年に1回の貴重なチャンスに臨んだジョンだったが、その機会=セラピーが公正に行われることはない。彼女たちにとっては繰り返される仕事の一環、365日の中の1日なのかもしれないがジョンにとっては特別な1日。待ちに待った機会であるのに、まともにカウンセリングもされず、また世界の片隅に押し戻される。まるで何も起こらなかったように、、世界から忘れ去られたように。

 

ウォルシュ的表現の特徴である、馬鹿馬鹿しい喧騒と遊びの中、田中圭演じるジョンの孤独が広がる。

 

この孤独、途方に暮れた男を演じる田中圭が当たり役だ。

彼のあきらめの深さが胸を締め付ける。